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異世界化した現実世界を救済します  作者: アサクラ サトシ
第一章 『終末の咆哮』
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001 『再始動(リスタート)』

題材は在り来りですが、オリジナル小説になります。

よろしくお願いします。

 獰猛で狂気に満ちた動物の咆哮が原宿一帯を支配した。

 咆哮による音の振動は僕の体に纏わりつき小刻みに波を打った。威嚇する音の膜は全身を萎縮させ本能的に「殺される」「喰われる」という恐怖心を煽った。

 姿の見えない動物に僕は完全に屈服し両膝を地につけた。

 数秒後、咆哮が聞こえなくなると、強く握りしめていたスマートフォンから僕の名を呼ぶカズさんの声だ。

(しん)()! 聞こえるか? 真悟!」

 右手に持っていたスマートフォンからカズさんこと立花一英さんの叫び声が聴こえた。どうやら代々木公園内で集まっているオフ会メンバーにも聞こえていたようだ。いつも冗談ばかり言っているカズさんに余裕はなかった。

 それでも誰かの声を聞くことで心の底から安堵した。

「聞こえています。さっきのなんだった……」

 裏返った声で返答をしていると、カズさんは僕の言葉を遮った。

「いいか! よく聞け、さっ──ほうこ──だ!。クソ! ヤバ──奴だけじゃ──広が──になっ──こ──は──ックだ」

 急にカズさんの声が聞き取りにくくなる。

「カズさん、なんですか? なんか電波が悪くて」

 ずっと聞き取れなかったカズさんの声が急にクリアになった。

「真悟! 思いだせ! 『Relic』のメインシナリオの最後だ。俺たちは──」

 カズさんが言い切る前に通話は切断された。

 なんだ、カズさんは何を伝えたかったんだ。確かに今日集まるオフ会のメンバーは僕を含め『Relic』の元プレイヤー四人が集まっている。

 遺伝子情報読込型新世代MMORPG『Relic』は今年の三月十五日サービス終了したオンラインゲーム。

 個人情報の頂点ともいえる遺伝子情報をデジタル解析し、遺伝子情報別デフォルトキャラクターとステータス、そしてこのゲームで最重要とされる専用固定武器『遺物(レリック)』が手に入る。キャラクターメイキングは可能ではあるけれど、プレイヤーの遺伝子を読み込ませることで、自分自身の分身がゲーム上でプレイしていると思えた。

 このレリックという武器は単にゲームタイトルだからという訳ではなく他の意味を持っていた。設定では二千年前に滅んだ超古代文明のオーバーテクノロジーによってありとあらゆるものを製造可能とする〈遺物(レリック)〉が存在した。

 武器だけでなく生命体さえも……

 そして、レリックで作られたモノはレリックでしか滅ぼせない仕様だ。

 早い話、プレイヤーはレリックで作られた武器を装着し、同じくレリックで製造されたモンスターと戦うという流れだ。

 ゲームシステムに戦闘スタイル、そしてメインシナリオなどは好みが別れるRPGだったがハマる人はハマった。僕もハマった人間の一人だ。

 だがゲームの寿命は短かった。なぜなら最も取り扱いの難しい個人情報なだけに『Relic』のゲーム運営は長続きせずサービス開始から一年と数ヶ月で終了を迎えてしまった。

 楽しんでいただけに、遊べなくなった時の喪失感は大きかった。

 何かで埋め合わせようと色々とオンラインゲームだけでなく、コンシューマー向けのゲームも遊んだが物足りなさだけが残った。

 『Relic』側で動きがあったのはちょうど一ヶ月前だ。東京オリンピックが終了した直後に『Relic』と連動したスマートフォンアプリ『R』から九月十五日に『Relic』のイベントが開かれると告知がでた。厳密にはイベント開催みたいな煽り文句などはなく、日付と時間、そして多くの場所だけがアプリに表示されただけだった。しかし人とは都合のいい解釈を持っていて、これだけの情報で「イベントが開催される」と思い込んでしまう。

 イベントは世界規模で開催地も多い。関東だけでも十箇所以上はあったはずだ。今日集まったオフ会メンバーは開催地の一つである代々木公園を選んだ。

 僕はあることを思い出してスリープモードに入ったスマートフォンを起動させるとデジタル表示で十三時五分と表記されている。

 イベント開催時間は十三時ジャスト。

 もしかして、さっきの咆哮はイベント開催時刻と同時だった?

 カズさんが最後に言いかけた『俺たちは』に続く言葉はゲーム世界に転送された?

