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異世界化した現実世界を救済します  作者: アサクラ サトシ
第一章 『終末の咆哮』
23/143

019 『学校(スクール)』

019です。


※ 10/5 本文修正。

※ 10/6 本文追加修正。

 幾つかのビル屋上を飛び越えて、ポニテさんたちが集まる屋上へと着地した。すぐ真下は文化村通りになっていて、このビルの正面にあるのは五階建てのビルだ。僕らが着地したこのビルからでは向こう側へ飛び移ることは容易でないことは確かだ。

 そのビルの左は小道を挟んで更に高いビルが建っている。一階から最上階までのテナントすべてが海外のユニクロと呼ばれる大手ファッションブランドとなっている。こちらのほうは正面のビルよりも高く、飛び移ることは不可能だ。

 となると、ここからは地上からの移動となるのかと考えが及ぶ。左右のビルの谷間に見える小道をまっすぐに進めば宇田川町の交番だ。降りて移動するとなればここからなのだが、みんなそれぞれの妖精を出して通りを見ている。

 手はず通り、トラップの有無を妖精に確認させているのだと思うのだが、なんだか様子がおかしい。三人とも会話をせずにただじっと文化村通りを眺めているのだ。

「みんな、どうしたんですか?」

 僕が三人の背中に声を掛けると、ポニテさんだけが振り返った。

「真悟くん……あれを見て」

 硬い表情をしたポニテさんが通りを指差した。

 僕は三人と肩を並べるようにしてビルの縁へと立って通りを見下ろした。向かいビルのビルと違い、このビルは地上に近かったのでポニテさんが指差すそれはすぐにわかった。

「レリック武器」

 車道には運転手を失った自動車数台の合間に大鎚のレリック武器が地面に突き刺さっていた。

「僕ら以外にも適正者が」

 いいや、それは認識違いだ。僕ら以外の適正者は居て当然なのだ。『Relic』に登録していたユーザーはおおよそ国内外を含め七十万人だった。遺伝子情報読込という最新技術が使われたゲームとして注目されたせいもありこの登録者数だ。その内、アクティブユーザーとされていたのは三十万人くらいだと言われている。確か日本だけで平日の今日、時間を作ってイベントに参加しようとした人々は少ないかもしれないが、登録した人を考えればそれなりの人数がこの区域にいてもいいはずだ。

「でも、なぜ武器だけがあそこに?」

「適正者が死ぬと武器だけが残されちゃうんだってさ。体はたぶん消えるんだって。たぶんっていうのは、本当なら死んでも『再生の器』に飛ばされていたけれど、白の創造主の恩恵がないからね。想像だけどさ、魂は肉体と一緒にどこかを浮遊しているんじゃないのかな」

 不謹慎かもしれないが死体がないことはホッとしてしまった。僕ら適正者の死の象徴が遺体ではなく、レリック武器であれば精神的な苦痛に悩まされることがない。惨たらしい死体であればどうしても同じ適正者として自分の死として捉えるかもしれないのだ。

 シャムが言うにはね、と小さな声で虎猫さんがは喋り出す。

「あのレリック武器は武器としての機能を完全に失っているんだって。耐久度もゼロだし、修復する適正者と妖精が居ないから、あのまま残るんだってさ」

 僕は再び大鎚に視線を落とした。

 名も知らない槌術士(ついじゅつし)は棺の近くにいたから殺されたのかもしれない。黒箱出現のトラップにランクの高い敵と戦うはめになれば、それはもう絶望だ。

「私たちの到着がもっとはやければ槌術士を救えたかも、とか考えてる?」

「それに近いことは考えました。だけど、結果は出ています」

「そうだね」

 僕は槌術士に向けて黙祷を捧げた。

 決して、死んでしまった適正者の為に戦うとか、そんな正義感のある想いを抱かないようにした。僕は僕の為に戦っている。根底の部分を知っているからこそ、薄っぺらな感情を槌術士に捧げるのは間違っていると思えた。

