014(107) 『タネ明かし(エクスポージャ・オブ・ア・トリック)』
投稿が一日遅れてすみません。
第二章014です。
ザラに向かって駆け抜ける。足の裏が地面から離れると、平面であったそれを抉り取り飛散していく。
ダリウスの突進も早かったかもしれないが、しかし両脚に闘気を込めていた僕の脚の速さ程ではなかった。
これなら間に合う。
あとは、ダリウスしだいなんだが、うまくやってくれるだろうか。
ダリウスは突進しながら両手持ちした剣を目線の高さまで持ち上げて水平にして構えた。たぶん、何かしらのスキルを使うつもりだとは思うが、刀身にはダリウスから流れ出た闘気を纏っている。おそらくレリック武器の強度ないし切れ味を上げているのだと思う。
闘気を纏っていないザラであれば、何の抵抗もなく串刺しにすることが出来るだろう。
さらに感覚を研ぎ澄ます。
視覚で見ているもの以外のモノまでもが感じ取れる。
ダリウスの殺気。
そして──
「オオオオ!」
雄叫びを上げながらダリウスはザラの胸部に向けて剣先を突き立てる。
ダリウスの剣先は見事に肉を貫き、骨を砕いた。
僕の左腕を貫いた剣先、刀身は僅かな赤い血で濡れている。
「がぁ」
「な、何を」
驚くダリウスを尻目に、僕は感じ取れたもう一つの視線(?)に注目する。
左腕に刺さった両手剣を引き抜き、直立しあうダリウスとザラを背中に残して、再びかけ出した。
左腕から感じられる痛み。手甲はすでに消しているので、レリック武器の恩恵もなくダイレクトに傷を追ってしまったが、必要最低限の痛みだ。
「おい、シンゴ!」
背後からダリウスの呼び声が聞こえるが無視だ。
目には見えていないが、彼女の残留した思念はまだ感じ取れている。
「そこだ!」
右腕を伸ばし視覚化できていないが、底にいる者を掴む。
「キャッ」
いかにも女性らしい悲鳴が耳に届く。
「さすが、ですね」
透明だったモノが徐々に輪郭を形成していく。平面であったものが立体化し、その姿に色がつき始めていく。
「チェックメイトだ。ザラ」
やがてザラの姿がその場に顕になる。
「それはどうでしょう」
彼女の右手にはいつの間にか彼女専用レリック武器のオーブが備わっていた。
「しま──」
オーブを目視した直後にザラを掴んでいた右手を離した頃にはもう遅かった。
体は硬直し身動きがとれない。
「詰みです」
ザラの言葉を耳にした直後、目の前が真っ白になり気がつけば僕は椅子に座っていた。
辺りを見渡すと、ここは僕が初めてザラの家に通された書棚と大きな机が用意された部屋だということに気がつく。
僕以外にいたのは、ダリウスとシルヴィアの二人。
どうやら二人も今しがた意識を取り戻したかのように辺りを見回し、お互いの存在に気がついた。
「どうなっているんだ。いや、そんなことより」
そういって、ダリウスが首を左右に振った。
「シンゴ、シルヴィア、お前たちはいつこの部屋に?」
僕とシルヴィアはダリウスと同じように首を振った。
「わからないわ。ここに来る直前、体が動かなくなって、気がついたらここに。えっと、そう、シンゴがザラを捕まえたんだけど、急に動かなくなって」
「俺もそこまでの記憶はあるんだ。いったいなにがどうなっている?」
二人は回答を求めるべく、僕に視線を注いだ。
「悪いけど、僕も最後の記憶はそこだ。本物のザラを捕まえることはできたけど、彼女の能力により強制的にここへ飛ばされた、らしい」
ふと、僕はポケットに収まっていたスマートフォンを取り出す。
研究室ではじめた戦闘開始時間がわからないから厳密にどれくらいの時間がたったのかわからないけれど、アメリカから到着して数時間程度しか経っていないようだった。
混乱する頭を覚醒めさすように、紅茶のいい香りが鼻孔を擽った。
その香りは僕らの背後から感じ取れるもので、振り返るとトレイに四つのカップを乗せ、こちらに近づいてくるザラの姿があった。
「ザラ」
ここにいる三人が口々に彼女の名前を呼ぶも、当の本人は返事をせず微笑んだままトレイに乗せた紅茶のカップを僕らの前に置いた。
「こうしたアナログな出し方もいいですね」
そう言って、ザラは初めて訪れた時と同様に、僕らの前に腰をおろし、そして紅茶を手元に置いた。
「どうぞ、召し上がってください。人工的に作った紅茶ではなく、本物の茶葉から作られた紅茶です。ほら、香りも……こんなに良い」
ザラが一口紅茶をすすると、僕らも彼女にならって紅茶を口にする。
独特の渋みと香りが口の中を支配する。ごくりと喉元を通りすぎても味と香りが居座り続けた。
「美味しい」
率直な感想がシルヴィアから漏れる。
「ええ、私もこの紅茶が好きなのです」
さて、と言いながらザラはカップを机に置いた。
「ここに発起人であるハインさんはいらっしゃいませんが、お答えをお聞かせ願えますか?」
「実力は認める。きっとここにはいないハインたちもそう言うだろうよ」
