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異世界化した現実世界を救済します  作者: アサクラ サトシ
第二章『消失技術の記憶』
103/143

006(099) 『心変わり(チェンジ・オブ・ハート)』

第二章006です。


※ 16/5/8 本文加筆・誤字修正

※ 16/6/25 本文修正

 そのままブルーマンとの対戦が始まるかと思ったが、相手からは動く気配が見受けられなかった。僕とブルーマンの距離はそれなりに離れてはいるけれど、互いの身体能力を考慮すれば数十メートルの距離なんてたかが知れている。

 僕の出方を伺っているのか、それとも?

『失礼しました』

 頭の中でザラの声が響いた。

 ザラは僕らが戦っていた場所からかなり離れた場所で傍観をしていたのだが、こうして頭で話しかけられると本当に目と鼻の先にいるような錯覚を起こしてしまう。

「何に対しての謝罪ですか?」

 僕がそう問いかけると、遠目に見えるザラが頭を下げているのがわかる。

『ウォウドゥン……みなさまがブルーマンと呼んだ彼のことですが、彼はハインさんとの戦闘を終えた時点で行動停止となるはずでした。ですが、私の予想に反して自律行動を起こしました。シンゴさん。ご迷惑をおかけして申し訳ありません』

「謝らなくても大丈夫です。あの、いまはもう動かないんですよね?」

『はい。いまは私の管理下にありますので、私の命令がない限りは動きません』

「ザラさん」

『ザラ、で構いません』

「ザラ。ウォオドォンと」

『ウォウドゥンです』

「あー、ウォ──発音しづらいのでブルーマンといいますけど。彼と戦わせてはもらえませんか?」

『え? あ、はい。それは構いませんが。本当によろしいのですか?』

「ハインの敵討ちとは言いませんが、この大鎌を投げてきたということは、彼は僕と戦いたがっているということです。その挑戦を買ってやります」

「待って。シンゴ。あなたウォウドゥンの攻撃パターンわかっているの? 背中向けてたから見てないんじゃない?」

「それはそうだけれど。前の異世界化した渋谷でも適応者と戦ってきたし、事前情報がなくてもなんとかなるかなと思ってたから」

「ハインの敗因はそれよ」

 ダジャレを言ったのかと勘ぐったが、これは日本人にしかわからない韻踏みだとしてスルーした。

「ザラ! ちょっとシンゴに助言したいんだけど、時間もらえるかしら?」

『はい。それはもちろん大丈夫です。準備ができ次第、教えてください』

「と、ザラからも許可を得たところで」

 シルヴィアが僕の体から離れると、両手を後ろに回して組み直した。

「多分さ。ハインは相手が人型だから警戒度は適応者程度と決めつけたんでしょうね。でも、アレは違うわ。私たち適正者と適応者とも全く違う力の循環機能を持っているみたいなの」

「それって闘気とは違う力の根源があると……」

 シルヴィアが静かに頷くので、僕は大人しく彼女の話を聴くことにした。

「シンゴ。私、ちゃんと見ていたわけじゃないけど、ウォウドゥンの攻撃ってちょっと意味不明なの」

 シルヴィアが助言をしてくれるのはありがたいのだけれど、助言事体が意味不明で困ってしまう。

「シルヴィア。もっと具体的に言ってくれると助かるんだけど?」

「えっとね。手がこうペカーって光ってさ」

 シルヴィアは身振り手振りでブルーマンの説明を始めたけれど、擬音と大げさな身振り手振りばかりで、なにを伝えたいとしているのかまるっきりわからない。

「なんでわかってくれないのかなぁー、だからね?」

「やめときな。シルヴィ。あんた説明下手すぎ。あたしが教えてあげるよ」

 いつの間にか僕らのすぐそばに近づいてきたイリアがシルヴィアの会話を遮った。

 折角説明しているのにと、シルヴィアは頬を膨らませて抗議を始める。

「シルヴィはグリフォンと闘いながらだったじゃない。合間合間に見てたのと、がっつりと見ていたあたし。どっちがより詳しく見れたと思っているの?

「そう言えば、二人ともケルベロスやグリフォンは?」

 ハインとブルーマンとの戦いを見ているということは彼女たちは僕よりも早く対戦したモンスターを倒したことになる。

「あたしは瞬殺」

「私は秒殺。些細な差よ」

「瞬殺」とイリア。

「秒殺」とシルヴィア。

 瞬と秒ならイリアが先となるのかな。

「たしかに秒殺かもしれないけど、一桁ではなくて二桁の秒殺でしょう? そこはちゃんと言わないと」

「タイムアタックしていたわけじゃなから、正確な討伐時間はわからないわよ」

 口論を始める二人ではあるが、しかしダリウスや僕よりも早かったのは確かだろう。

「頼りない男性陣ですまない」

「謝ることないわ。あたしが優れているだけのことよ」

 イリアは高い鼻をより高くした。嫌味なく聞こえるのは彼女の特質だろう。

「まぁ、そんなわけで。あたしは即効でケルベロスを殺しちゃったから、ウォウドゥンの挙動ならあたしのほうが詳しいよ」

 この二人は僕が舌を噛みそうになったブルーマンの名前をごく自然に発音していた。

「ウォウドゥンの攻撃パターンは魔法と打撃の二つ。比率で言うと八割が魔法で、二割が打撃ね。厄介なのは両腕に魔法を宿したときね。あたしらが闘気を操るみたいに、ウォウドゥンは魔法を纏っているの」

