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異世界化した現実世界を救済します  作者: アサクラ サトシ
第二章『消失技術の記憶』
114/143

017(110) 『遭遇(エンカウント)』

第二章017です。

 フリージアが示してくれたその空間は、ザラが作った異空間とも、いまあるこの空間とも違う。全くの異質さを放っていた。

 空は三原色が常に入り混じり、渦巻き、不特定の動きを見せては流動している。

 石や木々で作られた建築物が多数見受けられた。古代ローマ王朝にあるようなパルテノン神殿みたいな宮殿みたいな巨大建築物までもあった。しかも、完全な形で残っていて、塗装されてから数十年の月日しか経過していないようにも見えた。

「エフェソスにあるような建築物ね」

「エフェソス?」

 シルヴィアが口にした聞き慣れない言葉にオウム返しをした。

「イスタンブールにある遺跡の名前よ。それにここはトルコよ? それくらいの知識くらいはあるわ」

 それくらいの知識もなくてすみませんと謝りたくなった。僕の表情かもしくは態度を見てか、ダリウスが僕の肩を軽く叩いた。

「シンゴ、気にするな。俺も知らん」

 がっはははと豪快に笑ってみせるところを見ると、ダリウスの図太さがちょっとうらやましく思えた。

「私もそこまでは詳しくないけどね。でも、ほら、こういう建築物とかよくゲームの世界でも使われるでしょう? 私もファンタジー系のRPGが好きだったからネットで調べたことがあっただけ。多分だけど、こういうことに詳しいのはハインっぽいのよね」

「ハインは考古学に博識な感じがしたね」

 ザラの家で初めて会った時、彼は得意げもなくその知識を持ってザラと会話を広げていた。

「出身地がドイツなんだし、それなりの知識は持っていたのかもしれないけどね。もしかしたら、考古学でも学んでいたのかも」

 シルヴィアの推理になるほどと納得している側で、後ろからパンパンと手を叩く音が聞こえた。

 両手を叩いてすぐ、フリージアは腕を組んで面白くなさそうにこちらを見つめている。

「ほら、お喋りしてないで早く行きましょう。もう私たち以外の異物はこのフィールドへ入っているわ」

「まさか、黒の創造主側の奴らか?」

「まさかもなにも、それ以外に誰がこの空間へ入れるというのよ。お察しの通り、適応者たちよ。おそらくシンゴが戦ったと試作型(プロト)適応者(タイプ)ね」

「フリージア。案内役とは聞いていたけれど、この遺跡のマップとかそういうのは持っているの?」

「無いわよ」

 即答ですか。

「おい、じゃあ、なにをどう案内するっていうんだ?」

「あわてないでよ。地図はなくても、私たちが求めている位置は把握できるの。アメリカという国は本当に便利でね。レリック……あ、こちらの世界でいう遺物のことよ? それらを集めている組織があったの。それらから此処、シュメール文明にまつわる遺物を分析したわ。それら遺物には特殊な波動を持っていて、同じ波動を放つ『レリック』へ向かえばいいという話よ」

