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異世界化した現実世界を救済します  作者: アサクラ サトシ
第二章『消失技術の記憶』
120/143

023(116) 『戦闘回避(アボイド バトル)』

第二章023です。


 そんな取り留めのない、いかにも日常的で普遍的、ありきたりで月並みな、当事者同士にしか伝わらず、第三者からみればどうでもいい会話をこの辺ぴかつ超常現象真っ只中の異空間で交わすのはいささか特異な行為だった。

 異常な場所で通常の会話を交いする僕らは口角を上げて笑みをこぼす。

「って、笑っている場でもないんだよね。シンゴの推察通りに私たち、いやそれ以上の知性体が存在していたら、それこそ厄介な敵になるはず。だって、私たちはここにいるとされていた古代種のモンスターたちとは模擬戦闘を行ってはいたけれど、それらを操る存在がいるとしたら、未知の敵と戦うのは分が悪いんじゃないかしら?」

「予想だけれど、あのブルーマンに知性を持った状態ではないかと思うんだけれど」

「ブルーマン? ああ、ウォウドゥンのことね? まぁ、たしかにいい難い名前ではあるし、ブルーマンのほうがわかりやすいけど。あれの上位版となると、それこそ危険じゃない? ハインやシンゴが戦ったのは、ザラが作り出した古代種だとしても、あれには知性という知性がなかった。あれに知性、知識、知恵なんてものが備わっていたら、シンゴでも勝てる見込みが薄く成るような気がする」

 僕はブルーマンに勝てたのは正直いってかなりの崖っぷちからの逆転劇だった。完全に覚醒状態になれば問題なく倒せる相手ではあるけれど、今の僕や他の三人は完全覚醒は不可能だ。そして僕でさえも右腕を覚醒させるので手一杯。僕が纏っている闘気の殆どを使い切り、適正者でいられなくなる。元の人間に成り下がってしまう。

 一対一であれば問題なく倒せるだろう。僕でなくとも他の誰かが一時的かつ一部分の覚醒をしていればあのブルーマンを倒すことは可能だ。問題はこちらが何人いようとも、相手となるブルーマンが複数で現れたら、確実に全滅だ。

「深刻な顔しているところ、悪いんだけどね?」

「ん? なにかいい案でもあるの?」

「えっと。シンゴのいういい案っていうのは『ブルーマンをリスク低めに倒す』ってことだよね?」

「うん」

 それ以外に何があるというんだろうか。

「まずそこが間違っているんじゃないの? 私たちの目的は古代種や試作型適応者と多々書くことじゃなくて、最優先するべきことは『再生の器』となる設計図とその動力源の奪取なんだよ?」

「それはそうだけれど。戦闘を回避して奪えるとは考えにくいんだ」

「そこよ。シンゴ」

「そこ?」

「その考え方ってこと! たぶん、シンゴの本能が戦闘による『狂気』だからそちらの発想ないし思考しているんだと思う。私からすると、戦闘を回避し、場合によっては逃亡したっていいと思う」

「逃げる、か」

 もちろん、その発想が無かったわけじゃない。ただ、逃げ切っても最終的に戦うことになるのなら、臭いものに蓋をするのではなく、さっさと処分したほうが未来で起こるかもしれない危険を回避できるはずだ。

 一度でも相手に視認されてしまったら最後。どちらかが倒れるまで終わりが見えない、そんな気がする。少なくとも、ザラが作り上げたブルーマンとの一戦はそんな気がしていた。

「難しいって顔しているね。シンゴなら倒せる相手かもしれないけど、逆を言えば一部分の覚醒もしていない私たちじゃ、はっきり言って戦闘をしても勝てる見込みはゼロに等しいよ」

 そんなことはないと否定することはできなかった。通常の適正者が五人揃ってブルーマントと対峙しても勝てたとしても、こちら側の被害は大きいだろう。

「被害を出す前に逃げた方がよっぽど実りがあるってば」

 口調は軽いがシルヴィアの訴える言葉が重たかった。

 適正者としての力はほぼ無敵に近いけれど、それは何度も復活できる『Relic』というより異世界である『ルーシェンヴァルラ』の世界での話だ。こちら側の世界では今のところ蘇ることはできない。だからこそ、僕らの世界で復活を可能にする『再生の器』の復元は必要なのだ。

