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異世界化した現実世界を救済します  作者: アサクラ サトシ
第一章 『終末の咆哮』
29/143

025 『混戦(メイレイ)』

025です。

 僕が考えていた作戦は二階席から遠距離攻撃ができる魔導術士の虎猫さんと弓術士のエクスさんの二人で一階にある黒箱の破壊をしてもらう。残った近接の闘術士の僕、剣術士のポニテさんは一階に降りてすでに黒箱から製造された中級の鬼人種を排除する。そして、この作戦の要になるのはハンプティさんだ。レリック練度が低いハンプティさんに中級鬼人種の相手をしてもらうわけにはいかない。そこでハンプティさんには暗殺術士の俊敏性を活かして、二階席に封印されたレリック武器をライブステージにいる日輪さんたちに渡すことだ。

 囚われた日輪さんたちに武器が渡ればいくらかなり戦闘は楽になる。

 ただし、二階席にいる遠距離組は背後からの襲撃があるかもしれないので、妖精を常備出現させておくことが絶対だ。

「それと重要なことがもう一つ。エクスさんは黒箱にトラップ型があるかもしれない、と言うのはご存知ですか?」

「黒箱の方は知らないな。道端に設置されたトラップ型のレリックは日輪の件で知っている。というか、真悟くん? 君、なんでそんなに堅苦しい言い方しかしないんだ」

「口調に関しては癖だと思ってもらえれば……それはいいとして、黒箱のトラップを知らないのならなおさら妖精は出したままにして下さい。詳しい話は省きますが、黒箱を壊すと何かしらのトラップが発動するかもしれません」

「しかし妖精がいれば黒箱のトラップが識別できるのは道端と同じか……いや、黒箱を壊して発動すると確定しないからこそ『かも』という表現か。ということは時限式かそれ以外の発動条件のある可能性があると。なるほどね。厄介だ」

 エクスさんの表情が険しくなる。この人は表向きにはふざけているようにしているが物事の捉え方と導き出す答えを引き出すのが早い。

「なので、まずはトラップ型黒箱の有無を確認してください。ちなみにトラップ型であってもレリックモンスターは製造されます。僕ら近接は先に一階へ降りているので、エクスさんと虎猫さんはもしトラップ型の黒箱を見つけたらすぐさま報告して下さい。スキルを打って問題の黒箱を傷つけたくありません」

「わかった」

「りょーかい」

「それと、日輪さんのレリック武器を教えて下さい。現状においてレリック武器がカンストしているとわかっているのは日輪さんだけなので再優先でレリック武器を渡したいんです」

「日輪の武器は斧だ。あいつは重たい一撃を持っているから即戦力になるぜ」

 近接武器の中では最強クラスとも言える斧ならば期待はできる。

「ただなぁ。大丈夫かな、あいつ……」

「なにか問題でもあるんですか?」

「ひとことで言うと問題だらけだ」

 よくわからないけれど、エクスさんも言いたがらない様子だったので言及はしないでおいた。

 最後に中にいるレリックモンスターの確認だ。

「ライブホールにある黒箱は八箱。鬼人種の中級なら製造時間は三十分。日輪さんと最後の連絡が一時間半としたらあの中には最大で二十四体の鬼人種がいるはずです」

「現在のところ、中にいるレリックモンスターの数は十六体ですが、七分後には真悟さまが推測された数になります」

 リリィが補足を入れてくれた。

 中級の鬼人種はラクズーハだ。生体図鑑の詳細内容だと体長は下級鬼人種のラクラよりも若干大きく二メートル弱あったはずだ。それが十六体となると、身動きは取れるのか心配だ。

