011 『交差点(インターセクション)』
011になります。
下級鬼人種ラクラ。ゲームの時は通常攻撃だとダメージが三分の二までしか通らない。生体図鑑に書かれていたラクラのテキストでは硬い皮膚が鎧代わりだとあった。実際にラクラと生身で戦ってみるとテキスト以上のことが体感できた。
闘気が込められていないレリック武器で叩いても感触が全く違った。ガルブの表面がスポンジとしたら、ラクラは鋼鉄だと言い換えられる。
ガルブとラクラでは種族、クラス、ランクが違うのだから当然だ。レリックモンスターにはレベル表示がない。その代わりにランクがある。狼種などの獣系はランクが低い。下級ガルブはランク2。クラスが変わって上級のガルフィクスだとランク6か7になる。しかし鬼人種は元からランクが高い。下級鬼人種のラクラのランクは6だ。上級のガルフィクスと下級ラクラは同じランクなのは納得がいかないが、ゲームだったころの設定なのだから文句を言っても仕方がない。
下級のラクラだけなら僕ら四人でも大丈夫だが、中級のラクズーハに出てこられると厄介だ。鬼人種中級のランクは7から8になる。レリック練度でいえば30以上あればいいのだが、できれば35くらいなければ厳しい。
「ハンプティさん、ラクズーハと戦ったことはありますか?」
『ゲームの頃、ソロって戦ったけど即逃げた』
短剣は俊敏性と手数の多さが利点となる。レリックモンスターのランクに合ったレリック練度であれば倒せるのだが、ハンプティさんのレリック練度では難しいか。
可能性としてハンプティさんの練度でも倒せる手段はあるのだけれど、僕自身が実証しなければいけない。
「虎猫さんは?」
『一撃で仕留めるのはちょっと難しいけど、倒せるよ』
「じゃあ、ラクラを倒すのは余裕ですか?」
『うーん? 練度を上げてからラクラと戦ったことは数回しか無いけど、たぶん、一撃で倒せるとは思う』
「ラクラが即死できる全体魔法はありますか?」
『ごめん。それは持ってない。単体だけど遠距離まで飛ばせる魔法ならあるよ。もちろん、即死系で』
理想は全体魔法だったけれど、贅沢はいえないな。その言葉を信じるしか無いな。パッと見ただけでラクラは三十体以上だ。正しい個体数が知りたい。
「リリィ、敵の数はまだわからないのかな。あと下級黒箱の製造回数もわかれば教えてほしい」
「ラクラの数はおよそ四十体です。下級黒箱の製造回数はあと一回ですね。すでに再製造中で三十分後には同数のラクラが出現します」
ラクラが四十か。三十分以内であれば第一陣のラクラを殲滅することは容易いのだけれど、僕を含めみんなの闘気が枯渇した時、ラクズーハが出現してきたら状況は悪化する。
「ツインテ。中級の黒箱が製造終了するまでどれくらいかかりそう?」
ポニテさんが僕の聞きたかったことをツインテに訪ねてくれた。
「十五分くらいかな。ちなみに中級の黒箱は全部で十七あるよ。大丈夫?」
「そいつは大丈夫じゃないかも……どうする? 真悟くん」
思いつきではあるけれど、頭に浮かんだ戦略を行うことにした。
「指示を変えます。ハンプティさんは虎猫さんのフォロー。虎猫さんは一体のラクラを倒したら、黒箱を一箱壊して下さい」
後衛の二人から勢いのある返事が聞こえる。
数体目のラクラを倒し、僕は再びポニテさんと背中を合わせた。
「ポニテさんにはちょっときつい指示というか、お願いをします」
「なんでも言って」
ラクラを倒しながらの会話だが余裕はありそうだ。
「ここを一人で受け持って欲しいんです。ポニテさんなら闘気を枯渇しないようにスキル回しができると思うので」
「うん、それはできるけどさ。真悟くんは?」
