12月の営業と給与システム
海斗が正式に副主任となってから早1ヶ月。
自分でする仕事を一つ増やした。それはキャスト成績をより見た目でわかりやすくする事。
まず、毎日ポイントと指名売り上げ金額を並列で棒グラフ化。
それから毎週、週始めに売り上げ貢献度のパーセンテージ化。
この二つの資料を更衣室に貼り出す。
キャストの評価基準として
・売り上げ
・指名本数
・指名や同伴などのポイント数
・出勤日数
・総支給額を指名売上金で割ったパーセンテージによる貢献度
新しく明示した貢献度とは
例えばバックを含めた給与が60万でも売り上げが50万であれば
50/60=0.83→店に83%の貢献度。
給与が60万で売り上げが100万だった場合
100/60=1.66→166%の貢献度。
給与が20万で売り上げが5万だった場合
5/20=0.25→25%の貢献度
100%以上の貢献度は高評価。
なぜなら自分の給与を自分で稼いでいるから。そのキャストが付いたフリーの客や場内指名の客が使ったお金は店の取り分と見なせる。
逆に60%を下回るキャストは、口には出さないが給料泥棒のレッテルを貼られる。
計算高いキャストは楽をしつつ、しっかりと自分の給与を確保するような行動に出やすいためこのような数字を出すようにした。
また、キャストには公表していない裏基準として基本的に
時給4500円以上がAランク
時給3000円以上がBランク
時給2500円以上がCランク
それ以下がDランク。と言ってもうちの店の最低時給が2400円。なので1人も指名客がいない人数合わせのキャスト。
Bランクの時給幅が一番大きいために大半のキャストがこのランクに属するが、3000円のキャストと4400円のキャストでは全く意識は違う。
海斗の担当は上位から順に
杏奈、リン、咲、美香、つかさ、真紀、サラ
の計7名。
杏奈さんは時給6000円代。貢献度130%を越える。これを下回ることはほとんどない。
リンさんは保証期間半月、保証時給は4200円だった。保証期間が切れてから1ヶ月程は時給3000円代だったが、その後は時給5000円、貢献度98%
咲さんの場合は未経験で入ってきたため時給3000円2ヶ月を設定した。その期間中にしっかりと場内指名をとり、少しづつ本指名へ繋げていけたので保証が切れても時給が下がることはなかった。今では時給4000円、貢献度105% で働いている。
美香さんは長い本指名客が3人。
そこから少しづつ新規の指名客が増えてきている。海斗が担当するまでギリギリBランクだったがいまは時給3500円、貢献度85%まで上げてきた。
つかささん、真紀さんは共にギリギリ時給3000のラインにいつもいるが、つかささんの貢献度88%、真紀さんの貢献度62%となっている。
これは二人とも同じような成績でも真紀さんよりつかささんの方が勤務時間が短い為、つかささんの方が高い貢献度となる。
そして海斗の担当ではないが、断トツNo.1の理子さんは時給9000円超え、貢献度200%越えの月もある。理子さんは各種バックを合わせると月収80〜100万程になるはず。
貢献度を張り出すようになってからBランク以上のキャストがその表をよく見るようになった。今まではポイントでしか見た目の基準がわからなかったが、同じ時給のキャストでも優劣がハッキリする為、Bランクの中での競争意識が芽生えた。また、いかにして売り上げは出さずに自分の給与を多くもらおうかとかセコい考えのキャストを明るみに出すことによってそのような働き方を抑止する効果も出た。
しかしデメリットもある。
少し頭のいいキャストなら指名売上金と貢献度から計算し、誰がどのくらいの給与をもらっているのか詳しく分かってしまうこと。
もう一つのデメリットは細い客を沢山抱えるキャストの貢献度が上がりづらいことである。
リンさんがその筆頭で最近はそのことについてのミーティングが多い。
「海斗さん、どうしてリンの貢献度が上がらんと?」
「リンさんの場合はサラリーマンタイプが多いから客単価が高くないんだよね」
「どうしたらいいとね?」
「うん。このままで大丈夫。多分今月末には予想外の展開になってるはず。気持ちを切らさないでほしい」
「そう言われても、不安ちゃけん。なして海斗さんばそう思うと?」
「12月の最初はボーナス時期、その後は忘年会シーズンの2つの波があるんだよ。サラリーマンの来店が増える。初旬のうちに忘年会の話題も盛り込んでごらん。二次会とかで来るときは大人数だったりするからその指名売り上げはかなりの金額だよ。実は今月はリンさんチャンスだから、そのことを忘れないで」
「でも、ウチの店高いやろ、使ってくれっちゃろか」
「うん、その為には接待でもリンさんがいれば安心して利用できるって思わせるのも大事」
「具体的にどうすると?」