「つまり闇雲に探すプロトタイプたちより早く、設計図や動力源を見つけることが可能だということだね?」

 フリージアは小さく頷く。が、彼女の表情は険しい。

「ただ……」

「? 他にもなにか問題が?」

「いえ、問題はないの。まぁ、いいわ。私はオリジナルと違ってあれこれ考えるよりも自分の目で確かめたいタイプだから」

 何か思うところはあるようだけれど、聞き出すのは難しそうだ。

「ちなみになんだけどよ。このフィールドに置いて、異物はプロトタイプだけじゃなくて俺らも同様だよな?」

 ダリウスはフリージアにではなく、ここから見える景色を見渡しながら言う。

「当然でしょう」

「ということはだ……正規のモノ(・・)たちは普通に存在し稼働中ってことでいいのかい?」

「よく分かったわね。これから間もなく、生の古代生物がご登場よ」

「わかるもなにもさ、あんな土煙をあげた動物が目に入れば嫌でもわかるってやつよ」

「え!?」

 僕とシルヴィアはダリウスが見据える先に視線を送る。

 まだ豆粒の大きさにしか見えなかったそれは、得体のしれない形容をした四足歩行の動物だということはわかる。

ダリウスは持っていたスマートフォンをレリック武器へと換装させる。

僕とシルヴィアもダリウスにならってスマートフォンを手にして、武器として装備した。

「ていうか、あれは何なの? 虎? 豹?」

 右手から闘気で作り上げた矢を持ちながら、シルヴィアが叫ぶ。

 僕に視認はできているけれど、姿形は虎のようではあるけれど、小さい頃に動物絵でみたネコ科のそれらとは明らかに違う点が多々ある。

 口元からみえるのは白い牙。両の目は瞳がなくて赤い瞳。紫色をした毛並み。しかし、それよりもまず目を見張ったのはその大きさだった。

「象に匹敵するような高さと幅だぜ、ありゃ」

 ダリウスが両手剣を古代生物に向けて構える。

「タイガーはタイガーでも、あれはサーベルタイガーよ」

 ああ、あの牙を(サーベル)と見立てたということか。でも、どこかで仕入れた知識によればサーベルタイガーはあんなに大きくはなかったはず。

「ほら、シンゴ、ぼさっとしてないであんたも身構えたらどうなの?」

 そう。直ぐ側まできていたサーベルタイガーは前足を上げ、後ろ足で跳躍していた。

 僕ら三人に大きな影が落ちる。

 そして、大きく開かれた口から見えたのは、全てを飲み尽くすような黒い穴がポッカリと空いている。

 あの食道、僕一人なら簡単に入るな、と頭に過る。

 血肉に飢えていたのか、サーベルタイガーの口の中は唾液に溢れている。

 と、このように長く描写できるほど、余裕があった。

 つまり、身構えるまでもないのだ。

「はぁ……」

 片足で地面を蹴り上げる。サーベルタイガーが舞う高さよりも、さらに高く跳躍する。

 無防備になった頚椎に軽く闘気を込めた手刀で貫いた。

「ギャフ!!」

 こんな悲鳴を上げたサーベルタイガーは勢いそのままにして地面へと落下した。

 白い土煙が周りを漂う。

 首元から手を抜き取ると、サーベルタイガーの神経に触ったのか、ビクンと体をうねらせた。同時に、首元から噴き出る赤い血が、僕の顔と体を汚す。

 しばらくその場に立っていたが、サーベルタイガーもそのまま、全身を汚した血もそのままだ。

「あ、そうか。ここは現実だった」

 つい一週間前は、レリックモンスターという、倒したら消えるという相手だったので、生の死体が物体として残るという当たり前のことに気づかなかった。

「見事な返り血だな。レリックモンスターたちも生きていたには違いないが、こうして死体が残るとなると、生物を殺したという実感は如実に伝わるな」

 ダリウスが顔をしかめる。シルヴィアも同じですこしばかりか動揺しているようにも見えた。

「前のときは普通にレリックモンスターを倒していたけれど、こうして死体があるっていうのは、ちょっとあれだね」

「これが、いまあなた達、適正者に置かれている現実よ。受け入れることね」

 フリージアはそう言いながら、息絶えたサーベルタイガーに近づく。

「おい、なにを」

「決まってるでしょ。採取するのよ」

 いつの間にかフリージアの手にはザラが持っていたオーブを手にしていた。

 サーベルタイガーの額にオーブを当てると、その死体はオーブの中に吸い込まれるように消えた。

「これは、ついでよ」

 と、フリージアは僕の方にもオーブを向けると、付着していた血があっという間に吸い取られた。

「今後、倒した古代生物は私が採取していくから、そのへんは安心しなさい。それでも、倒さなければ殺されるんだから、目的のためにはどんな相手でも殺しなさい。これが鉄則よ」

「言われなくて、わかっているさ」

「もちろんよ。そういう戦いは、もう経験済みだもの」

 あの第一次終末の咆哮を生き残った適正者は全員そうだ。倒さなければ、殺さなければ、いまここに立っていない。

「だが、まぁ……動物愛護団体が見たら、血相どころか怒り心頭にして俺たちを糾弾するだろうが」

 ダリウスの皮肉にさすがの僕も笑った。

「それでも、遭遇したのがモンスターの類ではなくて、ただの動物でよかったとも言えるよ。こちらの異空間で肩慣らしはできたからね」

 僕がそう言うと、負けじとダリウスが両手剣を振り回して、存在感をアピールする。

「次はこの俺だな。手応えのある古代種と遭遇したいもんだぜ」

「あのさ、ダリウス。私たちは討伐クエストに来たんじゃなくて、特定のアイテムを回収しにきたのよ? そこのところ、間違わないでくれる?」

 シルヴィアの冷静なツッコミにダリウスも「むぅ……」と言って口を閉ざした。

「さぁ、行きましょう。時間は有限ではないのだからね」

 フリージアが歩を進めると、僕らも横並びになって目的地を目指した。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

次回投稿は7/30です。


また、次回の投稿後、こちらの都合により一ヶ月間休載します。

よろしくお願いいたします。

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