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異世界化した現実世界を救済します  作者: アサクラ サトシ
第一章 『終末の咆哮』
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002 『体感教育(チュートリアル)』

諸事情により本日は18時へと変更しました。

9/15の投稿を読んでいただいた方には申し訳ございません。


引き続き読んでいただけると幸いです。

 砕け散った玉の破片は光の粒となって腕と脚に付着する。

 加護の円陣の効果は切れ、ガルブの群れが襲い掛かる頃には、両手脚に纏った光の粒子は完全な遺物(レリック)へと変化し終えていた。

「遅い」

 装着されたレリックで飛びかかってくるガルブの群れに連続打撃を与える。ゲームのように、またはアニメなどで倒されるモンスターみたいに消滅してしまうかと思ったが、ガルブだったモノは頭蓋が割れ、内蔵や骨が飛び出していた。即死したモンスターの群れは地の上に亡骸を晒す。このまま死体が残されるのは幾ら自分を殺そうとした敵とは言え、気分は重くなる。

 やがて、そんな情を持つのは無駄だと知る。レリックモンスターたちの死体は倍速されたかのように肉体が朽ち果て、骨が残り、そしてその骨すらもひび割れて風とともに舞い上がった。

 所詮は創られた生命体だということだ。脅威となる存在も今の僕ならば倒すことは容易い。簡単にレリックモンスターを倒したからこそ、僕自身の変化に驚く。

「自分の体じゃないみたいだ」

 手甲・滅のせいだろう。本当の僕は格闘技のかの字も知らない素人だ。それなのに体が自然に動いてしまった。装着されたレリックには真新しさなどなく、大小なりに傷が残っている。レリックの傷は闘いぬいた証であり経験値。戦う術を僕にインプットしたのだ。

「さすが真悟さまです! ……ですが、久しぶりの戦いに力の加減が出来なかったようですね」

 リリィが真剣な目つきで周囲を見渡す。

 強力な攻撃を行ったせいで、四散していたガルブたちのヘイトが僕に集中したようだ。

 現実世界でヘイトを考える日がくるとは思いもしなかった。

 ガルブはざっと見ただけでも三十近くはいる。これはこれで面倒だ。ゲームはTPS表示だったので死角はほぼなかった。けれど、現実では視野に限界がある。

 ガルブは下級レリックモンスターではあるけれど、群れで来られたら通常攻撃の連撃では対処しきれなくなる。

 全体攻撃のスキルが使えれば楽に倒せるのだけれど、生身の肉体を使ってゲームのスキルを使用するのか、まずはそこからだ。

「リリィ。スキルはどうやれば出せる?」

僕の問いかけにリリィは大きく開けた口を両手の平で隠そうとした。

 そのオーバーリアクションはなんだと言いたかったが喉奥にしまっておく。なにか知っているのならさっさと言ってほしい。

 僕が睨むとリリィは深々と頭を下げた。

「申し訳ございません。いま、マテリアルリストを」

 リリィは両手を前に出して、そのまま左右に広げた。

 何もない空間から幾つもの巻物が出現する。

「それってメニュー画面の」

 そういえばと、脅威でもなくなったガルブに拳を突き出しながら『Relic』のことを思い出していた。

 『Relic』でのゲームメニューは設定上、妖精が所持しているリストと呼ばれる巻物で確認するということになっている。もちろん、確認するだけでなくアイテムの保管や引き出しも妖精からだ。会得したスキルはマテリアル化されマテリアルリストに保管される。

 リリィは何もない空間から出現させた巻物を凝視している。

「真悟さま、どのマテリアルを?」

「とりあえず、雑魚を一掃するスキルならなんでもいい」

 小さく頷いたリリィはその小さな手で開かれた巻物に手を入れて文字を引き抜いた。ただ文字と認識できただけで、どういう意味なのかは見ただけではわからなかった。きっと向こうの世界で使われている文字言語だ。

