013(106) 『再開(リザンプシャン)』
第二章013です。
イリアの手から放たれた光の矢は目では追えない速度でザラに的中する。替えの体があるとは言え、即死させるわけにもいかないと考えたのか、イリアの矢はザラの右肩から斜めに突き刺さり、胸部から矢尻が貫通している。
ザラの口元からドロリとした血が流れ出る。
「やっ──」
イリアは歓喜の声を上げることが出来なかった。
「イリア?」
彼女は矢を放った状態で硬直し、しかしその体は大きな力に抗うように震えていた。目に見えない膜のようなものに全身をラッピングされた状態、にも見える。
「これで、二人目」
ザラの声が、した。
視線を移動させる必要もなく、彼女は視界の端に立っていた。
精気のない目。唇から溢れでた血。
ザラの顔を直視することを拒否した体は全身に鳥肌を立たせた。
「うわ」
心霊体験映像でもみたかのような恐怖を覚えた僕は咄嗟に後退した。が、僕と真逆に動いたのはダリウスだった。
「うおおおおお」
雄叫びを上げるという表現もまた、僕とは正反対だ。
ダリウスが振るった両手剣は、僕たちとザラを隔てる一閃ともなった。ザラはダリウスが振り下ろした剣から逃れる。
「クソ! 俺の剣がそんなに怖いのか! ああ!?」
「怖くはありません。理由も述べたくはありません」
ザラは無表情に、また無感情に機械的な受け答えをした後、胸部から抜け出ている矢尻を掴むと強引に引き抜いて地面へと投げ捨てた。
イリアの矢は地面に落とされると同時に跡形もなく消え去った。
「まさか!」
消えた矢と同じように、なんの痕跡も残さずにイリアが消えていた。
「どうして、いつの間に?」
僕と同時にイリアに目を向けたシルヴィアが口元に手を当てながら驚いている。
「Fuck! Hussy is?」
口汚い英語だというのはよく知っているし、そしてダリウスからは焦りと怒りが混じっているのがわかった。
「gdzie poszedł?」
……あれ?
声色はシルヴィアそのものだったが、なにを言っているのかわからなかった。
日本語へ自動翻訳がされていない?
「To not understand our commnication? (俺たちに意思の疎通をさせないためか?)」
流暢な英語というのは変な話だけど……ダリウスの言葉は早口すぎて、聞き取れたのはコミュニケーションに、あとノットみたいな単語くらいだった。会話が出来ないとか言っているのか。
「いくらなんでも汚すぎるだろ!」
ダリウスの目が血走っている。本気で怒っているようだが、待ってほしい。
僕はダリウスに向けて手を伸ばした。
「待て、ダリウス。いまは何を言っているのかわかる」
「本当、ポーランド語で聞こえる」
なんだとっといわんばかりに、眉間に皺を寄せながらダリウスが僕らを睨んだ。
「お! おお! ちゃんと伝わっているぞ。さすがにあちらさんもやりすぎだと思ったんだろう」
ダリウスの言うとおり、僕らから会話を取り上げたらチームワークどころではなくなってしまう。
「どうやら、ちゃんと会話は成立できているようですね」
オーブを手にしているザラが安堵の声を漏らした。ザラと僕らは仲間ではあるけれど、いまは敵対中だ。それなのに彼女の表情とその声色が気になった。
ザラは僕らとの戦闘を望んでいなかったのは本心かもしれない。
「戦闘しているとさまざまなところでほころびが出てしまうようです。さて、もうお二人は戦うことができません。続け、ますか?」
オーブの色が白色から紫色へと変わっていく。
「クソ。本当にどんな武器なのか、どんな力を使っているのか検討がつかない。これじゃ対処の仕様がないな」と、弱腰発言をするダリウスだが、困っているようには見えなかった。
「ねぇ、シンゴ? 何か打開策はないかしら? もしなにも思いつかないのなら」
シルヴィアは手にしていた二本の短剣を両の腰に収めた。