 死んでしまった槌術士には、せめて彼が悔やまずに、穏やかに、未練なく死を受け入れて欲しいと願った。

 一分ほどの時間をかけて黙祷を終わらせた。

 静かに瞼を開き、日常を失った渋谷が再び姿を見せる。

「トラップのほうはどうでした?」

 それなんだけど、と断りを挟んだのは虎猫さんだった。

「この近くにはもう無いみたいだよ。もしかしたら、あったと言うべきかもしれないけれど」

 槌術士がトラップを踏んでしまったかもしれない、虎猫さんはそう言いたいのだろう。

 トラップがないのなら、と僕らは地上に降り立って、さきほどまで見ていた小道に入った。車道を横切ろうとした時、やはり大槌が目に入った。

 この武器を持って、この槌術士は一人で棺へと向かっていたのだろうか。それとも適正者になったばかりで、訳もわからないまま殺されてしまったのかもしれない。

 どんな思いで戦っていたのか、知ることはもう出来ないけれど、戦うことを選択した槌術士に敬意を払いつつ、先を急いだ。

 小道を抜けて、コンビニエンスストアの付近で妖精たちが騒ぎ出した。

「注意して下さい。あの白い小屋の辺りにトラップ型のレリックがあるみたいです」

 リリィたち妖精は揃って白い小屋と称した交番に指差した。

「地面だけかい? 建物の上とかに反応はある?」

「ご安心を。トラップ型の反応があるのは地面だけのようです。建物の上などには反応は見受けられません」

 リリィの回答に僕らは顔を見合った。

「予想通りだね。真悟くん」

「ちょっとだけいい気分です。じゃあ、このコンビニの上に昇って、屋上を渡って行きましょう」

 コンビニエンスストアに屋上はなくて屋根だったが問題なく着地することができた。そのまま屋上から屋上へと飛んでいき、井の頭通りを真下にした形で目的地の小学校へと向かった。

 スタートが低い建物だったので、高いビルに飛び移ることは出来なかったが、トラップのないところは地上におりて徒歩で移動し、トラップがあればまた建物の上からの移動を繰り返した。

 ファミリーレストランから移動を始めて十分程度で小学校の校門前に辿りつけた。

 平日の昼間にリンクしたので校門は開放されたままになっている。こんな渋谷のど真ん中に小学校がある事自体驚きだった。小さい頃から都会の街を行き来する小さな子たちはどんな風に育つのか気になった。どんな街の小学校に通っていても、問題は無いのかもしれないが、大人になって欲望渦巻く街の様と集まる人々を見ていたら、それなりの影響は受けるはずだ。

 小学校へいますぐに侵入したいところだが、その前にノヴァさんにコンタクトだ。

 リリィを介して、ノヴァさんの状況を確認してもらうと、向こうは戦闘状態ではないようなので、そのままコンタクトしてもらう。

 コールが三回目でノヴァさんと繋がった。

「もしもし。真悟です。いま一つ目の棺がある小学校へ到着しました」

『そちらは順調のようね。こちらも棺まで目前なのだけれど……ちょっとね』

 ノヴァさんにしては歯切れが悪い。

「何か問題でも?」

『忠告を受けていたのに、私たちもトラップに引っ掛かったの。おかげで無駄な時間を作ってしまったわ』

「ああ。あのトラップは初見では回避は難しいです。じゃあ、転送トラップも?」

『ええ、恥ずかしい話、私の全体魔法で転送トラップが仕込まれた黒箱を壊してね……情けないわ』

「転送トラップは黒箱で確定かな」

 一応、ノヴァさんには時限装置の可能性と、地上に仕掛けられたトラップ回避に屋上を使った旨を伝えた。

『とてもユニークな発想をしたわね。それ、私たちも使わせてもらうわ。あと、新しい情報とは言いがたいのだけれど』

 ノヴァさんの歯切れが悪い。

『動画は見たのかしら? 適正者になる手前だったカーニヴァルという男の』

「見ました。まさか妖精を殺すことで適応者になるとは思いませんでしたけど」

『私、あの男のこと知っているの』

「まさかリアフレだったんですか?」

『違うわ。あんな男とリアルでフレンドになんかなれないわよ。そうじゃなくてゲームで一緒になったことがあったの。真悟さん、もしかしたら適応者はある条件を満たしている元プレイヤーかもしれないわ』