 リリィが取り出した文字は手甲に貼り付けられ泡のように溶けて浸透していく。レリックから僕の体へとスキルの使用方法が植え付けられる。

 僕はガルブたちから離れて軽く目を閉じて半身の状態を取った。武器から得た力の流れを右拳に宿した。

 何故か目を閉じることでガルブの動きが手に取るように感じ取れた。拳に宿った力が臨界に達する。

 ガルブが地を蹴り僕の頭上まで飛び上がったのがわかる。

 大丈夫、このスキルは相手が地についていなくても、円の範囲で衝撃波を与える。

 うっすらと瞼を開く。右拳を大地と折衝するかしないかの隙間を作るようにして振り下ろした。僕を中心に衝撃の波が広がっていく。

 スキル名『疾風の波』。

これも僕が名づけた技なのだが、技名を叫ばずにスキルが出せるのはありがたかった。いくらゲームの世界がこっちに来たとしても、ここが現実であることに変わりは無いのだから、技名を叫ぶなんて恥ずかしすぎる。

 疾風の波は周囲に存在していたガルブを綺麗に消し去った。

「お見事です。ひとまずこの近辺にはレリックモンスターの反応はなくなりました」

「そっか。良かった……のかな」

 悲鳴を上げ光の柱となった人達が脳裏に焼き付いている。

「もっと早くレリックを装着していれば、大勢の人が襲われずに済んだかもしれないのに」

 見殺しにしたようなものだ。

「まだ助ける方法はあります」

 リリィは真剣な眼差しを僕に向ける。

「死んだから光の柱になったんじゃないのか?」

「厳密には捕獲されていると申し上げたほうがよろしいでしょう」

「なんの目的があって捕獲なんかするんだ? そもそもなんで『Relic』の世界が僕らの世界に?」

 頭の中に浮かんだ疑問は他にもあったのだが、僕の問いかけに首を傾げるリリィを見て口を閉じた。

「初めの質問はご説明するのは複雑で長くなりますが、しかし後者のほうは真悟さまも既にご存知のはずです」

 存じ上げてないからこうして質問しているのだと反論したい気持ちを抑えてリリィの返答を待った。

「黒い創造主の使いデズヴィルアが最後に何を言ったのかお忘れですか?」

 ここでようやくカズさんが言っていた「メインシナリオを思いだせ」と言った意味が理解できた。

 細部までは思い出せないが「六の月を越えた日、我らが侵攻しよう。貴様ら適正者がこの世界へ訪れたように」と。

 ゲームキャラクターがいう言葉を真に受けるプレイヤーがどこにいるだろう。けれど、こうして彼らは有言実行してきた。

 夢なら覚めてほしいと願ったが、腕と脚に装着されたレリックの重みは変わらず、辺りの風景もそのまま現実(リアル)仮想(ゲーム)は折り重なったままだ。

「リリィたちも多くの適正者さま達に侵攻する日とその場所をお伝えしました」

 とんだイベント告知だ。まんまと誘い込まれたというわけだが、ここで不平不満をいっても無意味だ。

 リリィの言葉を聞いてふと気づいたことがあった。

「侵攻する場所ってことは僕らの世界とそっちの世界が繋がっているのは限られているってこと?」

「その通りです。いくら黒の創造主であってもこちらの世界すべてをリリィたちの世界と一つにすることは不可能。それでもこの様な空間となった数は百を超えているはずです」

 アプリで告知されていた開催地は全世界にあるのだから、その数にも納得はいく。他の元プレイヤーたちがどうしているのか気になる。

 そうだ。カズさんたちは? 代々木公園の中にいるカズさんたちは大丈夫なのか。僕と同じように適正者になっているのなら無事かもしれない。

 もしかしたらとある考えが浮かび、僕はリリィに問いただした。

「リリィ、フレンドリストにカズヒデさん、ポニテさん、ノヴァさんの名前はあるか?」

 リリィがゲームメニューをこなすということは、他のリストも使えるはずだと見込んだ。勘だけど適正者になることがゲーム内で言うログインした状態を意味しているのなら、カズさんたちの名前も表記されるのではと考えた。

 リリィに聞いた三人のプレイヤーネームがそれだ。カズさん以外の人も本名は知っているけれど、プレイヤーネームの方で呼び合っている方が長かったので、オフ会の時でもプレイヤーネームで呼び合っていた。

