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クリスマスパーティー

戦場の様なクリスマス営業が終わり、海斗は閉店作業に移る。

空き瓶のボックスにはシャンパンの山が出来ていた。

ゴミをまとめて、トイレを掃除しようと中に入ると、完全に酔い潰れているリンさんがいた。

とりあえずリンさんを着替えさせたかったがまだ更衣室はキャスト達がたくさんいる。

しょうがないので、リンさんを抱えて隣のメイク室を脚でノックし中に向かって声をかける。


「誰かいるー?」

「おるけど、なにー?」

「あー、杏奈さんか。リンさん運び入れたいんだけど、開けて大丈夫?」

「ええよ。今あけたるわ」


ガチャっとドアが開くとそこにはヌーブラにパンツ姿の杏奈さんがいた。


「ちょ、ええー!?」

「リンちゃん潰れてもうたんかー。途中からやばそうやったもんなぁ」


普通にそのままの格好でリンさんの顔を覗き込む杏奈さん。


「ちょっ、何でここで着替えてんの?それに何か着てよ!」

「あはは、更衣室混んでるしなー。裸やと思ったやろー。残念やったな」

「いいから早く着替えなさい、エロテロリストめ!」

「誰が、淫乱オブジョイトイやねん!ウチの方が全然若いわ!って淫乱ちゃうし!」

「……。」


そう一人ノリツッコミをする杏奈さんを華麗にスルーして中に入る海斗。

そのままリンさんを降ろそうとした時、後ろから杏奈さんに「えい!」と乗り掛かられた。


海斗はバランスを崩し、危うくリンさんを落としそうになりながらも床に寝かせる。

本当に危なかったため、マジなトーンで注意しようと振り返る。


「ちょっとホントに危な…、あ…」

「ん?…あ」


後ろにいた杏奈さんは片方のヌーブラが完全にズレておっぱいが丸見えになっていた。

海斗は呆れたように言う。


「もう、早く着替えてくれよ」

「なんやー。このラッキースケベに対してなんも感想無いんかい!」


杏奈さんは腰に手を当てて堂々と言い放つ。


「声がデカイよ。それに少しは隠す振りしてよ」

「んー、こう?」


両腕で胸を挟み込む杏奈さん。


「強調してどうする!」


「だっておっぱいの感想聞いてんのに、『声がデカイよ』って、言われたらな。そっちかい!ってなるやん?」

「んー、じゃぁ、意外とおっきいんだね。…乳首が」

「ちょ!意外とってなんや。それに乳首おっきないやろ?あれ?でかいん?」


もう片方のヌーブラも外して確認してみせようとする杏奈さんに海斗が言う。


「冗談だよ!形も綺麗だし、乳首もちっちゃくてかわいいよ!ごちそうさま!って何の話だよ。いいから早くリンさんの着替え手伝ってあげて」

「はーい」


杏奈さんはその状態のままリンさんを脱がそうとする。


「いやいやいや、おかしいから!まず先に杏奈さんが何か着てよ。二人して裸になっちゃったら俺どうすればいいんだよ!」

「イエーイ。ちゃんとつっこんでくれる海斗さんすっきゃわー」


杏奈さんは満足したのか上だけ着替えてリンさんのドレスを脱がし始める。相変わらず下はパンツ姿のままだったが。


「じゃあ俺、片付けあるからあとよろしくね」

「えー?リンちゃんのおっぱい見て行かへんの?」

「いや、目的違うし!それにもう杏奈さんので今日のクリスマスプレゼントは十分だから。リンさんまで加わったら杏奈さんの印象が薄れるじゃん?」

「そっかぁ、じゃあ杏奈のおっぱいもっかい見とく?」

「いや、いいや」


そう言ってメイク室から出る海斗。

ドア越しに杏奈さんの「何でやー!」と言う声が聞こえたが、気にせず閉店作業に戻る。


フロアへ戻ると既にみんな飲み始めていた。

坂東さんが聞いてくる。


「何かあったの?」

「杏奈さん、酔っ払いすぎてテンションがヤバいです」

「あいつは酔うとめちゃくちゃタチ悪いからな。あれ?あいつアフター行くんじゃなかったのか?」

「あ、絶対忘れてますね。確認してきます」


またメイク室に舞い戻る海斗。ドア越しに話しかける。


「杏奈さん、アフターは?」

