010 『思惑(スペキュレーション)』後半
タイトルを改題しました。
三人を見回す。ポニテさんの表情は厳しく、ハンプティさんは悔しそうに目を拭い、虎猫さんは口を一文字にして目を伏せている。
「真悟くんがいいというなら、この二人を責めない。だけど、適応者が現れたら私は戦う。この決意は揺るがないから」
彼女の決意に、僕は沈黙で返した。ポニテさんだって僕が承諾しないことくらいわかっているんだ。互いに一方的な願いを押し付けあっている。だから、何も言い返さずに黙るという選択をした。
「シンくん、ごめん。レリックモンスターならちゃんと倒すよ。仕事はする」
「あたしも出来る限りのことはする。サポートもやるよ。今、言うことじゃないのはわかっているけど、言わせて? シンちゃん、ありがとう。本当にありがとう」
感謝か。素直に喜べないのは僕も思うところが少なからずあるからだろう。本当、自己犠牲を惜しまない正統系主人公になってみたいものだ。
そうだな、多分、主人公的気質があるとしたら、それはカズさんだろう。
いない人に頼ろうとするのはやめよう。
「車の移動は控えたほうがいいでしょう。同じように襲われたら一発でアウトの可能性もあります。それにこの道を真っすぐ行けばもう区役所前です」
車を探すよりも徒歩で向かったほうが早いと判断した。適応者たちと戦ったこの通りをまっすぐ進めば区役所前にたどり着ける。
「待って。私は真悟くんと、リリィに聞いておきたいことがあるの。それを聞くまではここを動いたくない」
ポニテさんが大剣で僕の行く手を阻んだ。拒否権はなさそうだ。
「……簡単に済ませてくれるなら」
「大丈夫。とても簡単な質問だからさ」
行く手を遮っていた大剣が持ち上げられた。
「質問の一つ目からね。治癒魔法や肉体を回復させるアイテムがないのに、リリィはどんな手段を使って真悟くんを治したの?」
僕の傷が一瞬にして治ったのは驚いたのだろう。僕はリリィが唱えた説を簡単に説明した。僕らの肉体はレリックを装着し適正者となった時点でレリックと同質となった。故に瞬間復元によってき助かったと話した。
「瞬間復元を使いきらなくても肉体を治せるのは大きいね」
「ただ痛みは尋常じゃないから。本当に適応者と戦うのなら、武器以外で攻撃を受けないほうがいい。僕の二の舞いになります」
「二の舞いならないよう、適応者との戦い方、殺し方を教えて。私は真悟くんに頼らず一人でも戦いたいの。もう守られたくない」
ポニテさんにとっての本題はこっちか。やる気になっている彼女は質問することに抵抗がないようだけれど、答える僕としては悩ましい。それに、適応者の殺し方をハンプティさんや虎猫さんの前で教えるのは気が引ける。
「真悟くん、目の前にいる私を気にかけて」
真っ直ぐで感情剥き出しの目でポニテさんが僕を見つめる。
僕の心の中はお見通しというわけか。大人しく素直に答えるしかなさそうだ。
「まずは守り方。武器だけでなく体自体にも闘気を込めること。そうしないと、相手の攻撃に肉体は耐えられません。僕の右手みたいに切り裂かれます。もしこれが魔法であれば、甚大なダメージを受けたことでしょう」
「じゃあ、肝心の適応者を殺す手段は?」
「殺すではなくて、倒し方と言わせてもらいますよ」
「いいよ、どっちでも。私が戦える手段を教えてくれればいいの」
「まずは前提の話。ゲームでは攻撃しても一定のダメージか、スキルに付随したダメージしか与えられない。でも、モンスターによっては部位破壊があります。ダメージの通り方は違いますよね。ただし、対人となった場合は部位破壊がないから、前者のダメージしか通らない。ここまではいいですね?」
「うん」
「現実で人を鋭利な刃物で刺したらどうなります? ゲームみたいに一定のダメージで済みませんよね?」
「それは当然じゃない」
「具体的にどうなりますか?」
「怪我をする。下手したら死んじゃう。んっと、どういうこと?」
「リンクしたここでも同じです。レリック武器や適正者特有の力である闘気を使えば、適応者を傷つけることが出来る。その逆もある。適応者は僕らを傷つけることが出来て、致命傷を追わせることが可能」
「そっか……レリックはレリックでしか破壊することが出来ない。私達の体がレリックと同じ……そういうことなんだね?」
「更に付け加えるとすれば、急所を叩けば簡単に倒せます。レリックの耐久ゲージなんて関係ありません。たった一度の攻撃で全てが終わらせることも出来るんです」
全てが終わる、それは殺せるとイコールだ。
「真悟くんがあんな攻撃したのは、早く決着を付けるためでもあったんだ」
あんな攻撃。ルイガの眼球を取り出し、両肩を壊し、心臓を抉った。圧倒的な力を持って僕はルイガを殺した。ああすることが最速で最善だと判断した。
「よくわかったよ。これで私は戦える」
「殺すのはダメです、と言っても聞き入れてはくれないんですよね」
「……」