あの三人はレリックモンスター出現した代々木公園内にいるんだ。僕以上に危険な目に遭遇しているとも考えられる。

「はい。どうやら三人ともに適正者になられています」

「無事なのか?」

 僕は両手でリリィを掴んだ。予想外にもその体は柔らかく体温が感じ取れた。

「真悟さま、ちょっと苦しい……です」

苦しむリリィの声を聞いて本当に生きていると実感し僕は掴んだ手を離す。

「ごめん。それで三人の誰でもいいからコンタクトは取れるかな?」

 コンタクトは固定のプレイヤーのみに話しかける個人チャットみたいなものだ。

「それは難しいかと思われます」

「なぜ?」

「これを見て下さい」

 リリィはフレンドリストを見せた。ゲームと変わらないのはログインしていれば白く反転しているところと、名前の左隣にある所有武器のアイコンだ。カズさんは弓、ポニテさんは剣、ノヴァさんは杖だ。そして、リリィが指さしたのは名前の右隣に表示された赤い丸印だ。僕らがゲームで遊んでいた時にはこんな表記はなかったはずだ。

「これは何を意味しているんだ?」

「戦闘中です。向こう状況もわからないままコンタクトを取るのは得策ではありません」

「確かにそうかもしれないけれど、チャットを送るだけなら」

「ちゃっと? それはこちらでは直接話しかけるという意味とは違うのですか? ルーシェンヴァルラにいらした頃は普通に話しかけていらっしゃいましたが?」

 納得のいく一言だった。僕らがゲームでチャット会話をしている姿は、リリィたちの世界『ルーシェンヴァルラ』からすれば普通に会話しているように見えたわけだ。

 そう考えると話しかけられるのは気が散るだろうし、代々木公園内からガルブたちが来たということはガルブの群れが園内に群がっている可能性がある。

 僕は背中に冷や汗を感じた。リリィとのんびり話をしている場合ではなかったか。

「マップを開けばフレンドのアイコンは色が付いているよね」

 フレンド登録されたプレイヤーは青色になったはず。

「ええ、位置の把握もできます。合流されますか?」

「当然だ。さっそくだけどマップを開いて見せてくれ」

「その必要はありません。このリリィが合流先までご案内します」

 ナビゲーションシステムもゲームにはなかった機能だ。ゲームではマップを常に開いている状態だから目的へ向かうのに無意味だけど現実世界であれば便利だ。

「できるだけ早く移動してくれ」

 レリックを装備しているお陰で僕の体力などは飛躍的に向上しているのがわかる。全速力で走っても息切れすることはなさそうだ。僕の細かいステータスもリリィに聞けば教えてもらえることだけれど、僕のことよりもまずはみんなの元へ急ぐことが優先だ。

「目的地はカズヒデさまとノヴァさまが居らっしゃる所でよろしいですか?」

「……ポニテさんは一緒じゃないのか?」

「ポニテさまはカズヒデさまたちとご一緒ではありません。別の所で戦闘されています」

「まさかとは思うけど一人で戦っているわけじゃないよね?」

「そのまさかです。どうされますか?」

 また単独行動をしたのか? あの人はゲームでもリアルでも本当に自由奔放すぎる。カズさんも引き止めればいいのにって、愚痴を言っても始まらない。

「ポニテさんの元へ案内してくれ」

 いつもこうだった。ポニテさんが自由に行動して、追い込まれる。それを放って置けないから、僕がいつも助けに行く。

 もうゲームじゃないんだ。何かが起きた後では遅すぎる。僕はリリィに速度を上げるように命じる。

 リリィがスマートフォンをサーフィンのように操って空中を移動する。かなりの早さなのだが、思った通り息切れどころか足腰に負担が全く感じられない。

 僕の基礎体力はレリックによって上昇している。

 『Relic』の特徴はレリック武器にある。ゲーム開始直後に入手する武器は変更不可能のため転職もできない。そのため『Relic』の正式サービス開始直後は自由度が少ないと言われていたが、一つの武器、職業を極めるという点が思いの外受けた。