「そう、こう腕にビリビリーってするような感じなの」

「だから、シルヴィは黙ってて」

「なんで?」

「話が進まないからよ!」

「……もう喋らないから」

 ふてくされたシルヴィアは僕とイリアから離れると、しゃがみ込むなり両手を使って頬杖をした。

「まぁ、シルヴィが言っていたビリビリという表現は間違ってないんだけど」

「合ってるならいいじゃない!」

「はいはい、ごめん。でも、ここはあたしに任せてよ」

「……いいわ。今だけよ?」

 なんだか含みのある言い回しだけれど、シルヴィアに気にかけているばかりも行かないので、僕はイリアに耳を傾ける。

「私たち適正者が闘気を力の根源としているのに対して、ウォウドゥンが使用している力の根源は魔法よ。あれは電気ね」

「電気。属性で言うと雷ですか」

「ゲーム的にいったらそうなるわね。シンゴ。ハインの大鎌をよく見てみて」

 イリアに言われて、僕はブルーマンが投げ飛ばしてきた大鎌を眺める。柄の部分は赤黒く変色している。そして刃の部分は刃こぼれの損傷がひどい。人を斬りつけるどころか、足元にある草を刈り取ることすら不可能だ。

「私たち適正者は肉体的なダメージをレリック武器が代わりに受けてくれる。このルールは変わらないんだけど、ウォウドゥンの攻撃はレリック武器が耐えられるダメージ数をたった数発で上まった。その結果が今のハインの姿よ」

 イリアが顎で倒れているハインをさした。

 ちょうど、ダリウスがハインを抱き上げるところでもあった。

「加えて、ウォウドゥンは防御、躱す、受け流す、という戦闘技術は一つも行わない。攻撃されたらただ受けるだけ。おそらく、肉体強度が高過ぎるのね。故に大鎌の刃こぼれ。これは私の見解だけど、刃系の武器はまずウォウドゥンを傷つけることは無理ね。あたしが放った矢でも……貫通は無理だと思う。覚醒した状態であればヘッドショット出来るかもって感じ」

「ねぇ? シンゴなら勝てる可能性があるってことにならない?」

「シルヴィ……まぁ、良いわ。あたしの言いたいことは言ったし」

 イリアが片目を閉じてシルヴィアにこの会話の続きを託す。

「もう気づいているかもだけど。私やダリウスもウォウドゥンを傷つけることすら怪しいわ。でもね? シンゴの手甲と脚甲であれば倒す見込みはあると思うの」

「格闘術であれば肉体の外も内も破壊することはできますけど……そんなに上手くいきますかね」

「やってみなくちゃわからないけど、完全無欠、無敵の肉体だとは思えないのよね。それに、これは私の予想なんだけどさ」

 シルヴィアが口の両端を上げる。

「ウォウドゥンはシンゴなら楽しめる相手だと認めた。ハインの大鎌を投げたのは挑発するためじゃない。シンゴを指名するため」

 何故、こうも僕は買い被られるのだろう。適正者たちと戦っていた時もそうだ。彼らは僕を要注意人物として指定した。

 二人の綺麗な白人女性に期待の目を向けられるのも嫌な気はしない。この期待を裏切れないというプレッシャーにはなるけれど。

「きっとうまくいくわ」

 シルヴィアが僕の手を握り、羨望の目を向ける。

「大きな期待をされても困りますけど。それに二人の見解ももしかしたら的外れになるかもしれません」

「どうして日本人ってそんなに悲観的になるのかしら。自信のない男はモテないわよ?」

 ここでモテるモテないの話は無関係な気がする。そして、誤解もしている。

「悲観的ではなくて、ニュートラルなんです。慢心はしない。それに、僕は未知の力を持ったあの男と戦いたいだけなんですよ。相手が強ければ強いほど戦いたい。そのほうが、燃えるでしょう?」

「やだぁ。カッコいいこというじゃない!」

 シルヴィアが再び抱きついてくる。腕に伝わる柔らかい感触。なんど味わってもいいな。

 ──!

 背筋に冷たい視線を感じ、振り返るが誰もいない。気のせいか……いや、僕の彼女は何かしらを察したのかもしれない。

「シンゴ? 顔色が悪いわよ?」

 イリアに心配されるが、大丈夫とだけ答えておく。

「シルヴィア。そろそろいいかな?」

「え? なにが?」

「この状態だと戦えないんだけど」

「えー、もう少しこのままでも良くない?」

 良くないから言っているんですよ?

「シルヴィ。その辺にしておきなさい」

「もう。わかったわよ。シンゴ、後でねー」

 シルヴィアは僕から離れるなり小さく手を振る。

「健闘してほしいけど、できれば勝ってよね?」

「できればじゃなくて、勝ちにいきます」

「頼もしいわ。あたしも心変わりするかも」

「……心変わり? いや、あたしも?」

「あら、言ってなかったけ? シルヴィもあたしも彼氏がいるのよ? シルヴィの方はもう終わりみたいだから、早く新しい男を捕まえたいかもね」

 唖然とする僕を置いて、二人の肉食系女性は去っていく。

『シンゴさん』

「え、あ、はい?」

『もうお話はよろしいですか?』

「よよよろしいです」

 女性陣二人に心をかき乱され、返事も吃ってしまった。

『……心乱れているようですが、落ち着くまで待ちましょうか?』

「いえ、このまま始めてください。実戦において心情を気遣ってくれるわけありませんから」

『わかりました。それではウォウドゥンの活動停止命令を解除します』

 直線上にいるブルーマンが僕に向かってゆっくりと歩みだした。

 このまま待ち受けるのもいいけれど、どうせなら早く戦いたい。

 僕も足を動かす。

 初めはゆっくりと。次第にその歩調は早まる。

 ブルーマンの足もそうだ。

 歩みは走りに変化し、数秒と経たない内に僕とブルーマンは戦闘範囲に入っていた。


最後まで読んで頂きありがとうございました。

次回投稿は5/14です。

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