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スカウト活動

結衣菜さんの事件から約1ヶ月。

あの後、結衣菜さんは病気の為に、遠い実家に帰った事にした。

最初、結衣菜さんとそこそこ仲の良いキャストは心配していたが、元々入れ替わりが激しい業界。1ヶ月もすればみんな気にしなくなった。

ただ、一番仲の良かった杏奈さんだけは、結衣菜さんが近くで実家暮らしの事実も知っていたし、急に連絡が取れなくなった事も重なり、店側が嘘をついていることは見抜かれていた。

増田さんからそれとなく「働けなくなった事情がある。年齢が関係してる」と言われれば、杏奈さんも歳を偽って働いていた過去があるのか察した様子。以後、深く聞いてくる事は無かった。

それでもたまに海斗とのミーティング中に結衣菜が居なくなって寂しいと溢すこともあったが。


海斗の担当キャストはこれで

杏奈、リン、咲、美香、つかさ、真紀

の6人となった。



そしてこの頃から海斗は優矢君と休みの日に一緒に遊んだり、営業終了後に飲みに行く機会が増えた。そして優矢君がなぜこんなにも女の子の知り合いが多いのか分かった。

まず、色々な場所によく行く。

そしてその場所で一番の中心人物と仲良くなるのが早い。

その人のテリトリーを横取りせずに華を添えるような立ち位置に常にいる。その周りに男女問わず集まってくる。

そして面白そうな話があるとその人とその場所に出かける。そしてまたその場所での中心人物と仲良くなる。

要は優矢君は男の人と話すのが抜群に上手い。最初はひたすら男とばかり話していてたまに女の子を会話に入れる。そこから女の子と会話する比重を増やしていく。

また、女の子のばかり相手にモテようと必死な男とも気さくに会話が出来る。

だからそういう男は優矢君をダシに使うがそれも気にしていない様子。

優矢君はいつも男も女も関係なく『人と話してる』、そんな感じ。


だから優矢君のスカウト活動は変わっている。

街中での通常のスカウト2割。クラブで遊んでるうちに仲良くなるのが3割。友達の友達で仲良くなるのは4割。その他1割。


その日は『その他の1割』の部類のスカウトにたまたま海斗も同行することとなった。


優矢君の悪い知り合いの人の依頼で、大手企業が主催する大学生向けの新商品説明会と言うものに一緒に行かないかと言われた。

大学生の中で流行っているという企業側のステマの為に優矢君はサクラとして参加するらしい。

行くだけで交通費+1万円がもらえると言うことで日曜日で店が休みだった海斗も行くことにした。


場所は六本木にあるテレビ局が入っているビル。

そこそこ有名なおバカカリスマモデルと共に何かをするらしい。

まぁ、結局やる事はその企業の商品を手に持って掲げている写真を撮るPR撮影だった。


だけど、そこに集まっていた若い子の中で一番の美人と仲良くなってしまう優矢君。そこにいたおバカタレントよりもぶっちゃけ可愛かった。

話すきっかけは待ち時間に


「誰に頼まれてきたの?」


だった。しかもその子だけじゃなく、隣にいた男の子にも話しかけている。

そこから「どこから来たの」→「どこの学生」→「これって本当に流行ると思う?」


とかその周辺の5人くらいを巻き込んで会話してる。そして段々とその輪が広がっていく。

その様子を見ていた企業側のプロデューサーが急遽予定を変更。

その輪にそのおバカタレントをぶっこんでみんなでそれを使って楽しんでいる風な写真を撮ることとなった。

結果、後日その写真が雑誌に載ったり商品のポスターになっていた。


帰り際、そのプロデューサーから名刺を渡されている優矢君。そうしてまた一つ人脈を広げていた。

そして帰りはその美人と仲良く帰っていった。


その様子をビルの前でポカーンと見送る海斗。不意に服を少しだけ引っ張られた。

振り向くとそこには先ほどの撮影の時の輪の中にいた女の子の1人で、名前はサラちゃん。ずっと海斗の近くにいて結構話していた。

身長は小さくてアゴが若干尖っているけど、目鼻立ちのハッキリした少しだけハーフぽい顔立ち。


「あ、サラさん。さっきは楽しかったね。あれ?一緒にいた友達は?」

「あ、さっき別れたー。海斗くんこれから予定ある?遊びいきたい」

「いーよー。どこ行こっか。とりあえず渋谷まで行く?」

「うん!でも私あんまり渋谷行ったことない」

「そっかー。じゃあ適当に街を回ろっか」


そうして電車で渋谷へ向かう途中で色々聞いた。

サラさんは福島から出てきて1人暮らしをしながら、池袋の近くにある大学に通う2年生で同い年の二十歳だった。

よく行く街は池袋らしくあまり渋谷へは来ないらしい。元々、東京の人間じゃないから行動範囲が狭くて、普段は自分が分かるところしか行かないみたい。

今日も大学の友達に連れられてきたのだが、その後その友達は予定があるらしく別行動に。六本木は初めてで1人じゃ不安だったけれど、友達にバカにされそうで言えなかったようだ。そこに海斗が立っていて藁をもすがる気持ちで海斗の服を掴んだらしい。


