003(096) 『隙間(クリアランス)』
第二章003です。
※ 16/4/23 本文修正
「ハインさんが仰ったことは──」
僕らの注目はハインから白の創造主へと移った。
「間違いではありません」
ハインは鼻で笑い、僕を含めた他のみんなは困惑しきっていた。
「しかし、それこそがあなたたち五人に回収してほしい設計図でもあるのです」
「どういうことですか?」
僕は改めて白の創造主へ問いかけた。
「古代シュメール人に限った話ではありませんが、地球のありとあらゆる在来種を使い、遺伝子配合の組み換えと意図的な進化をさせました。人類も含め、ドラゴンといった現在では幻獣の類となっている生物を創造したのです」
神よ……と嘆いたダリウスはその大きな掌で口元を抑える。同時に、僕以外の外国人は胸に手を当て、首を横に降っていた。言葉を失った四人を代表して僕が白の創造主へ質問を投げかけた。
「それって、聖書にある人類誕生の話ですか? えっと、神は自分を似せて人類を作ったっていう?」
「最初に作られた『人類』は現代人よりも二倍ちかい大きさだと思われます。各地に残された神話にある巨人伝説は原初人類とでも言うべきでしょう」
「そんな話、信じられないわ!」
ヒステリックな声を上げたのはイリアだ。彼女の母国、スペインはイタリアも近いことからカトリック教徒かもしれない。いや、彼女だけじゃない。宗派は違っていても、大本を辿れば一つの神に繋がる。彼らが信仰しているその存在が、神秘ではなく地球外の異星人だと言われたら反発もしたくなるだろう。
「信じなくとも構いません。私が申し上げたいのは、古代人が創りあげた遺物を手に入れることです。そして、その遺物から生まれ出た生物たちは私達を拒むでしょう」
遺跡には独自に繁殖した幻獣が存在しているということだ。
「ドラゴンもしくはそれに近い幻獣生物ということですね」
この手の話は、アニメや漫画で慣れているせいか、簡単に受け入れてしまい、素直に白の創造主と対話することが出来た。
「そうです。おそらく、黒の創造主の手によってドラゴン以外の生命体も製造しているはずです。第二の『終末の咆哮』では、レリックモンスターではなく改良されたこの星の古代種が敵として現れることでしょう。その古代種の生物学的な弱点などの情報を得るためにも、生体製造機の設計図が必要なのです」
「わかりました。じゃあ……」
「シンゴ。あなたはどうしてそんなに落ち着いて話ができるというの? 私達人類が、意意図的に作られたという事実が怖くないの?」
イリアが僕の腕をひっぱり詰め寄ってきた。その迫真迫る表情に身を引いてしまう。
「もちろん、驚いてはいますよ? いますけど……ああそうなんだとしか言えないというか」
僕の受け答えに、イリアだけでなく他の三人も驚いた表情を見せる。
「これだから日本人は。俺は神を信じる。事実がなんであれな」
ダリウスが吐き捨ててはいるけれど、それは自分に言い聞かせているようにも見えた。
彼の言葉に同調するように、僕と白の創造主を除いた四人は小さく頷く。
同じ境遇である生存者であるはずなのに、疎外感がある。
嫌な空気が流れているがここで萎縮しなにもしないままではいられない。信仰はそちらの自由だし、都合だ。けれど、言うべきことは言わせてもらおう。
「日本人は無神論者が多いですよ。僕もその一人です」
静かに、しかし臆さず、言葉を発する。
「で? 神を信じないから、なんですか? そんな宗教の、信仰の有無が今この場に必要な議題ですか?」
言葉の速度が早まっていく。
「あなたたちは、何を目的にここへ来たんですか」
僕はとても頑丈そうに作られたテーブルを叩いて立ち上がった。
「いまは、神様がどうこうの話はどうだっていいです。僕らがここに集まった目的は、第一次『終末の咆哮』で失われた人たちを取り戻すこと。そのために遺跡へ向かい、二つの勢力と戦い、遺物である設計図を手に入れることです。違いますか?」
語尾を荒げ、僕は宗派違うかもしれないが、同じ神を信じる四人に向けて啖呵を切った。
「いまこうして物事を考え、感情を交えて言葉を口にしていられるのは、あなたたちから覚醒した力を奪い、そして死んだ人がいるからじゃないんですか。僕もそうです。僕なんかを救うために、大切な友人が死にました。僕なら必ず救ってくれるだろうと信じて……死んでしまった。僕が怒りを露わにできるのも、死んでしまった友人のおかげだ。あなたたちは、信じている神によって救われたんですか? そうじゃない。犠牲になった人がいたから生きている。祈っても失われた人の命は取り戻せない。信仰する神に祈るよりも前に、今やるべきことを見失うな!」
怒鳴り散らしたせいで、喉が枯れ果ててしまった。喉はいがらっぽく、大きく咳き込んでしまった。
「シンゴさん」
目の前にいる白の創造主が優しく僕の名を呼んだ。
「どうぞ、飲んでください」
彼女が手を差し伸ばすと、テーブルの上には水が入ったグラスが置かれていた。水滴が滴っていて、よく冷えているのが見て取れた。突然現れたグラスに驚くこともなかった。この家は異世界の住人が住んでいる。僕の常識など通用するわけもない。
軽く会釈をしてから、水を一気に飲み干した。
喉が潤う。熱くなっていた体も徐々に冷めていった。
空になったグラスをテーブルに置くと、奥に座っていたハインが立ち上がる。
「シンゴ。オレたちは、君が日本人だからと馬鹿にしたわけじゃない。ただ神を信じない人が、オレたちには受け入れがたいことなんだ。許してほしい。そして、君が言ったことは正しい。オレたちの目的は失われた友人たちを助けることだ。相違はない」
僕の想いが上手く伝わったおかげもあってか、みんなは口々に謝罪の言葉を口にする。
「なぁ、シンゴ。提案があるんだが、聞いてくれるか?」
ダリウスがその大きな体を揺らしながら、僕の隣に立って肩に手を載せた。
「どうも、俺たちではきちんとした話を彼女から聞き出せそうにない。なにか一つでも彼女が話をすれば、合わせて驚き、思ったままの疑問を投げかけてしまう。これじゃいつまでたっても話が進まない。ところが、シンゴは常に冷静に、事実を受け止めて的確な質問をする。俺たちの代表ということで彼女との話を進めてくれないか?」
その役目ならハインがいいだろうと僕は真っ先に思い立った。遺跡に潜む古代種の生命体に、黒の創造主がどのように活動を起こすのか、ハインはそれを予見していたのだ。
僕がハインに助け舟を求めようとすると「いいじゃないか。シンゴなら適任だ」と強く頷いてみせた。
何故?