ダリウスが腕を組んで答える。
「では、私も一緒に同行してもよろしいのですね」
「異論はない。だが、気になることはある」
「なんでしょう?」
「あの力は、俺たち、つまり適正者だけに有効ではないよな。加えてあんたが作ったこの空間だからこそ出来た芸当でなければ、なおのこと言うことはないんだが」
「あれは私が敵対者だと認識した相手のみに有効となります。また場所も問いません。私はあくまでもサポートなのです。そうですね。さらに付け加えるのなら私専用のレリック武器『オーブ』の光が届く範囲内であれば敵対者の行動を封じることは容易いです」
「じゃあ、私からもいい?」
今度は遠慮しがちにシルヴィアが話しだす。
「ザラが二人になったのはどうして? 日本の忍者漫画で読んだことがあるんだけど、あれは分身の術みたいなものなの? それともザラが用意していたスペアのクローン体?」
「私もこちらにある現代文化をいくつか把握しているので、日本発祥文化である漫画も閲覧しているので存じていますが、忍者という特殊能力者が用いる力を使用したわけではありません。またクローン体でもありませんね。みなさんが私だと思われていたあれは人形です」
「人形?」
シルヴィアだけでなく、ダリウスも人形という言葉に疑問符を上げた。
「もしかして、二人は黒の創造主が作り上げた人形と対峙したことはないの?」
「シンゴは知っているの? あの精巧な人形のことを」
「ああ、前に同じような奴と戦ったことがあるから。たぶん、そうじゃないかなと思ってはいたんだ」
「それだよ。俺がもっとも気になっていることは!」
と、突然、ダリウスが叫んで、僕を指差した。
「な、なにが?」
「ザラが用意した人形ってのはまだ納得がいくし、シンゴが以前同じようなものと戦ったから対処ができたのも、まぁ、頷ける。だが、どうやって本物のザラを見つけることができたんだ。そのタネを明かしてくれないと今夜は眠れそうにないぞ」
「そのことか」
「まだだ。まだ聴きたいことはある。どうして、俺がザラの人形に立ち向かった時、邪魔に入ったんだ? あの行動も本物のザラを見つけるための伏線だったんだろ? なぁ、ちゃんと教えてくれ」
「伏線なんて大それたものじゃない。そうだな。まず部屋が広くなって初めに現れたザラが人形だと気がついたのは、イリアの矢を受けた後だ。ザラは初めにこういったはずだ。私を傷つけることは出来ない、とね。でも、イリアの矢は貫通した。そこで、目の前にいるザラは偽者で、攻撃させること自体がトラップだと考えた」
「……それで?」
「でも、ただ攻撃させるだけじゃ意味が無いとも考えた。理由はハインとイリアのやられ方だ。ハインは自分の大鎌でやられたのに、イリアは身動きが取れなかっただけだ。この落差が何に起因しているかというと、殺意の差だと思ったんだ」
ダリウスは眉間に皺を寄せ、ザラは納得したように頷く。
「じゃあ、俺があのままザラを傷つけていたら、ハインの二の舞いだったということか」
「そうなるね」
「ふざけんじゃねぇぞ! 俺はお前が攻撃しろと言ったから仕掛けたんだ。ヘタしたら俺が倒されていたじゃないか!」
「そうならないように、僕が止めただろ?」
「いや、そりゃそうだけど。というか、あの行為にどんな意味があったんだ?」
「さっきも言ったけど、ザラの能力は自分に向けられた殺意に呼応して反射攻撃をしていただけなんだ。まぁ、これは憶測だけどね。実際の仕組みはわからない。それでも、その殺意に呼応して攻撃を仕掛けているのなら、その瞬間は何かしらの動きがあると思ったのさ。だから、僕は半覚醒状態にして、闘紋ではなく五感を鋭くさせた」
パンと音を立ててシルヴィアが両手を合わせた。
「だから、透明になっていたザラを捕まえることが出来たのね」
「そういうこと。でも、捕まえることが出来ても、そこまでだった。もともと倒す気もなかったけどね。まさか、あんな形で終わりにさせられるとは思いもしなかったけどさ」
一通りしゃべり終わると、今度はザラが両手を叩く。
「あの短い間でよくそこまで理解されましたね。敬服します」
「褒められても何もでませんよ。それで、ハインとイリアは?」
「あのお二人は別室で休んでもらっています。私の反射攻撃によるダメージもありましたから。でも、これでようやくですね」
「ようやくっていったい何がだ?」
ダリウスはそれこそアメリカ人らしく、両手のひらを上にして、肘を曲げ、肩をすくませた。映画やドラマでよくみる『なんのことだ?』というジェスチャーだ。
「ようやく、古代シュメール人の遺跡に行ける、ということです」
ザラの瞳が、鋭くなったのを見逃さなかった。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
次回投稿は7/9です。




