魔法使いの青年カミル
森の女神が、森の動物達のために時計を作りました。
ローズクォーツという宝石から作られたその時計は、動物達から「女神の時計」と呼ばれました。
女神の時計に宿った妖精の名前は、エーデルシュタイン。
ピンクブロンドの長い髪。
湖のような水色の瞳。
エーデルシュタインは、母である女神に似た美しい姿をしていました。
ある日、森に人間が迷い込みました。
とても綺麗な顔立ちの青年でした。
切り株に座っていたエーデルシュタインに気づいた彼は、困った顔で彼女に道を尋ねました。
エーデルシュタインはとても驚きました。
ただの人間に、妖精であるエーデルシュタインが見えるはずがないのです。
それもそのはず、青年はただの人間ではありませんでした。
「あなたから、とても強い魔力を感じるわ。あなたは……」
エーデルシュタインは女神から、妖精が見える人間について教えられていました。
「そうだよ。僕は魔法使いだ。精霊や妖精とは友達のようなものだね」
優しく手を握られて言われたその言葉に、エーデルシュタインはドキリとしました。
エーデルシュタインは森の出口まで彼を送りました。
その日から時々、魔法使いの青年が森に顔を出すようになりました。
カミルと言う名前の彼は、森の外にある城の主でした。
カミルはとても気さくで、城下町の話や魔法の話など、エーデルシュタインの知らないことを沢山教えてくれました。
エーデルシュタインはカミルの話に夢中になりました。
それに、彼のそばにいるといつも良い匂いがして、胸がドキドキするのです。
やがてカミルはエーデルシュタインを親しみを込めてエイダと呼ぶようになりました。
エーデルシュタインも彼にすっかり気を許し、自分が宿った女神の時計の話や、女神の話、森の動物達の話をしました。
「カミル。あなたに会えない日は、一日がとても長くてつらいわ。あなたに会うと、一日が一瞬のよう。私の時計は狂ってしまったのかしら」
それは、エーデルシュタインが不思議に思っていたことでした。
エーデルシュタインの持つ女神の時計は、彼女の首にペンダントになってぶら下がっているのですが、いつもどんなことがあっても同じリズムで時を刻んでいます。
なのに、カミルに会えた日と会えない日では、とても同じ長さの一日とは思えないのです。
「エイダ、それは僕も一緒だよ」
カミルは囁くように言いました。
「君に会えない時は、世界から色が失われてしまったようだ。何もかも灰色で、何もかもつまらない」
そうだ、とカミルは言いました。
「僕の城に来ないか、エイダ? 僕の城なら、いつも一緒に居られる。僕が君に会いたいときにも会えるし、君が僕に会いたい時だって会えるよ。君を愛している。永遠に一緒にいよう、エイダ」
エーデルシュタインはこの言葉に喜び、舞い上がって、女神や動物達に声をかけることも忘れて森を出ました。