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異世界化した現実世界を救済します  作者: アサクラ サトシ
第一章 『終末の咆哮』
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013 『情報共有(インフォメーション・シェアリング)』

 リリィがフレンドリストを開く。

「ノヴァさまたちパーティー一行は非戦闘時です。ノヴァさまにコンタクトを申請されますか?」

「うん。頼むよ」

「承知しました」

 リリィはフレンドリストを操作して、白く表示されたノヴァさんのプレイヤーネームを優しく触れた。

 耳元で聞き慣れたコール音が聞こえた。『Relic』のゲームではコール音は実装されていなかった。元より、このコール音は僕が使っているスマートフォンのコール音そのままだった。

 四度目のコールが終わろうとした時、ノヴァさんの間延びした声が聞こえた。

『もしもし? 真悟さん?』

「はい。出て貰えたってことは通話しても大丈夫なんですね?」

『ええ。こちらは大丈夫よ。もう棺に着いたの? それとも緊急な要件かしら?』

「緊急の方です。それもかなり深刻な内容になります」

『聞かせてもらえるかしら』

 僕は区役所の交差点に辿り着くまでに発見した花、遭遇した適応者のこと、戦い方、そして肉体の直接ダメージなどを掻い摘んで説明した。

『ラズリラブルはこちらでも確認済みよ。適応者の情報は脅威だけれど対処を間違えなければ問題なさそうね』

「ええ。適応者と相対した時、どのように戦い、どのように処理するかは、ノヴァさんたちに委ねます」

『真悟さんは、殺したのよね』

「どうしてわかったんですか」

『真悟さんは他人のことばかり心配するせいか、自分のことは無頓着すぎるわ。適応者との戦い方を知る、知ることが出来たその理由。それはもうあなたが適応者を殺したから得られた情報だと言っているようなものよ』

「……殺したのは僕じゃないことだって考えないですか?」

『あなたは自分に無頓着。けれど他人には優しいの。そんな人が損する役を、汚れ役を他人に押し付けたりするものですか』

「……」

『真悟さん、自分を大切にしなさいなんて綺麗事は言わないわ。けれど、たまには自分にも優しくしてあげて。あなたを失って悲しむ人は家族以外にもいるのだから』

「はい」

『特にあなたと一緒にいる楽天家な女の子は、なにをしでかすかわからないでしょう?』

 僕はごく自然にポニテさんを見てしまった。間の悪いことに彼女は欠伸をしていた。女の子だから流石に口元は手で隠している。

 腕を切り落とされ、斬首されそうになった間際、ポニテさんの叫び声が思い出される。

 僕を助けようと必死になる彼女を、僕は二度と見たくはない。

『私が言えるのはこれくらいね。あまり口出しをすると真悟さんに飽きられちゃうから』

「飽きるだなんて……」

「ふふ。冗談よ。いつものね」

「僕は飽きたりしませんよ。一緒にいて楽しめる人たちはいないんです。飽きられることはあっても、僕はこの人間関係を飽きたりしませんから」

『やだ。またそんなかっこつけた言い方をして。でも、そう言ってもらえると私も嬉しいわ……他にもなにかわかったことは無いかしら?』

「もう一つ大切なことを言い忘れてました。まだ棺に到着する前ならなおさら知っておいてほしいことです」

 僕はトラップ型のレリックについて、なるべく詳しくそして僕らが推論した結果を伝えた。

『また『道具』のレリックなのね』

 代々木公園を出る前に話し合ったことを今一度、取り上げることになった。

 まだこの話をみんなに聞かれまいと少しぼやかしながら話をすることにした。

「トラップが印象に残りすぎているので、まだ気づいていないかもしれませんが。でも、時間の問題です。このコンタクトが終わったら話そうと思います」

『いい頃合いだと思う。私のほうは花を見つけた時に話してしまったわ。カズヒコは身内みたいなものだし、スグルさんも感性は問題あるけれど話が通じない人ではないから』

 もう話をしていたのか。決断力はさすがに早いな。僕もこうあるべきかもしれない。

「僕らのほうで知り得たのはこれくらいです。ノヴァさんからは何かありますか?」

『新しい発見はあったわ。そうね。これから話を設けるのなら良いかもしれないわね。うん、適応者との戦いにも有効になるわ』

 通話をしている向こう側でノヴァさんは勝手に納得をしている。適応者との戦いにも有効とはどういうことだろうか。

「あの。すみません、話がよく見えないんですけど」

『真悟さん。ゲーム内での料理はどうするか覚えているわよね』

「ええ。食材を採取して妖精に調理を任せればいいだけですよね? 調理レシピはメモリレリックに保存されたのを取得すればよかったはず。あれを見つけるのは苦労したし、最後のほうは探すのを諦めましたよ」

 レリック武器のおかげで適正者は傷を負わない代わりに、戦闘では肉体エネルギーの闘気を使用する。その闘気が枯渇してしまうとまともに戦うことは不可能になる。そこで重宝されるのが妖精の作る料理を食べることだ。食事は闘気の回復や上限値を増やすことができる。そういったレシピがメモリレリックの中に保存されているのだ。

 このメモリレリックはかなりのレアレリックで見つけるのが困難だった。僕も一年近く遊んでいたけれど、リリィが保存している料理レシピは五つくらいだ。

「だけど、リンクしたここに『Relic』の食材アイテムや向こうの動物はちゃんと生息しているんですか? 今のところ、レリックモンスター以外の動物とは遭遇していませんけど」