「僕は中型の黒箱を破壊します」
黒箱は壊すことが可能だ。ただし、製造される中級レリックモンスターと同等のHPと耐久度を持っている。
「ああ、そっか! 効率重視ってやつね」
どうやら僕の戦略を理解してくれたようだ。
十七個の中型黒箱すべて破壊することは難しいが十五分あれば半分は破壊できる。その間に三人がラクラの数を減らしてくれれば、残った中型黒箱から製造されたラクズーハが出てきても苦戦はするかもしれないが各々の負担は軽減できる。
「だったら、私が下級の黒箱を壊すっていうのもありじゃない?」
「相当数のラクラが減るまでは黒箱にはノータッチでお願いします」
「あいよー」
お気楽な感じでポニテさんが相槌を打ってくれた。ハンプティさん、虎猫さんもそうだ。適応者と相対する前に戻ってきている。危機的状況だがみんなの雰囲気は悪く無い。
「十五分間なんとか粘って下さい」
僕は三人の返事を耳に入れながら中型の黒箱へと向かった。
ラクラの群衆で前に進むのは困難かと思われたが、何の事はない。こいつらの肩やら頭を踏み台にして跳躍すればいいだけのこと。ゲームでは出来なかったことが、リンクした今ならできる。
ハンプティさんのレリック練度でもラクラを倒す方法をまずは実証してみよう。
適応者とみたく即死可能な部位を攻撃すれば死ぬかもしれない。黒箱付近には二体のラクラがいる。
外気功・拳撃だとラクラはほぼ即死だ。手甲と脚甲に出来るだけ高い闘気を送り込む。
貯めこんだ闘気に誘われて二体のラクラが襲いかかってくる。
一体目のラクラが大振りで右拳を打ち込んできたので左手でいなす。左半身を後ろに回しながら右手は手刀に変えて、そのまま喉に突き刺してすぐに引き抜く。
「おがぁ!」
ラクラの喉から黒い血を吹き出しながら白目を向いて倒れこんだ。死んだようにも思えたが、体が痙攣している。ということは、致命傷にはなるようだ。
ビクビクと全身を痙攣させているラクラの頭を足裏で踏み砕いた。
頭を失ったラクラはこれまでのレリックモンスターと同じように細かい粉となって消え去った。
行ける。これなら、もっと楽にラクラの数を減らすことが出来る。
「みんな、こいつらに即死となる場所を高火力のスキルか闘気を纏ったレリック武器で攻撃して下さい。簡単に仕留められます」
『シンくん、それマジ? そうとわかればバンバン倒すわ!』
『もう! 調子に乗らないでよ。あんたは倒すことよりあたしを守ることに専念してよね!』
『わーったよ。うっさい女だな。年下のくせに』
『マジでお前が言うなだわ。そっくりそのままハンプティに突き返してやりたい』
二人の掛け合いに思わず吹いてしまった。
後衛の二人は痴話喧嘩が出来るほど余裕が出てきたみたいだ。まぁ、ハンプティさんは自分を過大評価する傾向があるから、虎猫さんとのコンビはかなりいい。
『真悟くん、ナイス情報! これなら乱獲余裕だわ』
こっちもこっちでいつもの楽天的なポニテさんに戻っている。
さて、こちらも残り一体のラクラを……と思ったが、そのラクラの様子がおかしい。僕を見て怖れているのだ。作られたこいつらにも感情があるのか。
人に近いからこそ感情があるのかもしれない。それでも、量産物であり敵意と殺意を向けていたこいつらに同情の余地はないのだ。
躊躇なく倒せなければ適応者と真っ向から戦うことなんて出来ない。
僕への恐怖心が増して気が触れたのか、それとも戦闘本能がそうさせたのか、ラクラは両腕を広げて襲いかかってきた。上半身をがら空きにしたのは間違いだ。右の脚で腹部を蹴りこむとラクラの体は上下に分断されて消失した。
