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異世界化した現実世界を救済します  作者: アサクラ サトシ
第二章『消失技術の記憶』
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009(102) 『賽(ダイス)』

第二章009です。

 僕の話でどこまで納得をしてくれたのかわからないけれど完全な覚醒でなくとも部分的な覚醒は可能ということは理解してくれたようだった。

「ねぇ、シンゴの右腕が」

 シルヴィアが僕の右腕を見ながら指差した。

 右腕に刻まれていた闘紋が徐々に薄くなっていくのと平行して、右腕だけでなく全身から力が抜けていくような感覚を覚える。

 脚の爪先から、頭の天辺にまで纏っていた闘気が右腕から、掌へと集約されていく。

 全身の闘気が右手の中に収まると、それは見慣れたスマートフォンへと形成する。

「元に戻ってしまいましたね」

 僕はスマートフォンを片手におどけてみせた。

 覚醒した状態だけでなく、適正者の状態意地も保てなくなったようだった。

「どうやら、異世界化したあの場所と同じように、部分的でも闘紋を発動させてしまうと元の人に戻ってしまうようですね」

 もちろん、この状態に戻ってしまったのは僕だけだ。他の四人はまだ適正者としてレリック武器を所持したままだ。いや、ハインは大鎌を持っているけれど実際はレリック武器の耐久限度を超えてしまっているので、ハインだけは違うと言うべきか。

「こちらの世界にある異世界化した空間でも覚醒状態には限度があるということなの?」

 シルヴィアの素朴な疑問に対して、みなが創造主であるザラを見つめた。

「この星にある次元の断層が私たちの世界『ルーシェンヴァルラ』と同じ体系であったしても、似て非なるものであることに変わりはありません。先程も申し上げましたが、適正者での状態維持に限度はありません。しかし、覚醒あるいは部分的な闘紋の発動にはやはり制限がかかります」

「でもよ」

 ダリウスが手にしていた剣を地面に突き刺して、前屈みになりながらザラを睨む。

「通常のモンスターなら俺たちでも倒せることはわかったぜ? 問題は部分的とはいえ闘紋の発動がなければ倒せない敵もいるということだ。これじゃシビアな戦いになることは明らかだぜ」

「付け加えると、現状として部分的闘紋の発動はシンゴたた一人。彼にその負担をすべて追わせるのは間違っているわ」

 イリアは腕を組み、難しい表情をしながら批難する。

「それだけじゃないさ。もっと重要で大問題が残っている。部分的であろうとなかろうと、覚醒しても、時間経過と共に適正者としての力も失ってしまうことだ」

 ハインは使えなくなった大鎌を手にしながら呟き、さらに続けた。

「確かに、レリック武器が俺たちが受けるべきダメージを吸収してくれる。しかし、これも限度がある。油断し被弾し続ければオレのように元の人へと戻ってしまう。良いか? 最も避けるべきことは俺たちが敵地において適正者でいられなくなる状況だ。もしそうなってしまったら……その後の事は言わなくてもわかるよな?」

 ただの人間になりさがった僕らに待ち受けているのは死だ。

「ザラ。あんたは同じ過ちを犯そうとしている。これでは第一次終末の咆哮で引き起こされた異世界化で起きた悲劇と同じだ。もちろん、被害は少ない。なぜなら戦うのは数千人ではなく、ここにいるたった五人の命だからな。だが、オレたちは死ぬために敵地へ向かうわけじゃない。ここにいる全員が失われた仲間たち、そして黒の創造主が奪っていった無関係の人たちを救うことだ」

 ハインは意識してなのか、大鎌を握りつぶし、それを元のスマートフォンへと戻した。

「オレにも覚悟はある。だが、それは死ぬためじゃない。ましてや殺すことに歓喜するためじゃない。救うためだ。もう後手に回る戦いは……御免だ! あんたは創造主だろ。オレたちを生み出した責任者だろ? あんたは自分のことを神ではないと否定はしたが、それでもだ。ルーシェンヴァルラにおいては同一の存在だ。少しは、戦うオレたちにマシな恩恵を授けてくれてもいいんじゃないのか」

 ハインの怒りは治まるどころか、言葉を重ねる度に熱を増していった。

「こんな不完全な状態で戦わせて、オレたちにどうしろと言うんだ!」

 ハインの言葉はしかし間違っていなかった。的確で正確。正論で異論を挟めないほどの至極当然の訴えだった。

「この中で唯一敗北に屈したから、妬みで言っているわけじゃない。オレが地に伏したのはオレが弱く、そして考えが甘かったからだ。反省と後悔もしている。いやというほどにな。だが、それ以上に、オレたちが置かれたこの状況は最高ではないことだけは確かだ」

 早口言葉でまくし立てるようなハインの言葉は、ここにいる適正者にさせられた五人に突き刺さった。

「頼む、答えてくれ。オレたちはちゃんと生き残れるのか? 戦えるのかじゃない。生きて、失われた人たちを取り戻せるのか?」

 そんな甘い考えが通用するわけがないと思ってしまう。ここは──現実世界にある異空間ではるけれど──残念ながら漫画やアニメの世界ではなく都合のいい物語ではないのだ。

 簡単に死んでしまう。

 僕らが立たされているここは……いわばTRPGみたいなものだ。目にも見えず、触れることも出来ないけれど、確実に運命を左右するダイスが存在して、成功と失敗、決定的成功と決定的失敗が結果として出てしまう。

 全員が生き残れる可能性なんて、あるようでないのだ。

 ハインは言葉がきつく、独りよがりなところもある。でも、いい人で優しい男だ。

 彼に同意したい気持ちはあっても、僕は否定してしまう。

 ハインの言葉に対して、ザラは口を噤んだままだ。

「悪い……言葉が過ぎた。オレだって情けないことを言っているのは、わかっているんだ。でも、また前と同じようなことを繰り返したくなかったんだ。もう目の前で友人を失うことを味わいたくないんだ」

 いろいろと罵詈雑言を重ねたハインの本音だ。

 ここにいる五人は自分の代わりに命を犠牲にした誰かがいる。

 その人達のおかげでいまもこうして思考と行動を両立させている。

 故に無駄にできない命なのだ。

 僕らは誰かによって生かされている。彼らの意思を無駄にしてはならない。

「ハインさん。いえ、ここに集まってくれた地球人のみなさん。私の身勝手な行為により、多くの人にご迷惑をおかけしました。私はその償いをします。つもりではありません。今度こそ、私は、みなさんの力になります」

「言葉だけで納得できるほど、あたしたちはお人好しじゃないよ」

 イリアが間髪入れずに口を開いた。

「なにをどうするのか、教えて。そして、あたしたちを納得させてよ」

「この模擬戦はただのデータ集取のために行ったわけではありません。個人差は出ますが、適正者の上方修正をします」

「それって、俺たちのステータスやらなにやらを強化するってことでいいのか?」

「そうです」

 僕を含め、みんなの顔に花が咲いたように明るくなった。

 確実に死を回避できるという確約はないにしても、これは嬉しい情報だ。

 そしてさらに、彼女はとんでもないことを口にした。

「今度は、私も共に戦います。白の創造主として、あなたたち適正者をサポートさせていただきます」


最後まで読んで頂きありがとうございました。

次回投稿は6/4です。

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