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異世界化した現実世界を救済します  作者: アサクラ サトシ
第一章 『終末の咆哮』
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009 『堕落(フォーリングダウン)』 後半

009後半です。


どうぞよろしくお願いいたします。

「痛いですか?」

 涙と鼻水にまみれた顔を上げると、脇腹を押さえたルイガが立っている。

「すごいカウンターだ。さすがのボクも即死したかと思いましたよ」

 即死? カウンターのダメージは強大だけど一撃で死ぬようなスキルじゃない。

「なにも知らないのは残酷ですね。闘気が込められたレリック武器で受けていれば肉体にまで刃は届かなかったのに。あの場面では触れるのではなく完全に回避するか、さっきみたく防御スキルを使っていれば正解だったのに」

 言っている意味はわかるけれど頭がまわらない。

「痛みで動けなくなるなんて、情けないな。レリック武器はまだ生きているのに、もう戦ってくれないんですか?」

 戦う、この痛みを我慢して戦うなんて僕に出来るのか。わからない、どうしたらいいんだ。

「つまらない」

 冷めた目でルイガが斧を一閃する。

「え?」

 左手に握られた僕の右腕。右腕が肘から先が切り離されている。一瞬の出来事過ぎて現実感がなく「あれ? どこにいったのかな? いや左手に持ってるか」などと呑気な感想が浮かんだ。

切り離された腕から血が噴き出る。

「あああああ!」

 さらなる激痛に地べたを転げまわる。衣類が僕の生暖かい血で染まっていく。体が、脳が、血が足りないと訴えている。

「痛いですか? 痛いですよね。痛みに屈服しますか? 敵意を向けて、ボクと戦ってくれます? ボクとしては後者を選んでもらいたいなぁ」

 この痛みに耐えて戦うなんて出来そうにない。

「これで終わりにしようか」

 ルイガがあの薄い笑みを浮かべ、斧を振り上げた。

「させるか!」

「は、ハンプティ……さん」

 はっきりとは見えないけれど二本の短剣らしきもので斧を止めている。どうして……後ろに下がっているように指示したのに。こいつはハンプティさんが敵う相手ではないのに。

「悪いけど、あなたは弱すぎる。武器すら不要だ」

 ルイガの拳がハンプティさんの腹に突き刺さる。

「う! うぉおおえ」

 ハンプティさんは胃液を撒き散らして地面に突っ伏した。

「ハンプティ! この!」

 今度は虎猫さんまで前に出てくる。

「虎猫さん、来たら駄目だ」

「でも、シンちゃん……」

「全滅だけは……避けたい。ここは僕がなんとかするから」

 口からでまかせ、気休めの言葉だということは虎猫さんも承知しているはずだ。

「片腕を無くしても、ボクと戦ってくれるなんて。うれしいなぁ。じゃあ、次の一撃はどうやって対処してくれるのかな」

 太陽の光が斧を鈍く光らせる。そこに赤い液体が見えた。僕の血だ。あの巨大な斧は僕の頭を穿つだろう。

 死の映像が頭の中で再生される。脳天に突き刺さる巨大な斧。飛び出る脳と血と眼球。そして口からは舌。ズルリと引き上げられた斧にも僕の一部だった肉片と血が付着している。

「真悟くん! ダメ、やめて! 殺さないで!」

 遠くからポニテさんが叫んでいる。そっか、ポニテさん、心配してくれるんだ。情けないな、こんな情けない姿を見せるなんて。死ぬかもしれないのに恥ずかしいと思える自分が滑稽だ。

 僕の方へと駆けつけるポニテさんの姿。

「他人の心配している暇はないぞ?」

 適応者の剣術士が素早い剣撃を繰り出す。ポニテさんはかろうじて大剣で攻撃を防いだ。

「ポニテさん!」

「大丈夫だよ。私は大丈夫。でも、真悟くんが」

「その通り。ボクがこの斧を振り下ろせば、あなたは死にます。人は心が折れた瞬間よりも、心が折れる直前に見せる悲痛な顔がいちばん生きていると思わせてくれる。ゲーム以上の楽しみです」

「ルイガ、お喋りが過ぎる。殺すなら早く殺せ」

 適応者の剣術士が僕の死を急がせる。

「やめろーーーー」

 ポニテさんがルイガに向けてスキルを打とうとするが剣術士の適応者によって阻まれる。

「助けたかったら俺を倒せ」

「どけよ。どいてくれよ! お願いだから!」

「見苦しいな」

 適応者の剣術士がポニテさんに剣を振るう。

 剣と大剣が恐ろしいスピードで攻防を重ねる。

「そうかな、必死に助けようとする姿は素晴らしいよ。だからこそ、守れなかった時の絶望が見たい」

 僕が死んだら次の標的はポニテさんに移る。きっと、ポニテさんは怒り狂って無茶苦茶な戦い方をするだろう。あの人は自分の友達や仲間を傷つけられることを嫌う。本当に死んでしまったら、彼女は捨て身で戦う。

