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異世界化した現実世界を救済します  作者: アサクラ サトシ
第二章『消失技術の記憶』
105/143

008(101) 『発動条件(トリガーイング・コンディションズ)』

第二章008です。

 腕が関節より少し先で切り離された刹那の刻。

 高速回転させている大鎌を残った右腕で受け止めていた。

 互いの目がかち合う。

 彼は驚いていた。

 そして、僕は笑んでいた。

 闘紋を刻んだ右腕は電気の塊で出来上がった大鎌を手放し、脇腹へ重い一撃を与える。

声に出ないほどの悶絶を顔で表現したブルーマンは体を折り曲げた。

手放される大鎌。

顔の位置が低くなったので、遠慮無く、無遠慮に、腰の回転を効かせた拳を打ち込む。

原型が留められないくらいの衝撃を与える。

「おおおおおおおおおお!」

 渾身の拳はブルーマンを殴り飛ばすのではなく、地面へと叩きつけるように振り下ろした。

 ブルーマンの体は「へ」の字を逆さまへしたように首を起点として折れ曲がり、激しい痙攣を起こした。纏っていた雷属性のそれが守るためではなく、自壊させているようにも見えた。

が、実際は違う。

体を制御するための頭を失った四肢が奇妙な反射活動を行っているだけなのだろう、と砕け散ったブルーマンの顔だった部分を眺めながら思った。

僕の左腕が吹き飛び、ブルーマンが顔を失うまで、一秒と満たない出来事だった。

「あれ?」

 吹き飛んでいたはずの左腕部分が元に戻っていた。次に気がついたのは窪んだ地面に横たわっていたはずのブルーマンの死体が消えていたことだった。

 ──終わりか。

「つまらない、ですか?」

 不意に聞こえたザラの声で反射的にのけぞってしまった。

「びっくりした」

「驚かせてしまい、すみません」

 ザラは目を伏せて小さく頭を下げた。

「貴重なデータ、ありがとうございました。これで私たちと古代種の戦闘能力差がより具体的な数値でわかることでしょう……けれど、そんなに驚かなくてもよろしいのでは?」

 とザラは小さく笑った。

 居なかった人間が、突如として現れたら誰でも驚くだろう。

 僕が無言でそう訴えるとザラも察して「ごめんなさい」と笑いをこらえながら再度あやまった。

「驚かせるつもりはなかったのですが……しかし」

 ザラは僕よりもそこにあったであろう、そして自分が消したブルーマンの痕跡を眺めた。

「この戦果は予想以上です。まさかあんな形で勝ちを取りに行くとは考えも付きませんでいた」

「僕が左腕を犠牲にしたことですか?」

「そうそれだぜ!」

 今度は背後から怒鳴られたので、ビクンとして体が浮いてしまった。

 振り返るとダリウスが両腕を広げて、『一体どういうことだ!』と、それこそ映画で見るようなオーバーアクションをしていた。

「なんたってあんな無茶なことをしたんだ。見ているこっちの心臓が持たないだろ!」

 そんなことは知らないよと言いたかったけれど、まずは興奮しているダリウスを落ち着かせた。

 そうしている内に、シルヴィアとイリアがハインの両肩を持って歩み寄っていた。

 三人が僕の前に到着し、久方ぶりに適正者五人が顔を突き合わすことになった。

 ハインはもう大丈夫だといって、支えてくれた女性二人に礼を言って自身の両足で立った。

「シンゴ。俺にも教えてくれないか。あの高速回転している大鎌を受け止めることが出来た? いや、そもそも受け止めることが出来たのなら、左腕を犠牲にする必要性などなかったはずだ」

「どんな手品を使ったんだ? 出し惜しみしてないで俺たちにも教えてくれ。シンゴにも出来るってことは、俺たちにも出来るってことだろ?」

 ハインの疑問が呼び水になりダリウスまでもが聴き始めてきた。

「あれはシンゴだから出来たんじゃないの? まぁ。出来たとしても弓使いのあたしじゃまず真似できないけどさ」

 イリアは弓を掲げながら苦笑いをする。

「じゃあ、近接ならいけるってことなの? ねぇ、シンゴ? 教えてくれるでしょう?」

 甘えるような口調でシルヴィアが上目遣いをしながら僕の左腕を取った。

 なんともない動作ではあったけれど、つい先程まで切り離されていた左腕だ。意識してしまい、絡め取られた左腕を凝視してしまう。

「ごめん、痛かった?」

「いえ、痛みはありません。じゃあ、えっと。疑問を答えていくよ」

 話をするため僕はシルヴィアに取られた腕から逃れる機会を手に入れた。

「もう」と、シルヴィアが頬を膨らませたが、僕は苦笑いをするだけにとどめた。

 ブルーマンを殺した窪みを隔てて、ダリウスたち五人を正面にして立った。

「まず結論から言えば、カウンタースキルを持っていたら誰でも出来るとだけ言っておくよ」

「スキルだって?」

 僕の返答に目の前にいる適正者四人はざわついた。

「カウンターだというのなら、初撃を与えられた瞬間受け流し、または相手の攻撃を反動にしてそのままカウンターにするはずだ。だとすれば、左腕を欠損する結果にはいたらないはずだ」