「女の子同士だとそういう強がりとか出ちゃうのかな?」

「何か、田舎から出てきてるからバカにされるんじゃないかって思っちゃう」

「へー、でも俺、ずっと東京いるけど知らない街とか一杯あるよ。代官山とか広尾とかわからないし。俺が働いてる街でもたまに迷うもん。もう10ヶ月以上経つのに」

「え?海斗くん大学生じゃないの?」

「うん。今年の1月に辞めて今働いてる」

「そーなんだー。どうりで大人っぽいと思ったんだよね」

「まぁ、老け顏だからね」

「あはは、老け顏って。今は何してるの?」

「キャバクラで働いてるよ」

「へー、ボーイさんなんだ。あんまりそう見えないね」

「うん、よく言われる。キャストさんかと思ったって」

「そっち?あはは、ないでしょ。あ、でも化粧したら綺麗になりそう。肌キレイだし」

「俺の2丁目デビューも近いかも。会話の間に『どんだけー』って挟むようになったら察してそっとしといてね」

「あはは、分かった」



渋谷へ到着し、適当にぶらぶらして目に付いた雑貨屋さんに寄る。海斗が家の玄関に置く丸いガラスケースに入った小さなサボテンをサラさんも一緒に選んでくれた。そしてサラさんもそのサボテンを気に入り、同じような物を2個購入し、1つをサラさんにあげた。

その後、アジアンダイニングの店で夕食を食べている時の会話の流れでサラさんは居酒屋しか行ったことがないとの事。

なので、海斗がよく行くBARに連れて行くことにした。


「海斗くんってこういうところよく行くんだ」

「んー、たまにね。ウチの店のお酒は高すぎて手が出せないから、こういう店でショットで飲んだりして味を確かめてる。サラちゃんはお酒強い?」

「んー、まあまあかな」

「じゃあシャンパン頼んでいい?うちでよく出るんだけど、俺もあんまり飲んだことなくてさ」

「ドンペリとか?」

「んーと、ヴーピン」

「ぶーぴん?」

「ヴーヴクリコのピンク。ローズラベルって言うらしい。ピンドンより安いけど、ドンペリより美味しいってみんな言うから、飲んでみようと思って。値段も手頃だし」

「ふーん、って。ちょ、高くない?2万円以上するよー?」

「シャンパンでこのくらいなら安いんじゃない?うちの店だとその倍以上するし」

「えっと、あのー」

「あー、お金とか気にしないで。俺が飲んでみたいだけだから。一人だったり、男同士だと頼みづらいし、家で飲んでもあまり勉強にならないしね。本当に今日サラちゃんいてくれてよかったよ」

「…、海斗くんって彼女いないの?」

「うん。仕事が忙しくて出会いがないよ」

「えー、だってお店に女の子が一杯いるでしょ?」

「だってキャストさんは女優さんだから。俺たちはADみたいなもんだし。ADと付き合う女優さんなんてあんまり聞いたことなくない?」

「そっかぁ。そうなんだ。何かそう言うウワサをよく聞くから、結構あるのかと思ってた」

「んー、ない事はないんじゃないかな?ホントはダメだけどね。キャストと付き合うと風紀っていって罰金取られるから。でも店長以上のクラスになるとお金もあるしね。キャストさんは基本お金持ちが好きだよ。お金が好きって言うより、自分とお金の価値観が合わないと付きあっていくのが大変だと思うもん。だから結果的にお金持ちと付き合う事が多いんじゃないかなぁ」


そんな会話をしているとシャンパンが運ばれてきた。

海斗はバーテンダーの手つきをじっくりと見て、一つ一つの動作を観察する。

ボトルの開け方、グラスへの注ぎ方、その時の姿勢、お客さんの前へ持っていき方、シャンパンクーラーへのボトルの置き方。手の動きや位置。どうすれば滑らかに見えるのか、綺麗に美しく見えるのか。また、この様な場所で飲みたいと思わせるのか。

海斗はこの時ばかりはサラさんの存在を忘れて集中していた。


同じように固まっているサラさんに気付き、海斗はにこやかに笑い、目の前のグラスを手に取り乾杯をする。


そしてグラスにシャンパンがなくなるタイミングでスッと注ぎにくる店員。

素早く注ぎ、そして会話のタイミングさえも考えて、客の前に置く。

小さなアイコンタクトや手振りのみで明確な意図を客に伝え、サービスを行う。

やはり、この店でシャンパンを頼んで良かったと海斗は思った。



気づけばサラさんと渋谷に来て4時間程経っていた。

お互いの連絡先を交換しその日はそれで別れた。


その後、サラさんと何度か会い、海斗が仕事の話をたまにするうちに、サラさんの方から働きたいと言ってきた。海斗は気になることを聞いてみた。


「なんで働きたいと思ったの?」

「海斗くんが同い年とは思えなかったから。だって話す事、行く所、価値観、行動や言動が大学の人と全然違うんだもん。私もそうなりたい」

「そっか。だけど、接客は大変だよ。酔っ払いを延々相手にしなきゃいけないんだよ?」

「海斗くんに言ってなかったけど私、3回だけキャバクラに体験入店したことあるんだ。その時は軽いお小遣い稼ぎのつもりだった。だけど海斗くんと一緒にちゃんと働いてみたいと思ったの」

「そっか、ありがとう。じゃぁ、最初から頑張ろうとすると大変だから、慣れるまでは無理しなくて良いからね。徐々にちゃんと稼げるように教えていくから」


「よろしくお願いします」


こうして11月の終わりにサラさんがニューアクトレスの一員に加わり、スカウトした海斗がそのままサラさんの担当となった。


そして年末のボーナス期に突入していった。




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