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衝撃の事実

平日の営業が終わり、いつものようにカウンター席で海斗と優矢君が座りくつろいでいた。

その時、優矢くんにこれから飲みに行かないかと誘われた。帰っても何も予定のない海斗は二つ返事で了承した。

ただ、店の近くで飲むときはキャストがアフターで使いそうな店やプライベートで使いそうな店は避けなければならない。

優矢君は携帯で幾つかの店に電話をしそこのマスターにうちのキャストが来てないか確認する。

店の近隣には夜の住人達の行きつけの店が何軒かある。どんな店が行きつけになるかというと個人経営の店で閉店時間がアバウトな店。店側も深夜帯の売り上げに夜の住人達をメインターゲットにしている事が多く、客同士が知り合いな場合がほとんど。そこで色々な情報交換がなされる事も多い。


とある串焼き屋さんにはキャストが来ていないとの事でそこに行くことになった。

この店は先日のバーベキューにも食材を提供してくれたほど、店との繋がりが深く時間を気にせず飲むことが出来る。

海斗はある事が気になっていたので優矢君に提案する。


「山田君も連れてってもいいかな?」

「イイっすよ〜、海斗さんが考えてるコト、なんとなくわかります」

「うん。多分合ってる。ちょっと伝えてくるね」

「じゃあ、俺は先に行って待ってます」


そうして海斗は山田君を誘って串焼き屋へ向かった。


その串焼き屋はカウンター席が10席にテーブル席が4席ほどのこじんまりとした店。

先日のバーベキューに来ていたマスターは海斗と山田君を覚えていてくれたらしく、にこやかに招いてくれた。

優矢君はカウンター席で知らない女の人と飲んでいた。

海斗達に気付くと自分のグラスを持って空いているテーブル席に勝手に移動し海斗達を手招きした。


「お疲れっす。何飲みます?」

「俺はジンジャーハイボール。山田君は?」

「えーと、梅酒ソーダってありますかね?」

「多分あるよー。待ってて」


そしておもむろにカウンターの中に入っていく優矢君。

勝手にジョッキで海斗達のドリンクを作り始める。途中でカウンターの別のお客さんとも会話をして、まるで自分の店のよう。

そして何事もなかったかのようにジョッキを持ってテーブル席に帰ってくる。


「じゃ、カンパーイ」

「イヤイヤイヤ、おかしくない?ココってドリンクはセルフサービス?」

「んー、違うんすけど、俺、高校生の時からよく手伝ってたから、これが普通になっちゃった」

「優矢さんって昔からこの辺にいるんですよね。街中に知り合いが居そうですね」


そう言って羨望の眼差しを向ける山田君。


「この街って結構横の繋がりが深くって居心地いいよ。山田君もどんどん飲み行けば直ぐにそこらじゅう知り合いだらけになるよ」

「そうなんですね。でもきっと俺には難しいと思います。元々引きこもりだったので」

「そうだったんだ。じゃぁ良かったね〜。家から出れるようになって。今は楽しいんじゃない?」


結構な山田君のカミングアウトをさらっと受け流す優矢君。


「そうですね。大変な事もありますけど、学生時代より全然いいです」

「学生の時って何があったの?」

「はい。めちゃくちゃいじめられてました。元々あまり人とコミュニケーション取るのが上手くはないんで。結局高校も途中でやめてしまいました」

「まぁ、過去は過去。今はもう関係ないしね。それに仕事にしてもお手本が近くにいるから参考になるでしょう?」

「はい。海斗さん見てるとすごく勉強になります。」

「お、俺が?いや、それを言うなら優矢君や増田さんや坂東さんでしょ。あの人達の周りにいると何かワクワクするじゃん。コミュニケーションの取り方も上手いし。俺はそういう人に憧れんだけど」

「そこは俺も憧れるんですけど、海斗さんの落ち着いてて、信頼感もあって、向上心を持って課題をこなしていく姿は俺が目指したい方向性なんですよね」


優矢君はニヤニヤしながら海斗を見る。


「海斗さんは夏頃から変わりましたからね〜。でも元々、内に秘めていたものを表すようになっただけなのかな」


「買いかぶりすぎだって。担当キャストが出来る前は自分の仕事をこなしていればそれでイイと思ってたし。でもそれ以降は店全体の環境や営業内容をよくしていかなければ担当の売り上げは上がっていかないしね。それを淡々とこなしてても伝わらないから色んな感情を意識して表現する様にしてる。元々がつまらない人間なのは自分が一番わかってるから」


そんな会話をしていると、ジョッキが空になり、優矢君はまたドリンクを作りに行った。

しばし山田君と二人での会話となる。


「山田君はさ、信頼できるよ。俺もまだ人にどうこう言える立場じゃないけど、山田君のスキルはまだ他のボーイに及ばない所もある。だけど一生懸命なのは見ててわかるから、焦らず出来ることを増やしていこう」