「ハンプティさん、ここのライブハウスはだいたいどれくらいの広さですか?」

「キャパは三百人がいいところかな。中型の黒箱が八で、さらに二十四の鬼人種だと身動きは取れるが、すばやく動くことは難しいかな」

「それは地に足をつけた状態でしょ? 忘れた? 私たちは適正者。地面がダメなら上があるでしょ?」

 ポニテさんが大剣を背負った。

「七分後には二十四体。それなら今のうちに叩いて頭数を減らそうよ。そうでしょ? 真悟くん?」

 機嫌が元に戻ったというよりやる気が勝ったというべきか。

「その通りです。僕からは以上ですが……質問は?」

 無言の回答。

「先行は僕ら近接三人。残り二人は僕らに続いて入って下さい。……では、行きます」

 足早に二階席へと繋がる両開きの扉を開く。防音の扉のせいか圧が掛かっている。が、適正者となった僕ならば少し力を入れるだけですんなりと開いた。

 中腰になって二階席へと足を踏み入れると、座席に三つのレリック武器が置かれている。話に聞いていた通り、包帯のような布で覆われているが武器の形状からして剣、槍、斧だ。レリック武器に触れてみたが、封印は解けそうになかった。

 ハンプティさんは僕に目で合図を送りながら日輪さんの斧を手にとった。

 ホール内は親切にも明かりが点ったままだ。一階のホールとステージを見下ろすと、地獄絵図のような光景があった。まさに鬼と称されたラクズーハがうろうろしている。こちらにはまだ気づいてないようだ。

 ステージに目を向けるとスポットライトを当てられた三名の適正者が座っている。男性が一人に女性が二人だ。三人とも疲れているようには見えないが、戦意は完全に喪失している。

 僕を含めた近接職は揃って二階席のフェンスに片足を掛ける。

「開戦」

 この一言により、近接職は一階へと降り立った。僕とポニテさんは群がるラクズーハを懇親の力を持って叩いていく。流石に交差点で戦ったラクラよりも皮膚の表面は硬いが決してダメージが通らないわけじゃなかった。

 斧を片手に持ったハンプティさんはラクズーハの頭を踏み台にしてライブステージを目指す。

 ラクズーハの攻撃を容易く躱してアッという間にステージ上へと着地した。

「お待たせ。エクスさんと一緒に助けに来たぜ。日輪さんってのは誰だ? あんたかい?」

 威勢のいいハンプティさんの声がこちらまで聞こえてくる。どうやら、男性に斧を見せたが男性は首を横にふる。

 すると、男性の横に座っていた女性がハンプティさんから斧を取り上げた。そして、武器を封印していた包帯のような布が剥がれ落ちていく。

「遅いがね! エクスカリバー。助けにくーならもっと早く来んさいや!」

 日輪さんは手にした斧を二階席にいるエクスさんに向けられた。どこの方言かわからないがドスが効いて非常に怖い。

「なんだよ、元気そうだな、日輪!」

「元気なわけあるか! こっちは生きた心地せんかったけんな! ウチは戦わんからな。助けにきたんやったらそれくらいのことはしてくれんと困るで」

 上から目線な発言にええーと言いたくもなった。日輪さんの怒りは天辺にまできている様子だし、僕らが何をいっても無駄な気がする。

「真悟くん。あいつを引っ張りだすのは無理だ。俺たちでなんとかしよう」

 エクスさんも諦めるが驚くほど早い。もうちょっと譲歩してくれても良い気がする。

「あんた、ふざけてんの!」

 ポニテさんが一撃でラクズーハを仕留めると、その剣先を日輪さんに向ける。

「こっちは、捕まったあんたたちのために助けに来たっていうのにさ。戦わないのはいいよ、別に。どうせ、あんたが弱いだけなんでしょ?」

 叫ぶポニテさんにラクズーハが襲いかかるがそれもまた一撃で倒す。

「はぁ、なにいってん……」

「まだ私が喋ってんの!」

 ポニテさんはラクズーハと戦いながら日輪さんに怒声を浴びせた。

「いい? 私たちに感謝しろとは言わない。そんな恩着せがましいこと言いたくないしさ。ただ、エクスさんにはありがとうの一言くらい言ってあげてもいいでしょ! あんたを助けるために、強い適正者を探してたんだ。それなのに、なんなのその態度! 根性がひん曲がって素直になれないか知らないけどさ、お礼の一言くらい言えってーの!」

