割れた女神の時計
生まれつき人並みはずれた魔力を持ち、それゆえに闇の魔法に魅入られたアレクシス。
一族はアレクシスを恐れ、封印した。
カミルはそう言いました。
「本当なの? アレクシス」
「……本当だよ」
感情を抑え込むような冷たい声で、アレクシスはエーデルシュタインに答えました。
カミルは二人に近づいてきます。
「エイダ。君は何も悪くない。伯父上に騙されていただけだ。僕の宝物部屋から逃げ出したことも許してあげよう。さ、戻っておいで」
エーデルシュタインが迷っていると、カミルは苛立って言いました。
「僕に従わないというのなら、鳥籠にまた封印するまでだ。まずは伯父上を完全に魔法が使えないようにしてやる!」
カミルが魔法を使おうと腕を振り上げた時、エーデルシュタインはとっさにカミルの腕にしがみつきました。
すぐさま時の魔法を使おうとしたエーデルシュタインでしたが、怒ったカミルはぶんっと腕を振り、エーデルシュタインを床に叩きつけました。
何かが割れる音がして、エーデルシュタインはぐったりと倒れました。
見ると、女神の時計が真っ二つに割れてしまっています。
エーデルシュタインは女神の時計の妖精です。
その時計が割れれば、エーデルシュタインの命に関わります。
エーデルシュタインの身体は輝きを失い、ピンク色の髪はみるみる内に黒く染まり、羽は灰のようにさらさらと消え始めました。
「エーデルシュタイン!」
悲鳴のようなアレクシスの声が響きます。
カミルは女神の時計とエーデルシュタインを見て舌打ちをしました。
「せっかくの女神の時計が……」
「カミル!!」
アレクシスは衝動のままに叫びました。
「もう、お前を許せない。加減などしてやらない!」
アレクシスの放った攻撃の魔法が、エーデルシュタインが使おうとして発動できなかった時の魔法と混ざり合いました。
カミルがとっさに唱えた防御魔法を簡単に破り、二人の魔法はカミルを襲います!
「? なんだ……なんともないですよ、伯父上。ハハ、腕が鈍りましたか?」
アレクシスは哀れむように言いました。
「自分の声がしゃがれていることにも気付かないか」
はっとしたカミルは、懐から鏡を取り出し、天を切り裂くような悲鳴をあげました。
カミルの容姿は、若々しい青年から皺だらけのおじいさんへと変わっていたのです。
「ぼ、僕の美しい、顔が!! な、なんで、なんてことだ、誰か、誰か!!」
パニックになったカミルは、這うように地下の墓地から逃げていきました。
アレクシスの魔法で魔力を、エーデルシュタインの時の魔法で若い容姿を奪われたカミルには、もう自信もなければ魔法も使えません。
カミルは泣きながら城を飛び出し、どこかへ走り去っていきました。