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異世界化した現実世界を救済します  作者: アサクラ サトシ
第二章『消失技術の記憶』
109/143

012(105) 『疼き(スロォブ)』

第二章012です。

 ザラが手にしていたオーブの輝きが次第に失われていく。

 初めて見るレリック武器に注目しすぎていたせいか、研究室は異変を起こしていた。

 研究室は、つい数秒前とは違い数倍、いや数十倍もの広さに変わっていた。

 僕らの立ち位置は変わらない。部屋の中心に立っていた。

 ザラはポッドの隣に立っていたし、そこからすぐ側に僕らはいる。だが、数メートル先に見えていた四方の壁は遥か彼方だ。かろうじて壁みたいなものが視認できる。

「これは……」

 僕だけでなく、他の適正者四人も部屋の変化に驚いている。

「空間の伸縮技術です。この部屋は私にとっても大切な場所です。時間を掛けて作り上げた研究結果と設備ですからね。私にしても、そしてみなさんにしても失うわけにはいきません」

 ここを失ったらすべてが水の泡になるのはわかっているけれど、空間の伸縮? しかも技術だって言うけれど、こんなの科学じゃなくて──

「魔法じゃない、こんなの」

 シルヴィアが僕の言いたかったことを代弁すると、ザラは少し違いますと訂正を入れた。

「魔法は適正者の精神と自然界にある元素をあるべき姿へ変換し超常的現象を起こしているのです。しかし、魔法では空間を歪ませることは不可能です。自然の理を逸脱しているからですね。さらに付け加えると」

「ごたくはいい」

 大鎌を構えたハインが一歩前に出る。

「オレは創造主さまの卓越した科学力の真理を聴きたいんじゃない。ましてや、魔法なんて、この際どうだっていいんだ。あんたの戦闘能力が知りたい。それだけだ」

「そう、でしたね。すみません。元科学者としてつい興が入ってしまいました」

 ザラはオーブを両手で抱え込むと、申し訳無さそうに頭を垂れた。萎縮したザラと呼応するように、彼女の隣にあったポッドが音も立てずに地面下へと格納されていく。

「やるからには、本気になってくれよ。オレも、さっきみたいなヘマはしない。油断も隙も、起こさない」

 ハインはブルーマンとの戦闘を悔い改め、慢心も捨てたようだ。

「もちろん、私も本気でみなさんと戦います。認めてもらうにはそれしかありませんから」

「わかってくれてうれしいよ。さて、ザラとの戦闘を促したのはオレだ。オレがザラの戦闘力を見極める。それでいいか? 万が一にでも、オレが床を舐めるようなことがあれば、次は戦いたい奴がいけばいい」

 フラグにしか聞こえないのだけれど、大丈夫だろうか。そういえば、海外では日本で言うフラグが立つという比喩はあるのだろうか。

 などとくだらないことを考えていたら、正面から「あのぉ」ととても不安そうな声が聞こえてくる。

 他の誰でもない、その声の主はザラだ。

「申し訳ありません。あの、ハインさんお一人で戦われるのですか? 私はてっきりみなさん同時にと思っていたのですけれど」

「いやいやいや」

 と、イリアが片手を振りながら否定する。

「さすがにそれはないよ。普通のモンスターなら多人数でフルボッコにするけれどさ。てか、大型モンスターならパーティー組んで倒すのは当然だよ? でも、ほら、ザラは女の子だし、いちおう人じゃん? そんなリンチみたいなこと、すくなくともあたしはしたくないんだけど」