 その言葉と共に、ポニテさんは周囲に群がってきたラクズーハ三体を輪切りにした。

「うっさいわね、あんたに言われなくても感謝しとーわね。そんなこと恥ずかしくて言えるわけ無いが。そんくらいわかれや」

 日輪さんは顔を真っ赤にしてポニテさんに怒鳴り返した。方言が入っているけれど、ニュアンスでなんとなく言っていることはわかる。

 これは……まさかのツンデレ。というか、リアルにツンデレする人を初めてみたかもしれない。

「だから! それを言いなさいって言ってんの! 今時ツンデレとか流行んないんだけど!」

「ツンデレいうなや! そげに口悪いと男が寄ってこらんけんな!」

「残念でした! 私にはもういますー。なにその方言。関西弁? 聞き取れないんですけど!」

「なんで関西弁になーや。うちのは出雲弁だけんな! 間違えんなや。このダラズ!」

「出雲ってどこ? 知らないんですけどー てか、ダラズなんて言葉もわかりませんけど?」

 なにこの舌戦。見ているこっちがはらはらする。ポニテさんはラクズーハなんてものともせず怒りに任せてどんどん倒している。

「シンちゃん! トラップの黒箱あった!」

 ポニテさんと日輪さんの口争いに負けない声で虎猫さんが叫んだ。

「あたしらから見てステージの左側にある黒箱。それがトラップだってシャムが教えてくれた」

「助かります。ポニテさん。とりあえず日輪さんのことはそのままにして。ステージ左脇に設置された黒箱は壊さないように注意して下さい」

「うん、分かった。真悟くん。気をつけるね!」

 日輪さんとの口喧嘩が嘘のように、優しい……というか猫なで声でポニテさんが答える。しかも笑顔なのがちょっと怖い。

「なに、そげな男が好きだで? パッとせん男に見えーけど?」

 ポニテさんの笑顔が鬼の形相に変わる。なんなのこの二人。何を争っているのかさっぱりわからない。

 僕も僕とでラクズーハを相手にしているので、手を休めるわけにはいかない。どう収拾つけていいんだ。

 僕の心配を他所にポニテさんはステージに飛び乗ると、大剣を日輪さんの首元に突きつけた。

「もういい、お前は死ね」

「誰に言っちょるで? 舐めんなや?」

 今度は日輪さんがポニテさんの腹部に斧の刃先を当てる。

「ちょっと、ふたりとも!」

 さすがに叫ばずにはいられなかった。助けに来ておいて、殺すとかありえない。僕は目の前にいたラクズーハの頭を両手で砕き、ステージへと駆けた。

 そんな僕よりもタイミングよく……というか運が悪いのか、ちょうど三つ目のレリック武器を運んだハンプティさんがポニテさんと日輪さんの間に割り込んだ。

「なにしてんの、あんたら! 喧嘩は後にしようって。いまはここから抜け出すことだけ考えよう。マジで!」

 足を震わせながらハンプティさんが男を見せた。そんなハンプティさんを無視するようにポニテさんと日輪さんは睨み合ったままだ。

「日輪!」

 二階席からエクスさんの怒声が聞こえた。

「現状を見ろ。戦いたくないなら、そこでジッとしてろ」

 エクスさんの一言が効いたのか、日輪さんはポニテさんを睨んだまま、レリック武器を放り投げた。

「いいよ、おとなしく助けられてやーわ」

「そうして。私も好きで殺したくはないから」

 捨て台詞を吐いた後、ポニテさんはステージから降りて、近くにいたラクズーハに向けて最大火力に達したスキルを放った。ポニテさんの視界に入っていたラクズーハたちは、大剣から放たれた巨大な闘気の斬撃に飲み込まれる。それでもなお闘気の斬撃は勢いを保ったまま、一階フロアの壁に当たり大きな穴を空けてしまった。

 僕のことを貶されて怒ったのはわかるけれど……こんなスキルを日輪さんに浴びせようとしたのか。本物の殺意を抱いていたのがよくわかった。

 呆然としている僕らに上から虎猫さんの叫び声が再び聞こえた。

「シンちゃん、みんな! 余所見しないで! ラクズーハたちが例の黒箱に!」

 僕らは一斉にしてステージ左脇に設置された黒箱に視線を向けると、そこにはラクズーハたちが黒箱に群がり破壊し始めていた。

最後まで読んでいただきありがとうございます。


作者自身、日輪は好きなキャラクターです。

受け入れてもらえるといいのですが、不安もあります。


次回投稿は10/16です。


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