 僕の固定レリックは格闘技を得意とする手甲と脚甲だ。職業は闘術士とされていた。ちなみに僕のレリックはレベル段階でいうと50で、サービス終了までの上限値だ。

 このレベルの概念だが『Relic』においてレリック武器の強化レベル=適正者のレベルだ。

 練度の上げ方は通常のRPGと同じだ。モンスターと戦うと経験値の代わりに武器の練度が増える。特定の練度まで上げると、次の段階へと強化できる。強化費はお金ではなくモンスターを狩って特定のアイテムを手に入れることだ。

 武器を強化することで、装着している適正者のステータスが上がり、新しいスキルを体得する。スキルの発動は適正者の生命エネルギー〈闘気〉が必要となっている。

 また面白いのは同じレリックであっても同一のスキルは絶対に体得しない。疾風の波と名づけたスキルは僕だけしか使えない唯一(ワンアンド)無二(オンリー)の技になる。

 体力や魔力といったパラメーターはレリック武器の耐久度が体力ゲージ、適正者の闘気が魔力ゲージだ。武器が体力ゲージの代わりを為しているため、魔法職に治癒魔法がない。

 警戒すべきことはレリック武器が破壊されることだ。

 レリック武器を装着していればレリックモンスターから与えられた攻撃は衝撃こそ与えられるが無傷だ。その代わりにダメージは全てレリック武器が受け持つ。つまり耐久度(体力)が下がることを意味し、修復を行わなければ壊れてしまう。適正者や妖精が修理を行うことができるけれど、レリック武器には自己修復機能が備わっているので、下がった耐久度などは一定時間かければ復元される。レリック武器が破壊されたとしても自己修復機能は失われないが数時間は装着できない。

 レリック武器の装着や装備をしていない限り適正者はただの人間となってしまうのだから、モンスターに攻撃されれば即死だ。

 万が一、戦闘中に武器が破壊されても瞬間復元というアイテムを使用すればレリックは復元される。アイテムの形状はガラス瓶。内容液は緑色だったはず。例え瞬間復元を使いきってもゲーム内更新時間の朝五時を越えれば自動的に三個支給される。もし修復せず人のままで殺されてしまった場合、適正者はルーシェンヴァルラヘ召喚した白の創造主の力によって『再生の器』の元で復活するのだが、即時リボーンではなく死亡してから二十四時間後に復帰というシビアな条件だった。

 だが、これはゲーム『Relic』での話。僕らの世界ではどうなるのか、まだわからない。話の途中だったがリリィの言った通り普通の人となった僕もどこかへと捕獲されるのだろうか。

 抱えている問題と疑問は多い。だからこそ、ポニテさんの元へ早く辿り着きたかった。

 向かう先の方から剣撃の音と獣の唸り声が聞こえてくる。

「距離、十メートルもありません。どうやらポニテさまが戦っているのは中型レリックモンスターのようです」

 中型か。レリックレベルは30ほどで倒せる。今日集まったオフ会メンバーの四人は全員、レリックレベルはカンストしている。ポニテさんなら余裕で倒せるモンスターのはずだ。

 苦戦しているのか?

 剣撃とモンスターと思われる叫びがさらに大きくなる。

 行く先に見えた木々が轟音と共に吹き飛んでくる。無防備のリリィを僕の胸元へと引き寄せ庇う。

 飛び交う木々を両拳で砕く。視界の先には倒木した木と抉れた地面。その地に立っていたのは、全長三メートルほどある狼種の中級レリックモンスターのガルホルム。そんな現実にはありえない大きさのモンスターを前にしているのは小柄な女の子だ。綺麗な黒髪を揺らし、赤のチェックシャツワンピースにスニーカーという服装。そんなどこにでもいそうな二十代の女の子が片手に持っていたのは身の丈もある大剣だ。

 間違えようがない。

 ポニテさんだ。


最後まで読んでいただきありがとうございます。


今回の投稿時間変更は002の原稿を含め、

投稿予約していた原稿を書き直しのためです。

ただし、9/23までの連日投稿は行います。


明日の投稿は今のところ18時投稿予定です。

不甲斐ない連載開始で情けない限りです。

これからもお付き合いしていただけると幸いです。

よろしくお願いいたします。


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