大きな闘気を貯めこんだだけだが、スキルを使うよりもかなり闘気の燃費はいい。
周辺にはそれなりの数をなしたラクラがいるけれど脅威ではなくなった。だが、下級の対処が中級に通用するかはまた別だ。中型の黒箱を早く多く壊すことは変わりない。
中型の黒箱に外気功・拳撃を繰り出した。黒箱は光沢のある金属のように見えるけれど、叩いてみると弾力があり生きているような気もした。
闘気を乗せた通常攻撃が通らないようだ。ならば、スキルを発動させえ壊せばいい。外気功・拳撃を一点集中でダメージを与え続ける。小さな歪みが徐々に広がり、黒箱のまっ平らだった表面は大きく凹んでいき、最終的には手脚の届く五面はひしゃげてしまった。
「黒箱の活動停止を確認、もう製造は不可能です」
「壊すのにどれくらい時間がかかった?」
僕の問いかけにリリィは真剣な目つきで応対する。
「大体五分から六分といったところです。同じペースで壊されても、最大で六箱しか壊せないでしょう」
六箱も壊せれば上出来だろう。時間が惜しい、ラクラはなるべく無視して次の黒箱に移動しよう。
そうやってラクラを適度にあしらいつつ、時間と闘いながら中型の黒箱を五つ目まで壊し続けた。
「真悟さま。ラクズーハの製造が終わるまで残り八分です」
「黒箱は残り十二か」
残り八分では残りの黒箱を壊すにしても残り八分ではせいぜいあと一箱が限界だ。
重苦しい溜息を吐き出す。肉体疲労はないのに、精神的に疲れが溜まってきた。ルーチンワークをしているのと変わらない感じで、終わりは見えているのに怠さが溜まっていく。
『真悟くん。大丈夫?』
僕の心労を察したかのようにポニテさんの声が聞こえた。振り返ると三人は同じ位置でただ買い続けている。こうやって視認できるくらいにラクラの数は減っていた。
「ラクラが減りましたね」
『言ったでしょう? こっちは大丈夫だって。さっきスイセンに聞いたらラクラは残り十三だってさ。上手くいったね、真悟くん』
僕の助言が大きかったようだ。ラクズーハが出てきても問題なく戦えそうだ。
「こっちは六つ目の破壊にはいります」
渋谷公会堂のちょっとした広場に六つ目の黒箱が静かな音を立てながら稼働している。
動いていようと中からレリックモンスターが出てこなければ問題はないんだ。黒箱に拳撃を与えつつ、通常攻撃を入れていく。しだいに黒箱から稼働する音が聞こえなくなった。
「六つ目の黒箱、稼働が止まりました。あと一つ壊せば、半分だったんですけどね。そっちはどうですか?」
僕は満足感を持って後ろを振り返った。
「え?」
僕の声は、しかしみんなとのヴォイスチャットと重なり合った。
四人とも目を合わせて身動きが取れなかった。正しくは僕らが立っている場所を把握する時間が必要だった。
ついさっきまで僕らは国営放送局付近の交差点でラクラと戦い、そして黒箱を破壊していた。
そのはずなのに、ラクラの姿は忽然と消えていた。いいや、視点を変えれば消えたのは僕らの方だとも言える。
僕らは周辺の景色を確かめつつ、玉突き事故を起こした車を避け、点灯する信号機を無視しながら、渋谷でもっとも有名な交差点の中央に集まった。
ここは渋谷駅ハチ公前のスクランブル交差点。
僕らは黒の創造主に策略にはまり、世界でも有名なスクランブル交差点へ飛ばされてしまった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
おかげさまで現時点で総合PV数は800を超えました。
読者のみなさま、本当にありがとうございます。
明日も投稿します。
よろしくお願いします。
※ 9/27 誤字・台詞修正
※ 9/28 台詞再修正