 そこまで考えて自分を鼻で笑った。一昔に流行ったアニメやラノベでもあるまいし。目の前には代々木公園の入り口。それに一見してゲームとは無縁にとも思える人々ばかり目についた。

 そんな風に辺りを見回すと、何かに恐れている人々で溢れている。得体のしれない動物の咆哮におびえているだけだと言い聞かせたかったが、異変に気づいてしまった。咆哮が聞こえる前と今ではかなり風景が変わっている。

 正確には普段から目にしている建物に異質な何かと一体化していた。

 原宿駅は岩造りの砦と、神宮橋の一部はレンガで出来た二階建ての家と、山手線の線路からは見上げるほどの巨木が静かにそびえ立っていた。

 他にも塗装された道路は所々で砂地へと変わり、ビルとビルの合間には三人の女性が描かれた一枚岩のレリーフが貼られていた。

 一方的に現れた建築物は半年前にモニター越しに見かけた建築物ばかりだ。

 劇的な変化に気がついた人達は口々に騒ぎ出す。

 ところが次第に彼らの視線は代々木公園の上空を見上げだした。表情は驚きと混乱が入り混じり、最後には絶望に満ちた顔となった。

「なんだよ、あれ。なんだよ!」

「やだ、怖い。ねえ、警察は?」

「警察? そんなもん役に立つか! 戦闘機か戦車の間違いだろ」

「ねえ、逃げようよ。危ないよ。あんなの絶対におかしいって!」

 相次いで叫ばれるおののく言葉の数々。

 僕は彼らと同じように空を見上げる。

 現実しか見えないはずの両目は非現実を見せ付けた。

 見上げた先にはとてつもなく大きな球体が上昇していた。もし上昇する巨大な球体だけであれば誰も驚きはしても恐れたりはしなかったはずだ。

 彼らが恐怖する原因は球体の中身。

 球体の中で白銀の毛をした禍々しい獣が鎮座している。

 『それ』はこちら側の動物に例えるなら狼だ。ただ、前に僕が見た画面の中で動いていた可愛らしいデザインではなくゲーム内で閲覧できた生物図鑑の絵に忠実だ。

「あのデカイ化物はなんだ!」

 近くにいた男性が悲鳴にも近いような声で叫ぶ。

「あれは狼種ボス級レリックモンスター。光を蝕む獣。ガルズディア」

 僕はぼそりとモンスターの名前を告げた。彼に教えたというより、今起きている状況を把握するために呟いた。

 僕らは『Relic』の世界に来たのではなく、逆だったのだ。

仮想(ゲーム)現実(リアル)へと来たんだ。

 じゃあ、イベントっていうのはアイツを、あのレイドボスを倒すことなのか。装備もないこの生身で戦えと……口元が緩んだ。

「そんなの無茶だ」

 絶望を通り越して笑ってしまった。

 ゲーム上であれば倒せない相手でもない。でもそれは、装備と人が整っていてなおかつ現実(リアル)ではなく仮想(ゲーム)であることが必須条件だ。

唖然としている中、代々木公園のほうから大勢の人達が悲鳴を上げながら駆け逃げてくるのが見えた

 これから起きる出来事を想像する必要もなく目の前には結果が出ていた。

 下級生成レリックモンスターの狼種のガルブが群れとなって逃げ惑う人々を襲いかかる。このガルブも図鑑の絵に似ている。

 助けてと叫ぶ声を上げた直後、ガルブに襲われた人はその場に死体を残さず、光となって天へと昇る。人であったその光は代々木公園内へと向かって行く。他の場所でも多くの人が襲われてしまったのだろう。いたるところから次々へと光の柱が空へと登っていく。

 なにもすることが出来ない。この場から逃げ出したかったが、無駄なのは知っている。

 どんなに逃げても一度ターゲットにされてしまうと群れを統一するリーダーのガルブを倒すまで襲われ続ける。他に逃れられる手段があるとすれば、ターゲット自身が倒されることだ。

 ターゲットされる前に逃げればいいだろっていう話なのだがそれも無理っぽい。

 一匹のガルブが僕を目指して突進してくるのが見える。

「せっかく苦労して進級したのに、こんな終わりかよ」

 去年『Relic』ばかりしていて、単位を落としそうになったのを思い出す。走馬灯にしてはなんとも情けない思い出だ。

 今年の夏こそは彼女ができたらいいな、なんて考えもした。今日のオフ会にも彼女は来ているとカズさんは教えてくれた。小柄でのんびり屋の彼女──ゲームで知り合ってからオフ会で何度か会ったけれど、出会い厨と思われたくなくて連絡先すら聞いてない。