 ハインがさらなる疑問を投げかけた。

「僕の闘気はほとんど右腕の闘紋に使っていた。微量な闘気では完全なるカウンターにはならなかった。故に左腕は切り落とされたわけだけどね。まぁ、通常の闘気を纏っていたとしても受け流すことはもちろん、受けきることすら怪しい。それは闘紋を作った時にわかっていた。左腕一本で相手を殺せるのなら、安いかと思っただけだよ。そもそも、あの回転した大鎌を受け止めることは僕のカウンタースキル、空蝉を使わなくてもできた」

「それならなおさら左腕を?」

 犠牲にしたのかとダリウスが訴える。

 落ち着けと、僕は両の掌をダリウスに見せつけた。

「あの大鎌を『絶対に』受け止められる自信が僕にはなかった。空蝉は保険であり万丈にして確実に攻撃を与えるため、左腕を犠牲にした。結果からすれば、この判断は正しかったんだ」

「そうですね」

 ザラが相槌をする。

「もしシンゴさんがカウンタースキルを使用されず、闘紋を纏った右腕で大鎌を止めようとしたら、受け止めることだけで精一杯になり追の攻撃にはいけなかったでしょう」

「どういうことだよ?」

 ダリウスが苛立ちながら聞き返す。

「空蝉を発動したおかげで、大鎌の高速回転よりもさらに早い動きができた。だから、受け止めから続けて攻撃が可能となった。素の状態であれば、受け止めてそこで終わり。ブルーマンの雷属性と瞬発的な力に負けていたよ」

「うーん、理屈はわかったけど……どうも納得がいかないっていうか」

 イリアが顔をしかめながら呟く。

「まぁ、僕も上手く行ってよかったと思うよ。僅かな可能性に賭けただけだったから。闘紋が作れただけでも驚きだったから」

「それだよ。部分的とはなんでシンゴは闘紋を出せたんだ。俺たちにはまだ覚醒するための条件やらが揃っていないだろ? なのになんでシンゴはできたんだ」

 ダリウスの矛先が僕からザラへと移った。

「可能性の話だったので、明言できなかったんです。検証する予定ではありました。ただ、模擬戦とはいえ実際にやってのけるとは私も想定外でしたので」

「ザラ、それじゃ答えになっていないよ」

 イリアが劈くようにザラを責めた。

「ザラが何を考えているのか、そんなの私たちはわからないんだしさ。可能性どうこうの話じゃなくて、部分的でも覚醒できるかもしれないのなら、私たちに伝えるべきじゃないの。それを知っていたらハインだってやられなかったかもしれないじゃない」

「やめろ。そんなことを言われても結果は出た。もしもと言った仮定の話は好きじゃない」

 イリアの道場にハインが拒絶する。

「それでもさ? シンゴが闘紋を出したんだから。勿体ぶらずに話してくれたほうがよくないかな? これから私たちって古代遺跡に向かうわけで、しかも古代種のわけのわからない化物と戦うわけでしょ? なおさら覚醒する方法を知っておきたいんだけど」

 シルヴィアの追撃にザラは小さく息を吐いた。

「黙っているつもりはありませんでした。……いえ、覚醒についてきちんとお話しなければすべて言い訳になりますね」

 ザラが僕を見つめる。

「覚醒した力の根源。それはみなさんの中に眠っている潜在的な本能。この本能は現状として眠りにつていると言っていいでしょう。ならば覚醒めさせればいいだけの話と思われますが、これは個人差になりますので、私にもわかりかねます。ただ、覚醒に至らなくとも、闘紋だけなら発動は可能だと認知していました」

「その条件は?」と、イリアが前のめりになりながら問いただす。

「想像力です」

「想像力」

 ザラの一言をみんな一同にしてオウム返しを行った。

「ちょっと待ってよ」

 イリアが半笑いながらザラに言い寄る。

「考えるだけで闘紋が発動するのなら苦労しないわよ。もっと具体的に言ってよ」

「それは……」

 ザラは言葉に詰まらせた。当然だ、彼女は適正者ではなくて僕らの力を作り上げた創造主なのだ。結論を出せても過程までもは語れないということだ。

「その想像については僕から説明しますよ」

 僕はみんなと隔てていた窪みを跨いで、距離を縮めた。

「イメージするだけじゃダメなんです。それは僕らが初めて覚醒する時に至った時、本能の源流、本能の渦までを頭だけじゃなくて纏っている闘気で具象化すること」

「あの本能の渦すべてをイメージしろということ?」

「さらに言えば、自分の本能を無理やり呼び起こす、そんな感じです」

「そんな感じって……簡単に言ってくれるじゃない」

「簡単じゃないですよ」

 僕は目を細め、今にも食って掛かりそうなイリアを睨む。

 イリアだけでなく、僕と向かい合った四人が萎縮する。

「死ぬ覚悟と殺す覚悟。その両方を持ち合わせないと本能には辿りつけない。気持ちの問題ではなくて、覚悟の話です。死と隣りあわせであればなおのこと成功しやすいでしょう」

 時差はあったが、四人から生唾を飲み込む音、あるいは身震いする体が見て取れた。

「でも、これは僕の場合です。僕の本能は狂気です。戦うことに狂おしいほど求めてなければ、あの時、闘紋は発動しなかったでしょう」

 そういって、にやりと笑うとダリウスが乾いた声で「わかった」と口にした。


最後まで読んで頂きありがとうございました。

次回投稿は5/28です。

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