021(114) 『解析終了(ジ・エンド・オブ・ジ・アナライズ)』
第二章021です。
『こちらも到着したわ。どうやら地下へと続く扉みたいだけれど、シンゴたちも確認はできている?』
「うん。砂に大部分は隠れているけれど、砂を払えば」
言いながら、僕は片足を使って砂で覆われた部分を払った。
正方形の形をした扉は中心に円が描かれている。円の中心に先ほど見た左右にわかれた取っ手部分がある。
「この扉の下に階段でもあるのかな?」
『さぁ、開いてみないとわからないわ。私が探知できているのはレリックの反応だけなんだもの。詳しい地形までは私の力をもってしても判断できないの』
「じゃあ、生体反応は?」
『……ないわね。古代種のモンスターに襲われるという危険はないんだけど。問題はそこじゃないのよ』
「どういった問題があるわけ?」
シルヴィアがフリージアに問う。
『ここはトラップのエネルギー供給源がある。それは古代シュメール人が作り上げた動力源よ。けれどその形状、素材までも実際に見るまではわからない』
「正体不明の何かで作られている、というのはゲームではよくある話ではあるけれど、それのどこに問題があるの?」
『よーく考えなさい。古代シュメール人の科学技術と現在地球の科学技術が同一だとでも思っているの? おそらく私たちの世界、ルーシェンヴァルラの科学と同じくらいの水準を誇っていたはず。はたして異文明科学が創造した遺物に私たちの『レリック』が通用するかという話よ』
「壊せないかもしれないってこと?」
『んー、厳密には違う。物理法則はどの世界でも確立されているはずだからね。私が問題視しているのは、物理攻撃や闘気の攻撃で破壊はできても、私たちに害する影響がでるかでないかの話。一万年以上も活動し続ける動力源よ? 下手に壊してメルトダウンしてごらんなさいよ。いくら適正者であっても死ぬ可能性だってある』
フリージアは見た目こそ少女ではあるけれど、その中身はルーシェンヴァルラの白の創造主(の複製体)であり元科学者だ。彼女の危惧するのも頷ける。
『脳筋プレイを行うなってことだろ? じゃあ、どうやって壊すんだ?』
声の主はダリウスだが、面倒くさそうに両腕を上げているポーズが目に浮かぶ。
『だから、そのための私でしょ? いい加減に私の存在をちゃんと認識しなさいよ。この中で唯一、科学的知識と解析が行えるのよ。力任せじゃなくて、より安全な破壊工作を導き出してあげるわ』
安全に破壊なんて言葉は違和感しか抱けないけれど、使い方として正しいと思えるのが不思議だ。
「フリージア。この地下に入って動力源を見つけるまではいいとして、解析するのにどれ位の時間がかかるんだ?」
『それも実物をみてみないことにはなんとも言えないわね』
「ここでああだ、こうだと話をしても埒が明かないということだな」
『そういうこと。とにかく通話はこのままにして、地下へ入るわよ。いいわね?』
僕とシルヴィアは見えないが、しかしピラミッドの反対側にいるフリージアとダリウスに向かって頷いた。
扉は予想に反して軽かった。というのも当たり前で、僕らはレリック武器を装着ないし装備をしているので適正者となっている。プロのスポーツ選手以上の身体能力を手に入れているのだから当然だった。
分厚い扉から見えたのは、三人ほど同時に降りられるほどの幅を持った下降階段だった。
どういう仕組みなのかわからないけれど、光源もないのにその中は明るくかなり下のほうまで見渡すことが出来た。
「こういうのをオーバーテクノロジーというのかしらね」
シルヴィアも同じような疑問を抱いたらしい。明るい天地と壁を見渡しながら口にした。
「そうだろうね。どれ位の年月を積み重ねれば、古代人に追いつけるのかわからないけど、現代の科学で満足しているのであれば行き過ぎた科学に憧れはしないよ」
「同感ね」
階段を下りきると、ドーム状になった空間にたどり着いた。半球体という感じだろうか。天井から地面まで完璧な球体となっている。まっ平らな地面は琥珀色をしたタイルが敷き詰められている。