「イリアだけでなくて、ここにいる全員がしたくないと思いたいんですけどね」

 そう僕がツッコミをいれると、一対一で戦うべきだと頷いた。

「私を女性として扱っていただけるのは嬉しい限りなのですが……十中八九、みなさんが束になっても私に片膝を土に付かせるどころか、傷一つも負わせられないと思いますよ」

 この発言がいけなかった。

 ザラは色んな意味で気を遣ったかもしれないが、ある一人の男の自尊心を深く傷つけた。

「あっ」

 そう声を上げたのは、すでにハインが動いた直後だった。

 ハインは途中までザラに向かって駆け寄り大鎌を振りかざしていた。そして、大鎌の刃を横一線に降った。

 その攻撃は直情的で感情的ではあったけれど、「相手を刈り取る」という一点集中したその攻撃はあまりにも自然で回避不可能に思えた。

 そう。『思えた」攻撃だった。

 振るわれた大鎌の凶刃の先に見えたものに誰もが言葉を失った。

 おそらく、大鎌を振るったハイン自身が驚いているはずだ。

「なぜ、だ?」

 ハインの声が、弱々しく聞こえる。

 続くのは嗚咽する声。

「なぜ、オレのレリックが……オレ(・・)に(・)刺さって(・・・・)いるん(・・・)だ(・)」

見えていたんだ。確かに。

ハインが大鎌を振るった瞬間、その剣先がザラの体を貫いたかと思えば、ハインの手にあったはずの大鎌はハインの背中に突き刺さっていた。

「どう、して?」

 床にはハインが吐き出した血で溜りが出来上がっている。そのままハインが倒れ落ちそうになると、ハインの体も、彼を刺していた大鎌も消えた。

「ハイン!」

 イリアとシルヴィアが悲鳴にも似た声で叫んだ。

「ご安心ください。ハインさんは治療に移させてもらいました。古代種との模擬戦と違い、私と戦うということは、完全なる死に直結します。即死でない限り助かります」

 ザラが手にしているオーブが鈍く輝く。

「これで分かって頂けたでしょうか?」

「ああ、わかったよ。十二分なほどに理解した。ザラ、君は恐ろしいな。さすがは俺たち適正者を生み出した創造主だよ」

 ダリウスが調子よく声を張り上げて、陽気な感じを装った。腹の中はもっと別な感情が渦巻いているに違いない。その証拠が、彼が手にしている両手剣だった。

 抜身にされたその剣で斬りかかりたいという思いを我慢しているように震えていた。

「正直にいって、ハインになにをどうしたのかさっぱりわからねぇ! その意味不明さが畏怖の根源だということもわかっている。けどよ!」

 ダリウスの剣から閃光が放たれ、ザラに直撃するも彼女は平然として立っている。

「このまま終わりっていうのも、勿体無いだろ?」

「それも、そうね」と、ダリウスに同調したのはイリアだった。

「立場的に下なのはわかっているんだけどさ、仲間がやられたままなのは、気に入らないよね?」

 僕の横に居たシルヴィアが腕を絡ませてきた。……そういうのはいいから、真面目にしようよ。

 でも……

「でも、その強さを体感したいかな」

 僕の同意により、ダリウスが威勢よく「よし」と言い放つ。

「残りの適正者四人で、白の創造主、ザラと戦う。もともと、俺たち全員まとめて戦うつもりだったんだろ? 異論は認めないぜ」

 皆が武器を構える中、僕だけが自然体で立っていた。

 僕のレリック武器が装着型の手甲と脚甲だからしかたないのだけれど、構えるというよりも自然体に近かった。

 もしここで構えでもしたら、押さえが効かなくなるからだ。

 僕の『狂気』が歓喜している。

 未知なる力に対する恐怖心が、僕の中に潜んでいる『狂気』が表に出たいと疼いているのだ。

「異論はありません。どうぞ、ご自由にお試しください。ただひとつだけ申し上げることがあります」

 ザラはこちらの返事をまたずして、続けて言った。

「結果は見えています。あなた達の誰であろうと私に傷を負わすことができません」

「それはもうさっき聞いたってば」

 イリアがヘラヘラと言い返したが、目は笑っていない。

「結果は同じなんです。とても残念ですけど。数分、いえ数十秒かもしれません。あなたたちは身動きが取れなくなるでしょう」

「予言? それとも予見か」とダリウスがうす笑みを浮かべる。

「試してみないと、ね!」

 イリアが言い終えると同時に、光り輝く矢を放った。


最後まで読んで頂きありがとうございました。

次回投稿は6/25です。

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