「ある条件というと?」

『それは……いえ、辞めましょう。この話は長くなるから後にしましょう。棺を破壊して貰わないとね』

 話は気になるけれど、ここで食い下がっても時間の無駄になるだけだ。

「では、次のコンタクトは棺破壊後に。どれだけの時間がかかるかわかりませんが」

『死ぬような場面に出くわしてしまったら、無理をしてはダメよ?』

「心得ていますよ。僕は誰かさんが暴走しないようにしないといけませんからね。自分が無理をしたら、パーティーとして破綻しますから」

「いい心構えよ。最悪と最善をきちんと想定して動けば、まず全滅はしないから」

「はい、注意します」

「成功を祈るわ」

 ここでノヴァさんとのコンタクトは終了した。

 リリィにはそのままの状態で、小学校外内にトラップがないのか調べてもらった。

「問題はないようです。リリィが感知できる範囲内ではありますが、黒箱も設置されていません」

リリィは得意気に言っていたが、でも何が起こるのかまだわからない。

 僕らは慎重に辺りを警戒しながら小学校への中へと入った。もしかしたら、レリックモンスターからの強襲があるのかもと身構えたところはあったが、取り越し苦労だった。

 いまとなっては懐かしい昇降口に下駄箱。母校の小学校でないにしても、やっぱり小学生の下駄箱の高さは低かった。僕にもこんなに小さな頃があったのかと感慨深くなる。

 悪いとは思いながらも、僕らは外客用のスリッパに履き替えることなく、校内に土足のまま上がった。

「それで棺の場所はどの辺り?」

 闇雲に探す必要はない。目的地にさえ着いてしまえばあとは妖精のナビゲーションに従って移動すればいいのだ。

「この先にある拓けた場所にあるようです」

「それって校庭のことかな?」

 リリィが示す場所をポニテさんが言い当てる。もし教室とかになれば、狭いし戦闘するにも苦労するので、戦うには打って付けだった。

 校庭へと繋がる中庭に出でると、とても立派なトラックが設備されている。

 陸上にでも力を入れている小学校なのだろうかと思えるくらいだ。

「適正者のみなさま、あれがお見えになれますか?」

 リリィはナビーげションをやめて、トラックの中央にある物体を睨みつけた。スイセンの話から形こそ知っていたけれど、棺は予想していたよりも大きかった。その形状はエジプトなどで発見、発掘されたオベリクスをガラスで創られたように見えた。棺の全長は十メートルくらいはある高さで、その存在を主張していた。

「最後の確認だ。棺を壊した後に、番人と呼ばれる敵が出てくるんだな?」

「はい。間違いありません。棺自体はとても脆いので、番人の出現にそこまでタイムロスはないはずです。適正者さまが戦っている最中に、リリィたちは棺に収容された人達を救済します」

「よろしく頼む。リリィたち妖精が頑張ってくれる間は、こちらも必死になって番人を倒すよ」

「真悟さまなら、問題なく番人を討伐されることでしょう」

 その期待に答えなければいけないな。

 リリィからパーティーメンバーにこれからの戦いについて指示を出した。

「番人のランクはまだわかりませんが、油断は禁物です。戦闘スタイルはこれまでと変わらず、主な攻撃は僕とポニテさんで行います。正面は僕らが叩くので、ハンプティさんは番人の挙動などを観察しつつ、背後からのアタックを試みて下さい。虎猫さんは持っているスキルの中で最大火力の魔法をしてください。もし、僕らまで被弾するような魔法であれば離脱するようにパーティーチャットで伝えてください。どのゲームでも同じですが、連携が最優先です」

 指示を伝え終わると、みんなの顔つきが険しくなった。リラックスして戦え言えないのは酷だけれど、僕ら四人なら勝てると信じた。

「真悟くん、私はどんな風に攻撃すればいいの?」

 あの言うこと効かずだったポニテさんが指示待ちをした。面食らったが、さっきのファミレスと屋上の件がある。本当に、ポニテさんの中で何かが変わったようだ。

「ポニテさんは、自前の機動力を生かしてヒット&アウェイに徹してください。スキルを連発するときは常に注意を」

「うん。がっかりするような戦い方はしないから、期待してね」

 大剣を蹴りあげて肩に乗せた。やる気に満ちた雰囲気を醸し出しているのが頼もしかった。

「五分後にアタックを開始します。それまでの間にスキルの変更を行って下さい」

 最後の指示を出すと、僕を含めた四人はスキル選びに専念した。まだひとつ目の棺ではあるけれど、失敗は許されないのだ。

 四人ともスキルの変更を終えた。あとはいよいよ本命の棺破壊と番人の戦闘だ。

 トラック内に足を踏み込み、棺まで一歩、また一歩と噛みしめるような感覚で歩む。

 いよいよ棺を目の前にしたのだけれど、本当に大きかった。こんなものが校庭にあり続けたら、小学生たちにとって不安しか生まれないだろう。

 両の手甲と脚甲に闘気を溜めて、攻撃に備えた。

 スキルを使わない、闘気を溜めただけの通常攻撃でどれくらい破壊できるかと密かに楽しんでみた。

 棺が簡単に壊れてくれればいいのだけれど、と淡い希望と期待を抱いたけれど捨て去った。

 ここで最悪の状況といえば……

 棺に向かって打撃を与えようとしたら、棺とは違う別の感触があった。ようやく壊れたのかと思ったが、違った。

 違うというより、最悪が訪れた。

 僕の右拳は黒い空間から飛び出た掌だった。

 来たかと、心の中で呟く。僕が想定していた最悪の状況、その事体は適応者による破壊行為の妨害だった。

最後まで読んでいただきありがとうございます。


会話劇も終わり、物語が進展します。


明日も投稿します。


よろしくお願いします。

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