僕がポニテさんにしたように、彼女も沈黙で返答した。
「真悟くん」
「はい」
「行こうか。棺のところまで」
「ええ。小学校までもう少しですから」
僕らの話を黙って聞いていたハンプティさんと虎猫さんに、手を差し伸べる。
「レリックモンスターの時だけでも戦ってくれれば大丈夫です。それ以外は、僕らに任せてください」
ハンプティさんと虎猫さんは互いに顔を見合わせてから、僕の手を握った。
握手を交わすことで僕らは和解をし、仲良し小好しで一緒に冒険だ、なんてなるはずもなく、僕らパーティーは重苦しい空気を纏ったまま、個々の思惑を吐き出せないまま、広い交差点までたどり着いた。
車道の先に国営放送局の建物、左手に見えるのは公会堂と区役所だ。交差点の信号機は青から赤に変わろうと点滅し始めた。焦って渡る必要もない。どの車も止まっているか、事故を起こしている。
区役所に向かって横断歩道のストライプを踏み込んだと同時に、ポケットが激しく震えた。
リリィがまた何かを伝えようとしているのはわかった。が、彼女の警告は遅すぎた。
黒い歪みが空中から地中から生じ、黒箱が落下もしくは浮き出てきた。幾つあるかなんて数えたくもないほどの量が出現した。大きさからして下級と中級の黒箱。
「なんでこんな形で黒箱が出てきたんだ」
通常、黒箱は予めフィールド上にしか存在しない。なにもないところから黒箱が出てくるなんてことは『Relic』の頃には起きなかった現象だ。
「リリィたちもここに近づくまで気づきませんでした」
ポケットの中に閉まっていたスマートフォンと一緒にリリィが飛び出る。
「白の創造主さまが作られたレリックに反応するトラップ型のレリックのようです」
僕は辺りを見回したが『Relic』にありそうな造形物は見当たらない。
「それらしいものなんてどこにもないぞ?」
リリィは神妙な顔で黒の創造主が創ったレリックを指差した。僕は懐疑的に、しかしそうだろうと思いながらリリィの指先に目を向けた。
「道路? いや、横断歩道がトラップなのか? 普通の横断歩道にしか見えないけれど」
「気づかないのも無理はありません。このトラップのレリックは擬態する薄い膜だったようです。ただ、トラップが発動してしまいレリック事体は消失しています」
言い換えれば、二度目の発動はしないということ。良い情報だ。
向こうも厄介な物を仕込んでくれたものだ。いや、黒の創造主側にとって棺は重要なレリックだ。これくらいの仕込みを用意して当然のはず。これも『生体』ではない『道具』みたいなレリックだ。
問題は、このおびただしい数の黒箱から製造されるレリックモンスターを倒さなければ小学校へは辿りつけないことだ。
小型の黒箱がガタガタと動き出す。製造時間が終わるとレリックモンスターが排出される合図だ。
「リリィ、正確じゃなくてもいい。下級と中級のレリックモンスターがどれほど出現するか教えてくれ」
「ツインテ、あんたも数を把握して」
ポニテさんも僕と同じ指示をだした。ハンプティさと虎猫さんは僕の指示待ちだった。
「ハンプティさんと虎猫さんは僕らよりも後方で。倒し漏れたレリックモンスターが襲ってきたら、ハンプティさんが率先して倒して下さい。虎猫さんは遠距離攻撃をメインに。余裕があれば前衛の僕らにバフをお願いします」
「わかった。任せてくれ!」
「バフも攻撃もちゃんとやるよ!」
後方の二人から威勢のいい言葉が聞こえる。戦いになれば無駄な感情に流されず、考えたりしない。
今のパーティー状況からすれば、この戦闘はありがたかった。
小型の黒箱が静かに動きを止めた。
そろそろだ。
立方体の黒箱が徐々に開きだす。どんな種族が出てこようと、問題はない。適応者でない限りは、あいつらはただの雑魚だ。
黒箱の扉が開かれ製造されたばかりのレリックモンスターが外界に顔を覗かせた。艶のない黒髪、額には鋭利な角が一本、眉はなく目つきは鋭い。赤黒い肌と隆々とした筋肉質な肉体。鬼人種下級のラクラか。攻撃力が高く、肉体は硬い。レリックモンスターの中ではかなり厄介な種族だ。
「ラクラの中級って、ラクズーハだったかな」
中型の黒箱はまだ製造中だ。できれば、中級のラクズーハが出てくるまでにはラクラの数を減らしておきたい。
「俺、鬼人種苦手なんだけど」
早速、ハンプティさんが弱音を吐く。短剣の攻撃力がさほど高くないからだろう。
「あたしがいるから安心しなってば!」
「期待してるからな!」
後方の二人は上手くやれそうだ。
わらわらと黒箱からラクラの大群が進行してくる。
「ポニテさん、一掃を始めましょうか」
「りょーかい。マジで任せてね」
僕とポニテさんは背中合わせをしながら、ラクラと戦い始めた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
いろいろと考えてのタイトル変更ですが、
受け入れていただけると幸いです。
今後ともよろしくお願いいたします。
※ 9/26 誤字修正