 今日こそはもっと仲良くなれたらいいなって考えた。

 彼女が無事だったらいいな。

「終わり、か」

 ガルブが涎を垂らして大きく口を開くのが見えた。

 できれば痛い思いをせずに一撃で終わりにしてほしいと、死を覚悟した瞬間だった。

 突然、僕の周辺に青白い光が放たれると襲いかかってきたガルブを弾き飛ばした。

 僕が立つ地面には魔法陣みたいな円形が青白く輝いている。

「終わりではありません! 真悟さま!」

 可愛らしい女の子の声が聴こえた。

 右手に持っていたスマートフォンのディスプレイから手の平サイズの女の子が現れた。六頭身で髪は長く、翡翠色で花をイメージさせるふわふわしたワンピースを着衣している。

 突然の出来事に僕は驚いてスマートフォンを手放してしまったが、落下せずに女の子を表示させたまま宙に浮いていた。

「え、なに? てか、君、誰?」

「一緒に旅の手助けしたこのリリィをお忘れなのですか?」

 リリィと名乗った小型の女の子は無い胸を大きく張った。

「リリィ? え、だってゲームと全然違うっていうか」

 キュラデザが違うし、なにより声が違う。僕が選んだ声優さんはもっと舌足らずな喋り方をするタイプで、こんなハキハキと喋らなかったはず。

 でも、彼女がリリィならこの青白い光はサポート魔法の加護の円陣か。

「げーむ? ああ、リリィたちの世界へいらっしゃった頃のお話をされているのですね。いえ、そのお話は後です。いまはガルブの群れを!」

「あいつらを? 無茶を言わないでくれ! 生身で行ったら死ににいくようなもんじゃないか」

「死にません! リリィは適正者を手助けする者です」

「手助けって……」

 現実世界にいる僕になにが出来るっていうんだ。

 そうとう情けない顔をしていたのだろう。リリィは溜息をついた。

 加護の円陣が揺れる。リリィと話している合間にもガルブの群れは僕達に標的を絞ったらしく、こちらに向かって突進してくる。

 光の膜に小さなひび割れが見え始める。ゲーム内での耐久回数は……ダメだ、思い出す余裕が無い。

「真悟さま、時間がありません」

 リリィが僕の右手の甲に触れる。

「熱! 痛!」

 リリィが触れたところに『Relic』では見慣れた四つ円が重なり合っている紋章が浮かび上がっている。

「さぁ、これを」

 リリィはこちらの都合などお構いなしにどこから取り出したのか自分と同じサイズの白い玉を僕に持たせた。

「その中に真悟さまがこちらへお戻りに戻る前のレリック『手甲(てっこう)・陰』と『(きゃっ)(こう)・陽』が封じてあります」

 僕専用の手脚甲武器。『Relic』では武器名をプレイヤー自身で決められる。こうして僕が付けた武器名を聞かされるとかなり痛いし恥ずかしい。

 ドン! と、これまででいちばん激しい揺れが生じた。円陣もそろそろ限界らしい。

「装着するには?」

「玉を割るだけです。ただ……」

 間を置かれ続く言葉を待ったがなかなか口にしない。この間にもガルブは僕めがけて突進してくる。

「勿体ぶらずにはっきり言ってくれない?」

 こっちは余裕も時間もない。

「いまさらかもしれませんが、レリックを装着されたら後戻りはできません。それでもよろしいですか?」

「本当にいまさらだな! よろしくないに決まってるだろ!」

 『Relic』の開始直後のメインシナリオイベントを思い出す。プレイヤーは異世界に飛ばされ、その世界で妖精と出会い哀願される。「古代文明の遺物武器『レリック』の適正者となって戦って下さいませんか」と。

 スマートフォンと共に浮遊したリリィが僕の眼前まで近づいてくる。

「再び適正者となって戦ってはくれないのですか」

 あの時はモニター越しだったしゲームなら断る理由すらなかった。

 ゲーム内であれば断れば元の世界へ戻れる、という設定だった。

 ここで断ったらどうなる?

 適正者にならなければガルブたちに襲いわれてエンドだ。

 選択肢なんてはじめからなかった。

「戦うさ」

 僕はありったけの力を込めて玉を砕いた。

最後まで読んでいただきありがとうございます。


15/9/23までは毎日13時に投稿します。

9/23の後書きにて、その後の投稿について記載します。


不手際があるかもしれませんが、よろしくお願い致します。


※追記 諸事情により9/16からは18時の投稿となります。

    申し訳ありません。

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