アレクシスの正体
それからアレクシスは、毎日のようにエーデルシュタインの元を訪れ、ああでもないこうでもないと魔法を試していきました。
しかし、アレクシスのどんな魔法も、鳥籠にかかった魔法が弾き返してしまいます。
その内、一言二言、アレクシスとエーデルシュタインは言葉を交わすようになりました。
エーデルシュタインが名前を教えたとき、アレクシスは「可愛い名前だね」と言い、エーデルシュタイン、と笑いかけました。
アレクシスに名前を呼ばれた瞬間、エーデルシュタインは今まで凍り付いていた心が、いっきに温もりを取り戻し、再び鼓動を刻み始めたように感じました。
しかしエーデルシュタインは尚いっそう、アレクシスを警戒しました。カミルに初めて会ったときもそうだったのだ。もう同じ間違いはしない。と。
「エーデルシュタインは、時計の妖精なんだね」
「そ、そうよ。お母様が森の動物達のために私を創ったの」
「じゃあ、女神様も動物達も君を心配してるだろう。早く帰らないといけないね」
アレクシスの同情するような言葉に、エーデルシュタインは戸惑いました。
エーデルシュタインがカミルに自分の話をした時、彼はローズクォーツでできた時計をしきりに褒めていました。綺麗だ、こんなに美しいものは見たことがない、女神が創ったから君も時計も完璧な姿なのか、と。
カミルの言葉はエーデルシュタインをドキドキさせたけれど、アレクシスの言葉は彼女を包み込んでくれるようでした。
ある日、カミルが久しぶりにエーデルシュタインの元を訪れました。
「魔法を解こうとしているのをカミルに知られるとまずいから、私のことをカミルには言わないで」とアレクシスに口止めされていたエーデルシュタインですが、アレクシスのことが気になって我慢ができませんでした。
「僕の親戚? そんな者、この城にはいない」
不審そうな顔でカミルはエーデルシュタインに言いました。
「そんな、アレクシスっていう人が……」
「アレクシス? どこでその名前を聞いた?」
「この塔に、入る前に、メイドさんが話してるのを聞いたわ」
エーデルシュタインは初めて嘘をつきました。そして再び、カミルに問いかけました。
「アレクシスって誰?」
「アレクシスは僕の伯父だ。40年前に死んだ」
さらりと告げられた言葉に、エーデルシュタインはびっくりしました。
アレクシスはカミルの伯父?
40年前に死んだ?
じゃあ、私の前に現れるあの子は一体誰?
カミルによると、アレクシスはカミルの父親の兄で、とても強い魔力を持って生まれたものの、11歳の時に魔法が暴走して命を落としたそうでした。
アレクシスの姿が少年なのは、そこで時が止まってしまっているせいなのでしょうか。
エーデルシュタインは、カミルの前でアレクシスの名前を出すのをやめました。