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担当替え

杏奈さんブチ切れ事件から2ヶ月。


その後、杏奈さんは店を辞める事はなかった。逆にそれまで溜まっていた不満を吐き出せたことが良かったのか何か吹っ切れたかのように接客に集中出来るようになった。

また、スランプ気味だった楓さんも徐々に成績を戻していった。


そして10月となり、秋を迎え気温が下がると共にニューアクトレスの売り上げは夏に比べ緩やかに下降していった。

ただ、この夏が異常なほどの売り上げだっただけで今の状況が悪いわけではない。

これからまた、年末の冬の繁忙期に向けて店の方針と戦略をこの時期から固めていかなければならない。

そしていくつかの出来事が起こる。


一つ大きな事としては先月の9月初めから西野さんの担当キャストが変わってCランク以下のキャストの管理のみとなった。

本来であれば平社員に降格となった時点でキャスト管理業務も出来ないのだが、増田さんはしばらくそのままにしていた。

その理由はいくつかあったらしい。


一つは西野さんのモチベーションの低下。

担当キャストを持つと指名売り上げの5%が給料に上乗せされる。

杏奈さん、ミリオさんの売り上げだけで130万、その他の担当キャストも含めると約200万の売り上げが夏まではあり西野さんの取り分はそれだけで10万円ほどあった。要は基本給が22万+10万の32万円の給料が一気に22万円のみになってしまう。

しかし、杏奈さんの一件以来、他のキャストからも担当として何もしてくれないとのクレームが入った。

そのため担当替えとなり、西野さんは坂東さんと海斗の担当から漏れたCランク以下のキャストの出確管理だけ。ただ、それでも月1〜2万円の管理手当が付いているみたい。


もう一つの理由としては海斗の負担を懸念していた。しかし、しっかりと担当キャストの成績が伸びていて、課題も明確にしながらキャストのスキルを上げていく手腕を見て増田さんはもう少し人数を増やす決断をしたらしい。新しく杏奈さん、美香さん、つかささん、真紀さんの4人が増えた。


今の海斗の担当キャストは

Aランク

杏奈さん、リンさん


Bランク

咲さん、結衣菜さん、美香さん、つかささん、真紀さん


の計7人となった。

9月の7人の合計売り上げ金額は約300万だったので海斗の給料は

基本給22万+役職手当2万+管理手当約15万で約39万円。そこから10%税金が引かれ手取りが35万円くらいまで上がった。

しかし、一度でも海斗が遅刻、当欠をすれば管理手当は吹き飛ぶ。幸い海斗は今の所、無遅刻無欠勤が続いている。



そしてボーイの中でも変化があった。

まず、秋山さんと西野さんが仲良くなった。

秋山さんは海斗より年上の24歳。西野さんと同い年で、他店でボーイの経験があった。早くキャスト管理をしたいらしく西野さんから色々と聞いている。西野さんと社長の関係性を知り彼の中でも考えがあるのかもしれない。それに元々性格が西野さんと似ているところがあり、開店準備や地味な作業は好きではない。見た目的にカッコよく映る作業が好きなようで無駄にアイス交換をしたり、西野さんと一緒にキャストと世間話をしている姿が見受けられる。


それから山田君。19歳と若くまた未経験で入ってきた。そのせいで西野さん、秋山さんから仕事を押し付けられている場面をちょくちょく見かける。その度に海斗が分担して作業するように促すのだが、常に見ていられる訳でもなく、海斗がその二人より年下のため真剣に指示を守ってくれない。

それでも山田君は黙々と仕事をこなしていく性格のため、海斗も雑務に関しては信頼しているし、常に気にかけている。


そして西野さん。給料が下がってもあまり変化はなかった。ふて腐れる事もなく、かと言って頑張るわけでもなく、何事もなく仕事をしている。相変わらず自分が出来ることを秋山さんや山田君に楽しそうにレクチャーしている。そして結局この人は誰を担当しようが成績を上げる管理が出来ない事もわかった。だからこそ増田さんは丁度いいと言っていた。増田さん曰くCランク以下のキャストに成績は求めていない。底辺を底上げするなら上を更に伸ばしていくことの方がよっぽど効率的なのだという。


