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異世界化した現実世界を救済します  作者: アサクラ サトシ
第二章『消失技術の記憶』
117/143

020(113) 『無自覚(アンカンシャス)』

第二章020です。

「えっと……」

 唐突な告白に戸惑ってしまった。無理もないとか、生き残ることに必死だったとか、つまりは仕方ない、そんな一言で済ますことが出来なかった。

「逃げ延びて、一人になって、友達を見捨てたことに激しい自己嫌悪を起こした。その直後だったかな? 『Relic』の世界にある植物が街中を多い始めた頃、私はようやく妖精の声を聞いて、『適正者』になった。生き延びるためじゃないよ?」

「友達を救うため」?」

 その友達はオンラインゲーム『Relic』のプレイヤーでも無かったのだから、Relicモンスターに襲われてそのまま棺に収容されたはず。シルヴィアがここにいるということは、その友達も救えたということになる。

 僕はシルヴィアから「そうだよ」という言葉を待った。それこそ脊髄反射の如く、即答で帰ってくるものだと思っていたのに、彼女は焦らすようにたっぷりと間を置いてから白い歯を見せた。

「死ぬためによ」

「え?」

 あまりにもネガティブな発現に続く言葉がなかった。

「正確には殺されてもかまわないつもりだった……どうせ、私が適正者になったところで大型モンスターも棺の回収も番人も……適応者なんて倒せないって。友達を見捨てた私が英雄になれるわけがない。知らない誰かを助けるなんて痴がましい。それならいっそ、死ぬ気で殺されて当然のつもりで戦った」

「けれど、シルヴィアは覚醒したからここにいる」

 異世界であるルーシェンヴァルラと融合し始めたあの空間は『境界を越える者』を倒して初めて開放される。そのためにはまず覚醒しなければいけない。自分の内に眠る本能を呼び起こすことによって。

「そうだよ。私は覚醒した。自分自身を責め続けること。それはもう自傷ではなくて自死に近い行為だった。私の本能はね、シンゴ? 破滅なの」

 背中に戦慄が走った。善悪もない。そこに存在するすべてを消失させそうな言葉。

「シンゴやダリウスは適応者との戦いで覚醒したようだけれど、私は違うんだ。私はね、とにかく死を望んだ。自分もだけれど、それ以上にこの状況を作り上げた黒の創造主が作り上げた全てに死を与えたかった。破滅を望んでいることを知った私は私の中に眠る本能を呼び起こしたの」

「とても、そんな本能があるようには思えないけれど」

 僕は軽く笑ってみせた。そうでもしないと、シルヴィアが纏っている空気に耐え切れそうになかったからだ。

「表向きには、みんなを助けるためにといいながら、私は自滅を望みつつ、その想いと同等に黒の創造主すべてを滅ぼしたかった。でも、今の私にはその本能がない。覚醒した力は共に戦ってくれたギルドの仲間に奪われ、そして彼は死んだ。こんな私を生かすために死んでいった」

 ピラミッドの周りにある通路はちゃんと整備されている石畳なのだが、妙に足が重い。

「私がここに居る理由はね。今度こそちゃんと誰かのために戦いたいからなの。本能に飲まれずに。逃げないために」

 敵だけでなく、自分からも逃げないという戒めにも聞こえた。

「シンゴの本能が狂気だと知った時、顔に似合わず恐ろしい本能だと思った。でもさ、人間誰しも思いもよらない面を持ち合わせているんだと気付かされた。そして、君はそれと向き合いながら戦っているとも感じたの」

「僕だって。シルヴィアと似たようなものだよ。覚醒して、戦いに身を預けた時、僕はただの戦闘狂だった。強い相手、殺意を真正面からぶつけ合える程の強者。殺し殺される戦いを、僕は望んでいた」