 彼女を助けられる人がいなくなる。

 駄目だ。そんなことは許されない。生きたい。生き延びたい。どんなにみっともなくとも生きて、僕はポニテさんを助け続けたい。

 何としても生き延びる。誰でもいい、僕にもう一度、戦えるようにしてくれ。

「口先だけですか。しかたない、一思いに斬首してあげましょう」

 だ・れ・か……

「リリィがさせません!」

 地面に青い円陣が浮かび上がる。原宿駅で僕を守った加護の円陣だ。

「リリィ……?」

「あーぁ。出ちゃったか。黎(れい)王(おう)の言うとおりさっさと殺しておけば良かった」

「真悟さま、すみません。すぐにお助けすることが出来なくて。適正者さまの闘気が著しく失われないと飛び出せなかったのです」

「それと、ボクらがいると強制的に隠れるようになっているからね。基本、適正者同士の戦闘において妖精のサポートは得られないから」

「白の創造主さまを裏切っておいて、その口が適正者と言うのか!」

「元適正者だからね。君たちはボクらを適正者と誤認した。本当、白の創造主って爪が甘いや」

『Relic』でプレイヤー同士が戦闘時における話をしている。そんな設定もあったなと思いだしていると、なんだか痛みすこしだけ和らいだように感じる。

「リリィ、ありがとう。でも、この円陣じゃあいつの攻撃は防ぎきれない」

「真悟さま、喋らないで下さい」

 リリィはアイテムリストから瞬間復元の瓶を取り出して栓を抜く。

「どうして、それを」

 僕の肉体はレリックでもないのに、どうして瞬間復元を?

「リリィの考えが間違いでなければ……これで!」

 右腕の先を失った肘と、左手に持った右拳の部分と腕の切断面にリリィは瞬間復元を一滴ずつ垂らした。切り離された腕の部分がほのかに白く光った。腕だけではなかった。衣類やアスファルに付着した血までもが白く輝く。

「これは、どうなっているんだ」

「闘術士さんも優秀なら、必然的に血肉の遺伝子を授かった妖精もまた優秀ということですね」

 ルイガが面白そうに言う。

「すまーとふぉんの中で、リリィは考えました。こちらの世界とリンクしてしまったことで、様々な法則、概念が一新されている。そして黒の創造主が新たに創ったラズルラブリの花のおかげである可能性を見出しました。あの花の影響を受けないのはレリックを装着しているから。ということは、装着時は適正者さまもレリックの一部になるのではないかと」

 血がどんどん体内に戻っていく。最後に右腕が一本に繋がる。痛みは消え、切り離された神経の一本一本、肉が繋がっていく。

「リリィの考えは間違えではなかった。これで、真悟さまは再び戦えます」

「リリィ……」

「戦闘が出来る状態へと戻ってしまいました。リリィの役目はここまでです。真悟さま、生き延びてください」

 リリィはニコリと笑ってスマートフォンの中に戻っていった。

「完全復活おめでとうございます。続きをはじめましょう……か!」

 僕の首目掛けて襲ってくる斧の刃を闘気が込められた手の平で受け止めた。

残念、僕も学習しているんだ。

「ヒント、出し過ぎちゃったかな」

「理解したよ。このリンクした世界での戦い方、倒し方、そして君たち適応者の殺し方も」

 手の平にさらなる闘気を込めて斧の刃を砕く。

「くっそ!」

 武器の部分破壊によってルイガが怯む。

「良いんですか? ここはゲームじゃなくてほぼ現実ですよ? ボクらを殺したら殺人だ。人殺しだ! そんな勇気がありますか? 罪悪感に苛まれませんか?」

 会話をするのも、声を聞くのも煩わしい。

「外気功・拳撃」

 このスキルは溜めた闘気を手甲に纏わせることで強度、硬度、速度を引き上げて、五回の連続攻撃を可能とする。

 ルイガの攻撃箇所はすでに決めている。まずは喉元。耳に障るお前の声を潰す。

「が!」

 次に両目。二本指で眼球をくり抜く。両肩の破壊。手から離れた斧の取っ手も壊す。

 最後の一撃を放つ前に言っておきたいことがあった。

「罪悪感とかいったね。無いよ。そんなの」

「が、あ……?」

 失った両目で僕を探している。

「君たちは黒の創造主さまに恩恵を受けている」

 最後の一撃は胸部。──心臓だ。僕の右手甲がルイガの体を貫通させる。右手には鼓動を止めない心臓の感触がある。

「は……あ! ああ」

「君たちは死なない。復活が出来るからだ。そうだろう?」

 彼の耳元で優しく囁いた。

「ぜ、い……がぁい」

 潰れた声。口から吐き出される黒い液体。

 正しい答えを導き出したことに満足して、僕は遠慮なく彼の心臓を握りつぶした。

「ま……だね」

 ルイガは口元を緩ませて再会の言葉を残し消え去った。

「黎王さんでしたっけ?」

 僕の一方的な攻撃、いや殺人行為を傍観していた剣術士の名を呼んだ。

「あなたの相手は僕がします」

「悪いな、勝算が見えない戦闘はしない主義だ」

 黎王は剣を納めると、妖精を使わずにアイテムリストを開いた。

「闘術士のシンゴ。お前は要警戒適正者として覚えておく」

 アイテムリストを操作し終えると、彼の背後にポッカリと黒い空間が開いた。

「それとルイガはしつこいから、また遭うかもな」

 黎王は捨て台詞を吐いて、黒い空間の中に入り込み消えていった。

 こうして僕らは初めてレリックモンスター以外の敵を撃退した。

 得られた情報も多かったが代償もあった。

 適応者の圧倒的な強さによる恐怖心が植え付けられた。それは自分たちの弱さを認識させられる。

 恐怖心は適応者だけではなかった。

 酷い殺し方をした僕をもみんなが恐れたからだ。

最後まで読んでいただきありがとうございます。


明日、9/24からの投稿についてお知らせします。

投稿一日一回に戻し、投稿時間は19時から20時頃です。


投稿について、また変更がある場合は、

あらすじかこの後書きで記します。


今後ともよろしくお願いします。

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