 そのために、命を落としてしまっては元も子もない。

「そうだな。深く考えるまでもないか。シルヴィアの名案に賛同するよ」

「決まりだね。シンゴなら分かってくれると信じていたよ」

「ここで戦えるのは地球上で僕ら五人しか居ないわけだからね。一人でも戦力が掛けることは避けた方がいい」

「うん。私たちはチームなんだからね。一致団結……というのはまだ難しいかもしれないけど、仮初でも力を合わせて戦おうよ」

 僕らは出会った数時間程度の仲だ。そんな人達に背中を預けるという行為は難しい。命を預けるに至っていないのかもしれない。ただそんな贅沢を言ってられるほど僕らには余裕すらなかった。

「でもさ。他の三人はどうなんだろうね。シンゴやダリウスは話せば分かってくれるタイプだからいいけどさ。その……ね?」

 シルヴィアが言葉を濁したのは、おそらく彼のことだろう。

「ハインのことだね?」

 こんなことを言うと、むしろ思っているとハインには悪いと思うのだけれど、彼は自分を過大評価し、そして無鉄砲なところがある。なにより感情に流されやすい。その結果、ザラが作り上げたブルーマンにほぼ即死状態にさせられ戦線を離脱した。

 本物のブルーマンと対峙してしまったら、彼は向こう見ずに、無鉄砲に、過去の過ちを繰り返すことも異問わずリベンジを試みるはずだ。いや、それは過小評価か。

 もしそんな戦い方をし続けたとしたら、第一次咆哮で生き残っていないはずだ。

 成長はするとは思うのだけど、僕はまだハインの全てを知っては居ない。だが、僕らの中で死にやすいのは彼だということは現段階では明白ではある。

「うーん。ハインだけじゃなくてイリアもなんだけどさ」

「イリアが? 彼女はそんな無茶をするようなタイプには思えないだけど」

「これは私の直感だけどね。たぶん、イリアはシンゴに近いタイプの適正者なんだと思う。思考を巡らせ、どうやって生き残るかとかじゃなくて、どうやって倒すかを考える感じ? うーん、なんかうまく説明できないんだけど……」

「考えながら戦うというのであれば、それは僕だけじゃなくてみんな同じだよ。思考する方向性の問題ではあるけどね。ハインだってブルーマンとの戦闘で負けはしたけれど、なにも考えずに、それこそ脳筋で、なにをするにも物理で殴るを繰り返すわけじゃないだろうし」

「そんなの三世代前のRPGだよ。ターン制ならカンストしたレベルで物理攻撃のみで倒せたかもしれないけどさ」

「ここはゲームではないからね」

「うん……じゃなくて、いまはハインとイリアのことだってば。本人が居ないところで話しても、脅威となる敵と遭遇していないから、なおさら無駄な話だけどさ。あの二人が無茶な戦闘をしなければいいんだけどさ」

「きっと大丈夫だよ。向こうにはザラがいる。彼女の力はチートに近い。そしてフリージアのオリジナルなのだから、解析能力も高い。うまくナビゲートしてくれるさ」

 と、希望的観測をしてみた。

「そんなにうまくいくといいんだけど」

 本能が破滅だというのに、彼女の心配性だというのが意外だった。

 そんな矛盾する彼女の心を垣間見た時、例のコール音と共に音声が乗ってきた。

『聞こえますか? ザラです。いま連絡が可能であれば通話をすると念じてください』

 タイミングがいいのか、悪いのか、ザラからのコンタクトだった。

「もしもし?」

『なんだ?』と、ダリウスもザラのコンタクトに答える。

 フリージアが応答しないのは地下にある動力源を解析中だからだろう。

『フリージアから聞いていますが、いまピラミッドのある辺りにいらっしゃるのですよね?』

 ちょっとザラの声に焦りを感じた。嫌な予感がする。

「そうだけど。なにかあった……というよりも何かを見つけたの?」

『察しがいいですね。敵襲です』

「ザラたちのほうに、それとも?」

『シンゴさんたちのほうです。ピラミッド付近に十一の個体が向かっています。おそらく試作型適応者です。私たちも全速で向かっていますが、私たちよりも先に試作型が早いでしょう。人数の多さも気になりますが、どうも確認済みの試作型適応者とは違う個体も混じっています。戦闘に成ることは避けられませんが無茶は禁物です』

 忠告をしてザラからのコンタクトは途切れた。

「どうやらザラもわかっているみたいだね」

 シルヴィアが苦笑いをしながら首を傾げた。

「ああ。無茶をするなということは、戦闘回避も念頭に置けといいたいんだろう」

 こちらがいくら戦闘を避けようとしても、相手は黒の創造主の手駒たちだ。敵対する僕らを簡単に逃がすわけもない。

 すると、視界の端に人影が見え始めた。

 どうやら殺意に満ちた連中がご到着のようだ。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

次回投稿は10/9です。

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