「はい。ただ、色々と悩むこともあって。正直、開店準備とか俺ばっかりなんですよね。忙しくなると秋山さんが不機嫌になって口調が荒くなるんですよ。そうすると顔色を伺いながら仕事するので気を遣います」


「俺もちょっと気になってた。俺なりに色々と解決出来ることはやっていくからさ。たまにこうやって不満を言えたりすれば気持ちの切り替えもできるかなって思ったり。だから辛くなる前に気軽に相談して」


「あ、やっぱり今日誘ってもらったのはそういう事だったんですね。ありがとうございます。実は馴染めてなくて不安だったんです。場違いなところで働いてるのはわかってるので、こんな風に扱われるのも仕方ないのかなって」


その時、優矢君がジョッキを持って戻ってきて言う。


「山田君。海斗さんはね、実は山田君達が入ってくるまで今のボーイ3人がやっている事を全てほぼ一人でやってたんだよ。西野さんに押し付けられてる所もあったけど、淡々とこなしてたよ。しかも全然今より徹底的にするもんだからそのうち西野さんのやることが何もなくなっててね。あっという間に西野さんを追い抜いてったよ。だから俺も坂東さんも海斗さんが今の役職にいることについて全く異論がないんだよ。それに兄貴は能力主義を地で行く人間なんだ。口ではそう言いつつ中々そうできない人が多い中でね」


「ちょ、そんなに出来る奴みたいに言わないでよ。何か明日からプレッシャーだなぁ」


海斗はおどけつつも優矢君にそう評価されていた事が嬉しかった。自分が心から尊敬できる人からそう言われる経験は今まで感じたことがなかったから。そんな風に思っていると山田君が聞いてきた。


「海斗さんはボーイの時はモチベーションとか、大変だなって思う時はどうやって乗り切ってました?」


「俺?んー、何も考えてなかったけど。同じ立場の人間がいなかったからこれが普通なのかなって。でも、今考えれば増田さんからボーイの心得的な事をかなりレクチャーされたかも。そう言えば増田さんと話す時間は入った時から多かったな。一つ一つの作業がどう繋がっていくか、何のためにこの作業が必要かって意味を教えてもらったり。自分がどこかで食事をする時に感じのいい店、悪い店の違いは何かとか。あ、そっか、今度はそれを俺がボーイに伝えていかなきゃいけない立場になったんだなぁ」


そして増田さんから教わったことを自分の経験も交えて山田君に伝えた。

山田君は真摯にそれを受け止めてくれた。


その間、優矢君は席を転々とし、お店の他のお客さんやマスター、新しく入店してきたお客さんと喋っていた。それでも海斗達の飲み物がなくなるとすかさずドリンクを持ってきたり、料理を適当に選んで持ってきてくれる。


朝の7時になり、明日も仕事だからと帰ることにした。優矢君はまだ残るらしかったので、先に帰る事を告げて会計をしようとする。


「いくらかな?」

「んー、一人2000円くらいでいいんじゃないすかね?マスター!それでいいよね?」


カウンター内のマスターに確認を取る優矢君。

「おう、優矢に任せるわ」

そう適当に答えるマスター。

ドリンクをジョッキで1人4杯と結構なボリュームの料理が運ばれて来ていた為、どう考えても一人2000円は安すぎる。


「いや、ちゃんと払いますよ」

「いいのいいの、足りない分は優矢に皿洗いさせっから。またちょくちょく顔だしてくれな」

「だってさ」


そう言って笑う優矢君とマスター。

申し訳ないと思ったが、今日は優矢君に甘える事にする。山田君の分と合わせて5千円を海斗がまとめて払い店を出た。

山田君が財布を出したので手で制して止める。


「俺が誘ったんだし、一応俺が上司だからね」

「でも色々と話を聞いてもらったのは俺の方なんで」

「じゃぁ、その分仕事で助けてくれればいいから」

「…はい。ありがとうございます。ごちそうさまでした」

「明日もよろしくねー」


そうして山田君とも別れて家路につく。

ちょうど駅構内は出勤ラッシュの時間帯。会社へ向かうサラリーマンとは逆方向に酔っ払った海斗が歩く。

ただ、繁華街から住宅街へ向かう電車内は比較的空いていたので助かった。


海斗の自宅がある最寄りの駅に着くとまたまた会社員や学生で溢れかえっていた。

スイカをタッチし改札を抜けた時に見覚えのある人と目が合った。お互い数秒間、固まる。




そこには女子高生姿の結衣菜さんがいた。






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