 僕の独白に、シルヴィアは「ふふ」と小さく笑った。

「なんだ。似た者同士なのね。私たちって」

 感情は違うけれど、方向性は同じということか。

「シルヴィア。どうして、いまこんな話をしようと思ったの?」

 この話を振ったのはシルヴィアだったし、絶対に今話すような内容でもなかった。どうしてシルヴィアがこの話題をあげてきたのか理解できなかった。

「知って欲しかったの。私がどんな女で、どんな気持ちで戦っているのか」

「……その意図は?」

「自分で考えて、なんて答えたら意地悪だよね。簡単なことだよ。こんな私でも仲間として見てほしかったの。本当の私を知った上で、接して欲しかった。それだけなの。もしこのまま猫を被っても、意味が無いと思えたから」

 言いたいこと、伝えたいことが、なんとなくわかった。

 シルヴィアは孤独だったのかもしれない。

 戦いに身を投じて、自分でも知らなかった本能を覚醒させてしまった。それは普通の適正者とは共有できないことだ。

 過剰な力は共感を得るどころか畏怖を与える。僕もそれは身にしみて感じ取っている。

 覚醒した適正者たちが集まれば爪弾きされること無く、受け入れてくれるのだろうと期待していたのだ。

「それで、どうなのかな? 私はシンゴと一緒にいられるかな?」

 本当の私を知っても平気とそんな風にも受け取れた。

「安心していい。僕らは仲間だ」

「よかった」

 陰鬱そうな表情は何処へやら。シルヴィアは本当に嬉しそうな顔をして抱きついてきた。

「ちょっと、シルヴィア」

「いいじゃない。誰かが見ているわけでもないし。それに、私はシンゴの戦い方を見て、純粋にカッコいいと思えたの。それこそ、昔はやったアニメの主人公みたいにね」

 どんな内容のアニメで、どんな主人公なのか具体的なことは聞かなかった。

 おいそれと聞けるはずもない。そんな理想的な主人公と僕を重ねられても赤面して動けなくなるだけだからだ。

 と、頭で余計なことを考えても無駄だった。

 おもいっきりシルヴィアの胸が僕の腕に当たっている。

 色々とやばい。

「あの、シルヴィア。僕からもちゃんと伝えないといけないことがあるんだけれど」

「日本にいる彼女さんのこと?」

 知っているのならなぜこんなことをした。

「私は気にしないよ」

「気にしようよ。そこは本当に!」

「一途なところは可愛いね。そういうところも好きよ」

「いやいやいや。さっきのシリアスな会話はなんだったの?」

「それはそれ、これはこれ」

「悪いけど、僕には浮気をする勇気はないし、理子さんを怒らせるようなことは本当に無理です」

「もしかして怒らすと怖い子なの?」

 怖いってものじゃない。何をされるのかも……想像したくないほど恐ろしい。

 とにかくといいながら、僕の腕に抱きついているシルヴィアを強引に引き離した。

「もう……いいじゃない」

「だから良くないって。誰も見てないとかそういう問題でもないからね? これは僕の気持ちの問題なんだ。それに、僕らはここへ遊びに着ているわけじゃない、そうだろ?」

「それもそうね。ごめん。ちょっと調子に乗っちゃったみたい」

 意外とあっさりと引き下がった。調子に乗っていたのは自覚あるんだ。

 そっと胸をなでおろすと、シルヴィアはまたとんでもないことを口にした。

「黒の創造主との決着がついたら、リコ? シンゴの彼女とも決着をつけるわ」

「本当にやめて!」

 今日一番の悲鳴が僕の喉から発せられた。

 シルヴィアは本当に自分の本能が『破滅』だと自覚が無かったのだろうか。無自覚であればなおさら怖い。

 若干の血の気が轢いた時、耳元に聞き慣れたコール音が聞こえた。

「もしもし?」

 通話ボタンを押すような気持ちでコールに対して応えた。

『いちゃついていないわよね?』

 フリージアの第一声は、なんとなく怒気が含まれた声だった。

「してないよ」

 平静を装ったがうまく出来たかわからない。

「まぁ、いいわ。それよりもそっちも目的地につくから心の準備はしておいてね」

「あとどれ位でつく?」

『あと……その歩幅で五歩よ』

「え?」

 と、答えると同時に『はい、着いた』とフリージアが教えてくれる。

 地面には砂に埋もれた扉とその取っ手が見え隠れしていた。


最後まで読んで頂きありがとうございました。

次回投稿は9/18です。

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