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異世界化した現実世界を救済します  作者: アサクラ サトシ
第二章『消失技術の記憶』
108/143

011(104) 『証明(サティフィケイト)』

第二章011です。

 ザラはポッドに触れていた手を離すと、そのまま自分の胸に押し当てた。

「すでにご存知の筈ですが…」とザラは前置きをしてから小さく息を吐いた。

「私がこちらの世界へ訪れた時は精神体でした。こちらで活動を行うには空になった器が必要となります」

「その器が、すでに亡くなった地球人の肉体だった」

 僕は合いの手を入れると、ザラが頷く。

「本当は、もっとはやくオリジナルの細胞をこちらの世界へ転送し、このポッドのように精製と培養を行おうと試みる予定でした。ですが、予想以上にこちらの世界で私の肉体を再構築することが難しかったのです。早く見積もっても一年、もしくは二年の計算となりました。しかし、優先すべきは私の肉体再構築ではなくこちらの世界とルーシェンヴァルラを繋ぐことでした。さらに、私の世界へ訪れることができるのは、こちらの世界でも限られた人だけ。まずは遺伝子学の面から技術発展をさせ、馴染みのあるゲームという形で異世界同士をリンクさせました」

 ふたつの異世界をリンクさせたゲームがオンラインゲーム『Relic』ということになる。

 僕らの遺伝子は彼女が作り上げたプログラムにより読み取られ、異世界ルーシェンヴァルラでもう一人の僕らが産み落とされていた。

「自分の世界を救いたいから、自分の肉体を作ることを後回しにしたことは別に責めるつもりはないわ。納得が行かないのは、どうしてこちらの死者の体を奪っておきながら、動けないといっていたということよ。オリジナルでないにしても、あたしたちの世界で『活動できる体』は手に入れたわけでしょう? なのに『動けない』と言った理由がわからない」

 怒りが冷め切らない様子のイリアは早口で捲し立てた。しかし、イリアの指摘は正論だ。オンラインゲーム『Relic』を作れたのも(地球人の)肉体があってこその話。

 活動していたのに『動けない』というザラ、白の創造主の主張は矛盾している。

「至極当然の指摘です。確かに私はこちらの世界の肉体を手に入れて制作と創作を行う手段を得ることができました。でも、私が依代にした肉体では『異世界化』した空間には入れなかったのです」

「どういうことよ?」

 ザラの回答に納得がいかないイリアが噛みつく。

「イリア。もっと冷静になるんだ。ザラの言っていることはなにも間違っていない。むしろ彼女が正しい」

 僕がイリアを言い聞かせるように言うと、いやみったらしく鼻で笑った。

「なによ、優等生ぶちゃって。そんなにザラの肩を持ちたいわけ? さすがは狂気の覚醒を持った戦闘狂は感性が普通と違っているわね」

「おい、言葉が過ぎるぞ!」

 今度はダリウスまで割り込んできた。これではまた収集が付かなくなる。

「いいよ。事実だから」

 と、僕はダリウスに向けて手の平を見せた。

 それに、感情に流された発言なので、イリアの主張は前後の言葉が支離滅裂でただの悪口だ。感情論に感情論でかぶせても無駄なだけだ。

 まずはイリアの主張を肯定した上で、遠回りせずに結論を聞かせればいい。

「ザラの言いたいことは、たったひとつだ。彼女が入っていた肉体の遺伝子では『異世界化』した空間では活動不可能だったということだよ」

「あ……」

 イリアはようやくザラの言いたいことに合点したようだった。

「オンラインゲーム『Relic』で最重要だったのはルーシェンヴァルラでも活動可能で、さらにレリック武器が扱える遺伝子の持ち主。そして、異世界化した空間でも同じだ。ルーシェンヴァルラの世界に溶け込もうとしていた空間で、まともに動けるのは適正者になれる僕らだけだ」

 僕の回答にザラだけでなくイリアを除いた三人の適正者たちも頷いた。イリアも冷静になっていればザラの主張を難なく理解できたはずなのだが、怒りに任せた感情論を口にしたのはわからない。