「あー、そろそろやな」

「そろそろって、お客さん待ってるんじゃないの?」

「そうなんやけど、あの客はすぐ行くと危ないねん。ちょっとバーで待たしとくほうが安全やから。待ってる間に眠くなるやろーし。そしたら帰りやすいしなー」

「そっか、分かってるんならいいんだ。リンさんは着替えた?」

「もうちょいやけど杏奈1人じゃ無理そう」

「分かった。入るよ?」

「ええよ」


中に入ると、上だけ着替えた状態のリンさんがいた。

杏奈さんはちゃんとスキニージーンズに着替えていた。

やっぱりさっきはわざとあの格好だったのね。つっこんであげなくてごめん。

杏奈さんと二人掛かりで着替えさせて、リンさんをフロアまで運ぶ。フロアへ行くと数人のキャストも飲んでいた。

安全のためにみんなから見える場所のソファにリンさんを寝かせ、ビニール袋を口元に置いておく。


そして杏奈さんは


「こっちのほうがおもろそうやなぁ。すぐ戻るからみんな帰らんといてー」


そう言い残してアフターへと向かっていった。


やっと落ち着いてクリスマスパーティーに参加が出来る海斗だった。


カウンターを見るといつもの席に優矢君が座り、カウンターの中に洋子さん、優矢くんの周りをキャスト達が丸イスを持ってきて囲んでいる。

そしてカウンターの端っこの方に山田君が居る。

その近くのフロアのテーブル席に増田さんや坂東さん、西野さん、秋山さんと残りのキャスト達が集まって飲んでいた。


基本的に今集まってるキャストはBランク以下のキャストばかり。

海斗の担当キャストは潰れているリンさんと、カウンターにいる真紀さん、サラさんのみ。


他のキャストはアフター、もしくは帰ったっぽい。

基本的にアフターは店は関知しない。行くも行かないもキャストの自由。

そのあとすんなり帰れなくても店としてはどうする事も出来ないから。

なので、経験が浅いキャストには行かないように言っている。

最近まで咲さんにもアフターは行かなくていいと言っていた。


海斗は山田君の隣に座る。

洋子さんがカウンターの中にパイプイスを持ち込み座りながら飲んでいる。それを見た海斗。


「洋子さん、完全にスナックのママじゃないすか」

「失礼ね、ガールズバーって言ってよ」

「ごめんなさい。俺が間違ってました」

「そうそう。気を付けて。じゃないとお酒を濃いめにしか作らないわよ」

「気をつけます。じゃあママ、ジンジャーハイボール」

「それは濃いめに作れってことね。いい度胸じゃない」

「いゃ、調子に乗りました。普通でお願いします。営業中もかなり飲んでたんすよ」

「はいはい。わかってるわ。心配しなくてもちゃんと作るわよ。はい、どーぞ」

「早くないすか?」

「だって海斗はいつもジンジャーハイボールじゃない」

「さっすがー。いただきます。山田君もお疲れ様」


そう言って隣の山田君と乾杯し、グラスを持って増田さんの所へ行く。座る場所がないので立ったまま

「お疲れ様です」


というとそこにいる人達と乾杯してまたカウンターへ戻る。

洋子さんがまた海斗に話しかけてきた。


「そういえば、昨日の夜、若菜ちゃんに電話して誘っといたから、あの子も始発で来るみたいよ。もうすぐじゃないかしら」


思わず酒を噴き出しそうになる海斗。


「ちょ、大丈夫なんですか?」

「だって営業中じゃないし、もう夜でもないし問題ないでしょう。あの子だって冬休みに入って学校ないし、聞けばクリスマスなのに1人でいるみたいじゃない」

「まぁ、そうなんですけど」


そんな会話をしていると優矢君のところにいた真紀さんとサラさんが海斗のそばに来た。


「海斗さん、誰呼んだのー?彼女ー?」

「え?海斗さんって彼女いたの?」

「いや、妹だよ、妹。男子スタッフと洋子さんはあった事あるんだよ。あと、そこで寝てるリンさんも」


その言葉にサラさんが食いつく。


「何でリンさんだけがあった事あるのかなぁ?」

「夏のバーベキューに妹も連れてったんだよ」

「へー、リンさんとバーベキューしたんだ」

「うん。店のバーベキュー大会」