「こんな空間をどうやって作ったのかしら。素晴らしい以外の言葉が見つからないわ」
シルヴィアが感嘆を漏らす。
「この場所がそんなに珍しいの?」
「地下建築にはそこまで詳しくないけれど、人の高さよりも数倍以上の高さがあるのに、完璧な半球を作り上げている。どうやって削ったのか……アイスクリームディッシャーで削りとったみたいに綺麗な造りだもの」
ディッシャーという言葉は聞き慣れなかったけれど、たぶんアイスクリーム屋でみるアイスをすくい取るアレだろう。
巨大なディッシャーを使ってくり抜くのなら容易いかもしれないが、そんな巨大な器具でくり抜くとは流石に思えない。やってたとしたらかなりシュールな絵になる。
『建築技術は専門外だからわからないわね。もとい、私たちが注目すべきはこの広い空間ではないでしょう?』
フリージアから横槍がはいる。あまりに巨大で広い空間に驚いていたが、当初の目的であるトラップのエネルギー動力源を見渡してみたが、なにもなかった。
『どういうことだ?』
ダリウスの質問に僕が同調する。
「なにもないように見えて、実はあるとか?」
『透明化させる必要性なんてないだろ』
「ないね」
『はいはい。素人さんたちは黙っていなさい』
フリージアの小馬鹿にしたような言い方も、そろそろ慣れてきた。素直になれない少女にしかもう思えなくなった。
『ねぇ、シンゴたちは今どの辺りに立っているのかしら?』
「僕らはまだ部屋の入り口にいる」
『下手に動きまわらないのはいいことよ。その出入り口を背にして右手側の壁に窪みのようなものはないかしら?』
僕らは言われた通りに右手の壁際に視線を移すと、そこには手の平サイズの窪みが見て取れた。
その窪みを注視する。模様? いや幾何学模様か絵文字といったほうがいいのだろうか。球体や三角形が見て取れ、それらの模様を棒線が繋いでいる。
『フリージア。この模様は文字のようにも見えるが、意味はわかるのか?』
『わかるわけ無いでしょ。これは失われた言語なんだから。はるか昔に統一言語が廃止され、種族眷属人種別で複数の言葉なんだもの。その文字を読み上げることはまず不可能。ロゼッタストーンでもあるのなら、話は別だけどね』
向こう側にいるダリウスとフリージアが漫才のようなやり取りを始めた。いがみ合うというより、友人同士の言葉遊びみたいに聞こえる。僕とシルヴィアと同様に、ダリウスとフリージアにも関係性が発展したのかもしれない。フリージアの見た目は少女だけど、大丈夫かな。
「シャンポリオンが現代にいたらいいのにね。ん、でも、もしかしたらあるかもよ? シュメールもエジプトも同じ年代に栄えた文明のはずなんだから」
と、ダリウスとシルヴィアが古代文明の話題に花を咲かせていたが、僕はまったくついていけなかった。
ああだ、こうだと話が盛り上がっているところにフリージアが甲高い声で叫んだ。
『ああ、もう五月蝿い! 気が散るでしょ! ていうか、黙って言ったじゃない!』
当然の怒りに、ダリウスとシルヴィアは各々に謝罪をした。
しばらくの静寂の後、フリージアが吐息を漏らした。
「なにかわかった?」
『解析は終了したわ。さすがに古代文明。というより異文明科学と言うべきかしら。さすがに骨が折れた。で、この窪みはこの施設の起動スイッチみたいなものね。これは特殊な人体エネルギーを流し込めば起動する仕掛けになっているようね』
人体エネルギーか。
「闘気でもいける?」
『ご明察。でも、大量の闘気を流し込まないで。イメージでいうなら静電気程度よ』
ごく少量ということか。
僕は窪みに触れて、闘気を流しこんだ。
──すると
青白い光が室内を照らす。
淡い目眩ましを受けた後、眼前に現れたのは形容しがたい模様をした巨大な土器。そして、その土器の真上には宙に浮かぶ水晶体だった。
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次回投稿は9/25です。