 知らないままでいい。

 冷たい言い方になるけれど、彼女個人の感傷に触れる義務も義理も僕らには無いのだ。

「あたしの勝手な暴走ね。ごめん。悪かったわ」

 イリアは詫びを入れる。どうやら納得はしたみたいだ。

 微妙な空気が流れる中、ザラが思い出したかのように話しだした。

「イリアさんが感情的になるのも仕方ありません。いえ、これは個人のことなのでこれ以上は言えませんが……」

「そうしてもらえると、あたしも助かる。いつか言える時が来たら、あたしから言うわ。その時は笑い話にしてもらっても構わないから」

 その時がいつ訪れるのか見当も付かないけれど、いちおうこの場は収まったとしておこう。

「私が終末の咆哮後に異世界化した空間で身動きが取れなかった理由は、シンゴさんが仰った通りなのですが、まだ続きがあるのです」

「ザラのオリジナルの肉体があれば、異空間化した場所でも共に行動ができる、だけではないんですか?」

「この複製についてです」

 ザラの視線がポッドの中に浮かぶ自身の複製体に向けられる。

「このポッドに浮かぶ私も、そして今こうして、みなさんとお話をしている私の肉体も、活動限界があるんです」

 この部屋に通されて、ザラが初めに言った言葉が思い起こされる。

 『次の私ともいえる肉体です』と。

「使い捨て、か」とハインが冷たく言い放った。

「おい、言葉を選べと言っただろ」

 またもやダリウスが声を荒げる。どうやら、彼は正義感と倫理に厳しく優しい人柄のようだ・

「ダリウスさん。気になさらないでください」

「しかしだなぁ……」

「事実、ですから」

 うーむと苦虫を噛んだような顔をしてダリウスは黙りこんだ。

「つまり人間の複製は可能でも、完璧ではない。未完成品といいたいんだろ?」

 ハインはそういいながら、ポッドに浮かぶザラの肉体を眺め見た。

「そして、完成させるには古代遺跡にある設計図が必要。こう話を纏めたかったんじゃないのか」

 裸体を晒した器のザラから、活動中のザラへとハインは視線を移した。

「ご明察です」

「しかも自分自身が実験体となったわけだ。それはそれは充分な説得力になる。こちらの人間を利用しては、反感を買うだけではすまないからな。それこそイリアが怒りに身を任せて、あんたの眉間に矢をぶち抜いたさ」

 オレなら、首を落としたがなと、小さく呟いたが嘘ではないだろう。

 ザラはハインに睨まれても、動じなかった。むしろ受け入れているようにも見えた。

「そう、私はこれを完成させなければいけません。先の異世界化によって失われた人たちの肉体を取り戻すためにも。私には代わりがあります。ですが、みなさんにはありません。私は喜んで犠牲になりましょう。進んで死を迎え、生を受けます」

 それじゃまるで生き地獄だとは、おくびにもだせなかった。

 彼女の決意をちっぽけな個人的な倫理で説くわけにはいかない。

「悪いが、あんたの生死はあまり気にしてない。というか、当然の報いだとオレは考えている。だが、本当に行動を共にしていいのか?」

「なにがいいたいんだ? ハイン?」

 その生命を掛けて、何かを達成させようとしている彼女に対して失礼な言葉を放つハインに、今度は僕が感情的になってしまった。

「お前も、そしてイリアもそうだ。まるで、ザラが戦闘に加われば圧勝が約束されているみたいな幻想を抱いているようだが。オリジナルの肉体を手に入れたとはいえ、元をたどればこいつは技術者で科学者だ。適正者じゃないんだぜ?」

「それは、たしかにそうだけど」

 言葉に詰まった。白の創造主といわれた彼女だ。僕ら適正者以上の何かを持っているのかもしれないと期待をしている。

「ハインさんが気にされているのは、私の戦闘能力が如何程のものか、ということですね」

「そうさ。如何程のものなんだ?」

「……」

 ザラは答えない。

「オレは見たいんだよ。あんたの力の証明を。同行したい? はっ! 大いに結構! 死んで生き返るのも自由だ。だが、あんたに何ができるのか、教えてくれ」

「でしたら、再びあの草原へいって、古代種を……」

「いいや。駄目だ。この場で見せてくれ」

「ちょっと、この場って誰が戦うっていうのよ」

 ずっと傍観に回っていたシルヴィアが声を上げる。

「誰だと? おいおい。緩んだ頭を引き締めろ。すでにいるだろう」

「だから、誰よ」

 ハインは睨むシルヴィアを嘲笑する。

「オレたちだよ。お手々を繋いで仲良くピクニックへ行くんじゃないだ。同行の決定権はオレたちにある。そうだろ?」

 ハインの発言に圧倒され、僕らから反論は上がらなかった。

 ここにいる五人の適正者の沈黙が合意したと受け取ったザラは一歩、前進した。

「お見せします。そして、証明してみましょう」

 ザラが右腕を伸ばすと、透明な球体が出現した。古典的だけど、占い師が使う水晶球にも見えた。

「これが、私しか扱えない唯一のレリック武器。そうですね、こちらの世界にあるゲームで例えるなら、これは『オーブ』です」

 右手に浮かぶオーブから強烈な光が放たれる。

 これが僕ら適正者と創造主と相対する合図となった。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

次回投稿は6/18です。

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