切り札はここに
次にアレクシスが現れたとき、エーデルシュタインはカミルの話をアレクシスに伝え、どういうことなのかと聞きました。
「魔法の暴走……か。エーデルシュタイン、私は確かにカミルの伯父だけど、死んでいる訳じゃない。……生きているとも言えないけれど。君に私のことを詳しく話さなかったのは、私が生きても死んでもいない、説明しにくい状態だったからだよ」
私のことより、とアレクシスは、エーデルシュタインを真剣な顔で見つめました。
「この鳥籠にかかっている封印の魔法は、かなり強いものだ。私のどんな魔法を試してもびくともしない。だから……今日は最後の方法を試してみたい」
「最後の方法?」
「うん。女神の時計を使う方法だ」
アレクシスは申し訳なさそうな顔で、その方法を説明しました。
女神の時計は、エーデルシュタインの胸にペンダントとしてぶらさがっている時計のこと。
「神が創りだしたものには魔法の力が宿る。その女神の時計は、時計であると共に時間魔法の道具だ。それがあれば私も強力な時間の魔法を使える。この鳥籠の時間を戻せば、封印の魔法も解けるだろう」
ただし、この方法には二つ条件があって、とアレクシスは続けました。
「まず一つ目は、君は鳥籠から出られないけど、女神の時計は鳥籠の外に出すことができること。そして二つ目の条件が、君が私を信じて、私に女神の時計を預けてくれること」
エーデルシュタインは、すぐに返事ができませんでした。
「カミルのことがあった今、君に私を信じてほしいというのは難しい話かもしれない。だから無理強いはしない」
エーデルシュタインは探るようにアレクシスを見ました。
「アレクシス。カミルはあなたが強い魔力を持って生まれたと言ってたわ。そのあなたが魔力が足りないと言うのは、カミルの魔力のほうが強いということ?」
「いいや。私は……」
アレクシスはためらった後、エーデルシュタインに昔の話をしました。
魔力が強く、生まれた時から次の城主と見なされていたアレクシスですが、アレクシスの弟、つまりカミルの父を次の城主にと押す人間たちが、一族の中に居ました。
アレクシスは11歳の時、その者達によって心と体を魔法で分けられ、封印されてしまいました。
その時アレクシスの魔力も、心と体の二つに分かれてしまったのです。
「今の私の力は、本来の力の半分もない。だからカミルにも劣ってしまうんだよ」
「アレクシス……」
悲しそうなアレクシスの顔を見ていると、エーデルシュタインは泣きたくなってしまいました。
この少年は、大人たちの身勝手でこんな状態になり、40年も一人で過ごしてきた。
こんなに優しい人なのに。
エーデルシュタインは悲しすぎて、ポロポロと涙が流れました。
「エーデルシュタイン? ごめん。話さないほうがよかったかな。こ、困ったな…泣かせるつもりはなかったんだ」
おろおろする少年に、エーデルシュタインは首を振りました。
「アレクシス。お願いがあるの」
友達になってほしい、とエーデルシュタインは言いました。
アレクシスが頷くと、エーデルシュタインは女神の時計をアレクシスに差し出しました。
本当は、少し前から友達になりたかった。
焦がれるような気持ちじゃなくて、ほっこりとした温かい気持ちをくれた人。
傍にいると安心できる人。
信じられる人。
女神の時計は鳥籠の中から、アレクシスの手に渡されました。
アレクシスの手に触れた時、女神の時計はきらりと大きく光りました。
そしてアレクシスは鳥籠の魔法を解き、エーデルシュタインを解放したのでした。
女神の時計をエーデルシュタインに返しながら、アレクシスははにかむような笑顔で言いました。
「信じてくれてありがとう」