「店の?」

「そう。夏のお盆休みに系列店全部のスタッフとキャストも含めて100人くらいで。ウチからは理子さんとか楓さんとかキャストは7人くらいいたかな」

「あー、そうだったんだ。なんだびっくりしたぁ」


なぜかホッとした表情のサラさん。それを見ていた真紀さんが


「サラちゃんは分かりやすくてかわいいねー。でも海斗さんは意外とライバルが多いから頑張んないとねー」


と言って、サラさんを抱きしめる。

なぜか顔を真っ赤にして慌てるサラさん。


「ち、違いますよー。風紀かと思ってびっくりしただけですよー。さっきもリンさん抱っこして来たし」


それを見て洋子さんが笑いながら言う。


「あはは、そうねー。サラちゃんは海斗とは付き合いが短いからまだ分かってないのねぇ。海斗はね、ほんっとに女の子の事を何とも考えてないのよ。考えてるのはキャストとしてだけなの」


サラさんが少し残念そうな顔をする。

真紀さんがノリノリで聞いてくる。

「えー、海斗さんタイプってどんな子なの?」

「んー、ひたむきに頑張る子かな。見てて応援したくなる」


それに対して洋子さんがつっこむ。


「じゃあ、海斗にとっては山田君はドストライクじゃない?」


その言葉に真紀さんも乗っかる。


「あー、わかるー。だって海斗さんって山田君を見る目が違うもんね。普段はすっごい真剣なのに山田君にだけは優しい目するし」

「あ、バレちゃった?という訳で山田君、今日は帰さないからな」


海斗は笑いながら山田君に握手を求める。山田君はそれには一切反応せず、


「あ、そろそろ若菜ちゃんが駅に着く頃なんで俺、迎えに行ってきます」


と言って立ち上がる。


「あははは」

「振られてるー」

「ナイス、山田君」


みんなから笑いが起きる。

海斗は差し出したままの手でグッジョブのサインをする。


立ち上がった山田君に洋子さんが1万円を渡す。

「山田君、ついでにつまみも買ってきて。変なとこ連れ込まないてちゃんと帰ってくるのよ〜」


「な、何言ってんすか。ちゃんと戻りますよ」


慌てる山田君に向かって海斗も話しかける。


「その1万円、俺のじゃないしそれで若菜とどっか行っちゃってもいいけどな。でも若菜は中学生だからマニアックなプレイだけはまだやめておいてあげて」


その言葉にキャストが反応する。


「えー?海斗さんの妹って中学生なんだー。何、山田君ってロリコンなのー?」


「ちょっと、洋子さんも海斗さんも、そんなんじゃないっすよ!みんなが勘違いするじゃないすか」


「あはは、俺を振ったバツだ。だって俺だけゲイみたいに扱われたら悔しいじゃん」


「なんなんすかもー。皆さんは何か買ってきてほしいものありますか?」


困った表情の山田君が、何とか話題を変えようと、キャスト達に向かって買ってきて欲しいものを聞く。

すると真紀さんが手を挙げる。


「はい!私、マックのポテト食べたい!」

「あ、私もー」

「ポテト食べたーい」

「アップルパイがいい!」


マックという言葉に次々と周りの女の子達が反応する。


「じゃあ適当に買ってきますね」


そう言って山田君はエレベーターでそそくさと外へ行った。


真紀さんがさっきまで山田君が座っていた位置に移動して聞いてくる。


「海斗さんの妹ってどんな子かなぁ。楽しみ」

「普通の中学生だよ」


海斗がそう言うと、洋子さんがすかさず言い返す。


「何言ってんのー。若菜ちゃんめちゃくちゃ可愛いじゃない。お姉ちゃんとしては悪い虫が付かないか心配ね」

「てゆーか洋子さん、いつの間に若菜とそんなに仲良くなってたんですか?」

「夏からよ。一緒に出かけたりするもの。でもちゃんと買ったものは海斗に報告するって言ってるし、私が何か買ってあげようとしても断るのよね。変に高いものとか持ってるとお兄ちゃんが心配するからって」

「いや、本当にありがとうございます。俺、全然構ってやれないし、女の子の趣味とか行きたい所とかよくわからないんで、助かります。それに隠れて変な人と付き合って欲しくはないですしね」