それは海斗が9月に増田さんから担当替えを言い渡された日に話し合った時のこと。


「じゃあ今日から担当キャストが増えるがよろしくな」

「はい。まだ、美香さん、つかささん、真紀さんの情報が少ないので、ミーティングを多めにしたいと思います」

「んー、ちょっと待て。杏奈、リン、咲の方を重点的に頼む。他は余裕があるときでいい」

「え?何でですか?」

「いいか、ここは能力主義だと教えたな。それからキャストはみんな愛されたいと思っているって話も以前したよな」

「はい。覚えています」

「だからだよ。ヤル気があってちゃんと成績を残せる奴ほど、担当の黒服が真剣にミーティングをしてくれるって思わせなきゃダメだ。結果を出していないのに結果を出しているキャストと同じ様に扱ってしまったら私は特別だから結果を出さなくても大丈夫とそのキャストに思われるぞ」

「真剣に相談に乗ってくれたからそれに応えようとは思わないんですか?」

「そう思える奴はちゃんと結果が出てるよ。ただ、Bランクでも咲は重点的に面倒を見てやれ。あの子は経験がないだけで、素質やヤル気はAランクと変わらない。他のBランクの4人はちょっと違うだろう」

「そうですね。稼ぐという意識においてはちょっと違いますね」


「そう、そこだ。自分の給料を『稼ぐ奴』と『もらう奴』。その意識の差に黒服の熱意を反映させるんだよ。ところで『働きアリの法則』って知ってるか?」


「働きアリ…ですか。知りません」


「アリの社会ではな2割の全力で働くアリと6割の普通に働くアリと2割の怠けるアリに分かれてるらしいんだ」


「へー、そうなんですか。それが?」


「じゃあその全力で働くアリだけを集めて群れを再構成するとどうなるか。不思議なことに結局また2割のアリが全力で働いて、6割がそこそこ、2割が怠けるんだと。これはつまりアリの社会に限らずどんな組織でもこの事が当てはまるってことらしいんだ」


「何でですかね。それまで全力で働いていたアリが急に怠けるって」


「全力で働いているアリの中にも2種類いるってことだな。どんな環境でも全力で頑張れる奴と、環境が自分に合わなかったり、一緒に働く仲間に左右されると頑張れない奴」


「うーん、高校の時に成績がトップの奴が東大に行ったものの、そこには全国の高校のトップが集まっていて、今まで通りの順位が保てずに挫折してしまうって話を聞いたことがありますね。それと似ているのかな。ちなみに組織の構成比率は変えられないもんなんですか?」

「俺は若干は変えられると思っている。3:5:2とかな。店の中でAランク並の質のキャストが全体の2割いれば現状維持、3割いれば上昇可能、2割を切ったらマズイと俺は思ってる」

「今はどう捉えてるんですか?」

「今はギリギリ2割ってとこだな。あと4人くらいキャストの意識がいい方向に変わってくれれば店の勢いは上がっていくはずだ。また、怠けるキャストも全体の3割以下に抑えておくことも大切になる」


「分かりました。自分の担当だけでなく常に全体のキャストの質も意識していきます」


「基本は最低でも《2:6:2》、良くて《3:5:2》。覚えておいてくれ」


今のニューアクトレスの中で週3日以上の出勤キャストが約40人。その2割だと8人で、3割だと12人。

海斗は頭の中を整理し優先度を確認する。

うちの店の主力キャストは


理子さん、杏奈さん、楓さん、モエさん、ミリオさん、リンさん


ここにどれだけBランクキャストが迫れるかがカギになる。海斗の担当のキャストでAランクキャストが杏奈さん、リンさん。Bランクの筆頭が咲さん。次に結衣菜さんと美香さん。その次につかささん、真紀さん。


まずは上を更に伸ばしていく為に何が必要か。またBランクのキャストがCランク以下に落ちないようにもケアしなくてはならない。


海斗は自分のノートを見つめながら日々この事を念頭に置いてキャスト管理を行っていた。そして一定の効果が出つつあった時、厄介な事件が起こる。


それは本当に偶然の出来事であった。




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