 調理をするにしても、材料が必要となる。ノヴァさんにも尋ねた通り、植物はまだしも具材となる『Relic』界の動物がいなくてはろくな料理は作れない。野菜ばかりの調理レシピは所持していたはずだけど、あんなものでは戦闘が続くこのクエストでは雀の涙になれば良いほうだ。

『新しい発見はそこよ。ここにはゲーム内の食材は手にはいらないけれど、こっちの世界にある食材ならいくらでもあるでしょう? この世界は無駄に食料が溢れているからね』

「いや、言いたいことはわかりますよ。食材があったとしても調理レシピがなかったら意味が無いんじゃ。それに白の創造主の恩恵もないのだから、メモリレリックなんて」

 あるはずがないと言いかけたが、ノヴァさんに『真悟さん』と人に言い聞かせるような形で名前を呼ばれた。

『話は最後まで聞くものよ。あなたらしくもなく落ち着きがないわ。焦るのはわかるけれど、先急いでもいいことは何もないの。誰かの上に立つという人はね、焦らず、流されず、確固たる己の意志を貫くことよ。そうすれば自然と人は着いてくるものなの』

 軽く説教をされてしまった。こう言って貰えるのは僕をちゃんと見て、評価してくれている証拠だと信じよう。

『ごめんなさい。つい、後輩の子に言い聞かせるような口調になったわ。仕事をしている時と錯覚したみたい。ダメね、現実の世界だから気持ちがすぐにそっちへと傾いちゃう』

「大丈夫です。気にしていませんから。それで、肝心の調理レシピですけど。なにか特別なことを行うんですか?」

『ううん。驚くほど簡単なことよ。メモリレリックなんて不要よ。私たちの世界にあるレシピを妖精たちに習得させればいいの』

「また都合のいい話ですね」

『黒の創造主ばかりが優位では話にならないもの。白側の私たちにだってそれなりの特権が合ってもいいはずよ』

「確かに劣勢なばかりでは、攻略なんて不可能ですからね。こっちは死んだら終わりです」

「そうよ。肝心のレシピ取得方法だけど、真悟さんは一人暮らしだっけ? 自炊とかする人?」

「ええ。安いアパートで一人ですよ。自炊は本当に金欠の時しかしませんけど。実家が定食屋だったので、それなりの物は作れます」

『一昔前に流行った自炊系男子ってやつね。でも、あまり女子力があると返って女の子にモテなくなるからほどほどにね。あの子、料理できるようなタイプじゃないでしょ?』

 僕はポニテさんを横目に見た。

「気をつけます。で、それがなにか?」

『今時、料理レシピの本を購入せずにWebサイトやSNSに料理レシピを掲載している人いるでしょう。そのサイトをスマートフォンで検索してレシピを妖精たちに見せるだけでいいの』

「便利な妖精ですね。でも、どうやって気付いたんですか?」

『カズヒデがね? 腹が減った、なにか食いたいとかうるさくて。あまりにもやかましいから自分のスマートフォンで美味しそうな料理画像でも見ながら悶絶したらって言ったの』

 ノヴァさんに逆らえないカズさんが言われた通りに画像を検索して悶絶する姿が目に浮かぶ。

『そしたらカズヒデなにを検索したと思う? オムライスよ? 中年男性のくせにオムライスをチョイスするとかありえなかったわ。しかも変なこだわりを持ってて、チキンライスじゃなくてバターライスのオムライスが食べたいとか抜かしていたわ』

 何が好きだろうと個人の自由なので、僕は間の抜けた返事をするしかなかった。話が逸れそうだったので、本筋に戻した。

「つまり、カズさんが検索したオムライスにレシピが掲載されていて、それをレイラが読み取ったということですね」

『え? あ、そうね。その通り。レシピをみたレイラがこれくらいなら簡単に作ってあげられるわって言ったもんだからカズヒデも喜んじゃって……私たちは棺への進行を中断してカズヒデ好みのオムライスを作ってもらったの』

「あの小さな体でどんな風に調理するのか気になりますけど。オムライスを食べた結果はどうだったんですか。実際にステータス変化は起こりました?」

『それが予想以上だった。味はもちろんレシピ通りのオムライスそのままなんだけど、その効果はかなり上位のものよ。闘気使用量の軽減、レリック武器への闘気供給量速度上昇などね』

「すごい効果だ。もしかして作る妖精によって料理の効果が同一にならないのも変わっていませんか」

『ええ、残念なことにね。プレイヤーに準ずる妖精次第で効果は変化とパーティーを組んでいない人には、作られた料理は食べられない仕様はそのまま。これは私の仮説だけど、私たちの遺伝子情報がそうさせているのでしょうね』

 『Relic』とにかく同一性を持たせないゲームだった。固定されたレリック武器、個人差のあるスキルとその威力、妖精たちの容姿と性格、そして料理までも適正者の遺伝子情報に依存している。

「この情報は確かにありがたいです。ようやくノヴァさんの言いたいことが見えましたよ。どこかで食事でもしながら気分を切り替えろということですね」

『そういうこと。気を張り詰めるよりもリラックスの状態が望ましいの。いけない、また……どうも現実の私が顔を覗かせてしまうみたい』

「良いじゃないですか。ここは現実ですから」

 向こう側にいるノヴァさんが含み笑いをする。

『それもそうね。あともう一つ。真悟さんたちに伝えないといけないことがあるの』

「なんですか?」

『複数ある棺の役割について。とても大切なことだからよく聴いてね?』

 ノヴァさんの声色が変わる。

 僕はノヴァさんが話し始めるのは静かに待った。

最後まで読んでいただきありがとうございます。


会話のみでしたが、楽しんでいただけたでしょうか。

明日も投稿します。


よろしくお願いいたします。

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