「この五人の中で唯一、異世界化していない現実世界で適正者へと戻り、試作適応者と戦ったんだ。それにシンゴの戦闘成績は実に優秀だと聴く。遺跡にいる古代種のモンスター、そして適応者との戦闘も考えるのならば、シンゴが話を聴くべきだね」
「私もダリウスとハインの意見に賛成よ。あなたもそうでしょう? イリア?」
「反対意見なんて一つもない。こんな可愛い顔をしてあんな風に怒るんだもの。見直しちゃったわ」
ポーランドとスペインの女性二人は微笑みあった。
「と、言うわけだシンゴ。あとはよろしく頼んだ……ぜ!」
ダリウスの手が肩から離れたと思ったのも束の間、すぐさま強い衝撃が背中に走る。
「痛い!」
「ははは。この程度の力で叫ぶなよ。それでも侍の国に生まれた男かい?」
「今の日本に侍はいないし、その心情は現代日本人にはほとんど受け継がれていなよ」
「なら、これから侍になればいいじゃないか。なぁ?」
ダリウスの一言で、満足そうにみんなが頷く。
このどうしようもなく外国人のノリに、小さな島国出身の僕は付いていけそうになかった。
とは言うものの、僕が白の創造主との質疑を始めることに収まってしまったのも事実だ。
僕は空になったグラスに目を配ってから、改めて白の創造主と向き合う。
「話の続きをしましょう」
「はい。たしか、シンゴさんはなにかを言いかけましたね? あの時、私になにを聞きたかったのですか?」
「ええっと……」
僕が何を言いかけたのか、記憶を探った。
「遺跡には古代のモンスターがいて、それらを創りだした製造機の設計図を手に入れる。さらに遺跡には試作適応者も現れる。これらの脅威に対しての対抗策は僕らが適正者に成ること。ただ一番の問題は、適正者になれる時間があまりにも短いことです。適正者でいられる時間は厳密にはどれくらいですか」
「最大で五分三十三秒です。試作適応者から攻撃を受け、多くのダメージを受けた場合はさらに早まるでしょう」
「適応者からの攻撃……では、古代種のモンスターと戦った場合はどうなりますか?」
「どのような生態系であるのか、またその強靭さもわかりませんが、おそらくたった一度でも攻撃を貰えば、即座に元の姿へと戻ります」
ガタっと椅子を倒し、ダリウスが立ち上がるが、僕の視線を感じてすまないと言った風に苦笑いをして、倒れた椅子を元に戻して座り直した。
「白の創造主。例え戦う力があったとしても、設計図を手に入れるのは絶望的です。戦わずに、逃げながら設計図を手に入れろと?」
「たしかに絶望的です」
「……では、僕らにどうしろと? 適正者へとなれる力を手に入れても、それじゃ」
「もちろん、それはこちらの世界であればの話です」
「すみません、なにを言っているんですか?」
「そのままの意味ですよ。こちらの異世界化していない場所で試作適応者や古代種の生命体と戦えば、その力はすぐに奪われます。でも、これからあなたたちに行っていただく遺跡がこちらの世界にはありません」
「まさか」
僕の脳裏に思い浮かんだのは、それこそよくあるお約束の設定だった。
「古代の遺跡は、次元と次元の隙間に存在しています。そう、私が作り上げたこの場所のように」
「ここが? ここはアメリカじゃないんですか?」
「アメリカですよ。より正確に言えば、メリーランド州にあるとある地域の隙間です。次元を新たに作った場所ですから、太陽の光も屈折し空の色は紫色に変わってしまいましたが」
「ということは、ここであれば適正者にもなれる」
「そうです」
「そして、僕らが目的とするシュメール文明の遺跡でも、僕らはあの異世界化した現実世界のように適正者へとなれるんですね」
「覚醒した状態にはなれませんがが、従来の適正者にはなれます」
「試作適応者、そして古代種の生命体と戦っていただけるには不十分……でしょうか?」
「不十分? とんでもない。制限のない場所であるなら、僕は戦いますよ。他のみなさんは、戦えますか?」
テーブルに両肘をついて、テーブル席に座った生存者たちを眺め見る。
「問題ないね」とダリウスを筆頭に、椅子に座っていた全員が立ち上がる。
もちろん、僕もだ。
「白の創造主。ここでもなれるんだよな?」
ダリウスがポケットにしまいこんでいたスマートフォンを取り出す。
「もちろんです。お試しになられますか?」
みな、口に出さずとも思いは同じだった。
片手にはそれぞれのスマートフォンが握られている。
それぞれのスマートフォンが光り輝き、各々のレリック武器が装着された。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
次回投稿は4/23です。