「ザラ……ううん。白の創造主の力はあまりにも未知数よ。このまま戦ってもハインとイリアの二の舞いになるだけ。彼女の力を認めたらどうかしら?」
「俺も戦う必要はないとは思ったんだけどよ。けどよ……俺たちがこれから戦おうとしている奴らは、ルーシェンヴァルラにいたレリックモンスターじゃないんだ。本物の化物たちなんだぜ? 倒せなくとも、戦う手段と適正者の存在意義を見せなきゃダメだろ」
「うん、ダリウスの言いたいことはわかるんだけど……でもさ、彼女は私たちに力を与えた張本人だよ? これは簡単な数学と同じ。一桁同士の整数を足したり引いたりして導き出す回答みたいなものよ」
「シルヴィア。簡単だからだよ。もしここでザラと戦えないようじゃ、俺たちは明日の朝日を拝むどころか、ここから出られなくなる。戦う意志を捨てるな!」
ダリウスがシルヴィアの肩を強く掴み、眼力を込めた両目で睨む。
か細い溜息が、シルヴィアの口から漏れる。
「いいわ。わかった。私の負けよ。それに、彼女をこれ以上待たせるわけにもいかないしね」
シルヴィアの細い指が収めていた短剣に触れる。
「でもさ、どう戦うの? 二人がやられちゃったのはどう考えても直接攻撃を仕掛けた直後もしくは彼女を傷つけた後よ?」
「傷、つけた」
僕はシルヴィアが口にした最後の言葉を復唱する。
「本当に?」
「え?」
「なんだ、どうしたシンゴ? なにか分かったのか」
「……説明は後回しだ。もしかしたら、僕らは単純なミスを犯しているかもしれない」
「ミス? シンゴがなにに気づいたのかわからないが、勝てる見込みはあるのか」
「……ない」
「ええ!?」
シルヴィアが素っ頓狂な声をあげて僕の腕を何度か揺する。
「あそこでオーブを光らせている彼女には勝てないと言ったんだ」
ダリウスとシルヴィアがお互いに顔を見合うと、目を見開いて同時にこちらを見つめた。
「お話はそこまで」
頭上から球体が落下してくる事に気がついた僕らは散り散りになって別れた。
ザラの手元から離れたその球体、オーブは僕らがいた地面を深く刳り、陥没させた。
「私はみなさんと長くは戦いたくないのです。私を戦力として、サポート役として認めてはいただけませんか?」
「悪いが、俺たちもあんたに認めてもらいたいんでね」
「私は初めからみなさんを認めています。こんなことは無意味です」
「頭で認めていても、実際に戦う俺たちをみなければわからないことだってあるだろう。仲間として共に行動をするのなら、俺達の事もよく知るべきだ!」
ダリウスは、剣の剣先をザラに固定させて叫んだ。
「残念です……戦闘、再開です」
地面にめり込んだオーブは自動追尾でもあるかのように、攻撃する標的をダリウスに定めた。
「ダリウス! 避けろ!」
「無茶を言うな、馬鹿野郎!」
そういってダリウスは追尾攻撃をしかけてきたオーブを手にしていた剣で受け止めた。
ダメかと思ったが、ダリウスの剣は折れることもなく彼自身を守った。
ダリウスはオーブを剣でなんとかさばいていたが、守りに徹しているため苦しそうだった。
「シンゴ、どーすんだよ、これ!」
「守りが嫌なら、攻撃に回れ!」
「シンゴ、そんなことをしたらダリウスまで」
ついに腰に帯びていた二本の短剣を抜き出したシルヴィアが叫ぶ。
「大丈夫だ。僕を信じろ。ありったけの殺意を持って、彼女を、ザラを攻撃するんだ!」
僕の言葉に呼応して、ダリウスは攻撃しかけてきたオーブを大きく弾いた。
「信じるぜ、その言葉! 俺はよ、もうずっと頭に着てたんだ! 遠慮なしに殺しにかかってやるさ!」
ダリウスは闘気と殺気を込めた両手剣をかざしながらザラへと突進していく。
そう、それでいい。
僕は口元を緩めつつ、闘気を溜め込んでいた両の脚で駆けた。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
次回投稿は7/2です。