「例えば、接待の時は同伴からついて行ってリンさんが指名客ではなく、接待相手の方に付くのも手だよね。要はリンさんと本指名のお客さんで接待相手を挟む。仲が良い子を自分の本指名の方に場内してもらって盛り上げるのもいいかもしれない。接待の時ってリンさんの本指名のお客さんは自分が楽しむ事は二の次だからちゃんとその辺を汲み取ってあげる。その接待相手を帰した後に、またその本指名客が飲み直しで戻ってきてくれたら大成功。そこで反省会的な話題で盛り上がれる」
「だけん、接待っちゃゆーても、持っていき方がわからんとよ」
「普段からビジネスパートナーとなれる関係性を指名客と作り上げること。事前にどんな人と飲みに来るのかを確認して店側にどのくらいサービス出来るか聞いて、それを客にあらかじめ伝えるとか。今日はいくらくらい使えるのか予想する。後輩と来てるのであればその指名客が多く出すはずたから、さりげなくドリンクをボトル飲みにするとか、普段使える金額を把握しといてその範囲内でどうやって派手な飲み方をしているように演出出来るか。いい顔をさせてあげれるか。また仲の良い友達どうして来るときは色恋営業に切り替えて甘えてみる。ビジネスマンはビジネスパートナーには義理堅い。普段しっかりと役割をこなしてくれていれば、たまに甘えてきた時はそれに応えようと思ってくれる。その時にシャンパンなどのおねだりをするんだよ」
「使い分けね。ウチ、頭悪いけん、できるやろーか。海斗さんもそうおもっとーね?」
「りんさんは賢いから大丈夫だと思うよ。今の話も理解できたでしょう?じゃあ具体的に今の指名客と場内もらった客の分かっている情報教えてくれる?一緒に考えよう」
そうして海斗はキャストノートに書き込んでいく。
海斗はリンさんの営業方針は間違っていないと思っている。派手な売り上げだけが評価されがちだが、そういったお客は気まぐれ。それより、ビジネスマンに気に入られらるようにすると、色恋に関係なく長く店を使ってもらえるようになる。ただ、指名客数が多いと日々のケアは大変になるので、その辺のストレスは心配ではあるが。
そして最近入ったサラさんは未だ保証期間中で時給2800円固定。なので現段階では売り上げやポイントは関係ない。
今は接客を重ねて慣れる期間。海斗もどんなお客さんに強いのか見極めている最中。
この業界、特徴がないのが一番困る。無難でいい子じゃ売れない。早く担当を困らせられるぐらいにならないと、爆発的な覚醒は期待できない事が最近海斗もわかってきた。それでも保証明け後に早めにBランクに入ってもらわないと海斗の責任問題になる。
保証期間とは期間を決めて比較的高めの固定時給で働いてもらう制度。
期間は無し〜3ヶ月。
出勤日数が少ない子は比較的長めに設定してあげる。
ただ、この保証期間を勘違いしているキャストが実に多い。
入ったばかりは保証が当たり前と思っている。
入店時に保証期間を長めにして欲しいと言ってくるキャストはそれだけで黒服の評価が下がる。
出来る子は半月もいらないと言う。なぜならそれだけ自信があるということ。
自分の頑張り次第でいくらでも稼げるチャンスを固定時給で働くなんて考えられないと思う子は期待出来る。
でもそんなキャストはほんの一握り。大体のキャストは楽してそこそこ稼げればそれでいいと思っている。
この業界が3ヶ月単位で店を変える子が多いのもそれが原因。
保証が切れると最低時給からスタートになり、キャストによっては時給が2/3以下になってしまう。そうなるとモチベーションが下がるし、他で働けばまた高額な保証時給で雇ってもらえるがわかっている。そうやって店を転々とし、街を転々としているうちにキャストの旬はあっという間に過ぎ去っていく。
この業界の旬は短い。18〜24歳くらいまで。それ以上はよっぽどのスキルや美貌がない限りキャバクラでその心構えで売れていくのは難しい。それでもこの業界にしがみつくのであれば、待っているのは熟女パブか場末のスナック行き。そしてあの頃は良かったとか、私は都内で働いていたとかのたまうのである。
今のところニューアクトレス内でそのような低い意識のキャストは2割ほど。西野さんや秋山さんとサークル感覚で働いている。そういうキャストに限って、やる事やらずに理不尽な要求をしてくることが多い。そんな時、適当にあしらう西野さんは担当としては適役であった。
そうして上位キャストは店から逃がさないように増田さん、坂東さん、海斗の3人でガッチリと固め、下位キャストが辞めたり新しく入ったりと流動的に人が入れ替わる事である程度の店の新鮮味を保っている。
そして12月は売り上げ快調。12月上半期TOP7は
理子、杏奈、モエ、リン、ミリオ、楓、咲
何と咲さんがTOP7に初めて食い込んだ。未経験から始めて約半年。この店は比較的キャリアを積んだキャストが多い為、かなりの快挙だと増田さんからも言われた。そしてまだまだ素材だけでここまで上げてきている感も強い為、今後スキルを身につけたら凄いことになりそうだとも。
絶対に潰すなと厳命されたが、正直このままで良いのか不安な海斗であった。
そして12月のメインイベント「Xmas」がやってきた。