「そうねー、今のところは大丈夫そうよ。とてもいい子だし。だけど周りがほっとかないかもねー。最近どんどん可愛くなってるから」

「んー、どうなんですかねぇ。でも夏くらいから若菜が結構明るくなったんすよ。最近は何か変わったなぁって思う事が多くて」

「ふふふ、ちゃんとお兄ちゃんぽくなってきたじゃない」

「えー?そうっすかねー。でも、最近は若菜ともよく話しますね」


そんな会話をしていると入り口の方が騒がしくなる。


「あははー。ただいまー!!」


杏奈さんが戻ってきた。なぜか一緒に咲さんも連れている。

そしてカウンターの近くの空いている丸イスに座った。


「おかえり。早かったね。何で咲さんと一緒なの?」

「あんなー、杏奈が咲ちゃんを強引に誘ってん」

「いえ、アフター行ってた場所がたまたま一緒だったんです。松原さんがしつこくて困ってたんですが、見兼ねた杏奈さんがトイレで作戦会議をしてくれたんです。そしたら杏奈さんが泥酔した振りをしながら私達の席に乱入して一緒に飲んでくれて。お陰で無事、松原さんをタクシーで帰すことに成功しました」


「そうだったんだ。杏奈さんの方のお客さんはどうしたの?」

「爆睡してたから放置やで。杏奈からのクリスマスプレゼントと置き手紙だけ置いてきた」

「あはは、杏奈さんは相変わらずお客さんをかわすのがうまいね」

「せやろ。あんなんまともに相手したら今日はクリスマスやし、確実に食われてしまうやん」


これが若くても経験豊富な杏奈さんのアフターテクニック。ちゃんとアフターに付き合った事実を残しつつ、プレゼントを置いてくる事で、客が目を覚ました時に嬉しいサプライズを演出。そうすることで、あえて客を起こさないようにした理由の口実を作る。んでさっさと退散。さすが手慣れている。


海斗と杏奈さんの会話を聞いていた咲さんが一つ大きくため息をつく。


「はぁー、アフターって難しいですねー。お客さんって、お店の中と外じゃ別人になりますねぇ」


「ま、杏奈さんのようにってのはまだ難しいと思うから気にしないで。これからは同伴してくれるお客さんとアフターに行くことだね。そうすれば人となりがわかるから。でも今はパーティーだから楽しく飲もうよ。場が落ち着いてきたらまた後で仕事の話は聞くからさー」

「あ、そうですね」


咲さんとミーティングのような雰囲気になりそうだったので、海斗は一旦その話を断ち切った。

咲さんは酔うと仕事の相談ばかりになってしまう癖がある。


海斗は増田さんに言われた言葉を思い出した。

向上心があるのはいいけど、頑張りすぎると精神的にキツくなるキャストが多い。キツくなった時に自分の為に頑張っている子はまだ大丈夫だが、誰かの期待に応えようとだけで頑張っている子は壊れる可能性がある。

咲さんは後者の部類に見えるから、あれもこれも出来るようにとハッパをかけ過ぎる様なミーティングはするなと釘を刺されていた。

仕切り直すように海斗が杏奈さんと咲さんに飲み物をきく。


「何飲む?今日は洋子さんの店になってるから何でも言えば出て来るらしいよ」

「任せなさい。私に作れないものはないわ」


洋子さんは誇らしげに立ち上がり、待ち構える。

「なんか、シャンパンとか残ってへんの?杏奈シャンパン飲みたい」


洋子さんは不敵な笑いを浮かべてからカウンターの下の冷蔵庫をゴソゴソと探す。


「ジャーン!モエネクあったよ!」

「あー!それ飲みたい!」


モエさんのお客さんでシャンパンだけ入れて帰った客がいたのだ。そのお客さんは家庭があってクリスマスは早めに帰らなきゃ行けなかったのにどうしてもモエさんに会いたくてほんのちょっとだけ来ていた。なのでまるまるモエネクが残ってしまっていたのだ。

その他にも モエ白、ドンペリ白、などが残っていたが、この二つはキャストからは不味いと不評だ。客の前ではそんな素振りは一切見せないが。

人気はモエネク、ヴーヴイエロー、ヴーピン、ピンドン、ドンペリエノテーク、クリュ あたりは美味しいとみんな言う。

これだけ毎日のようにシャンパンを飲んでいるキャストが言うのだから間違ってないと思うが、飲み慣れない海斗にはその微妙な違いはまだよくわからない。


海斗は洋子さんと杏奈さんを中心に、咲さん、真紀さん、サラさん達とバカな話を喋る。

時たま杏奈さんは思い出したかのように西野さんにイタズラを仕掛けにいく。

増田さん達の席に笑いが起こり、それに気付いた優矢くん達も笑っていた。


アフターに行った子達が戻ってくるか、そのまま帰るのか確認できるまでこのクリスマスパーティーは続くのであった。








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