帰り道
開始から4時間ほどでバーベキューが終わり、みんなそれぞれ解散となった。
海斗と若菜は余った大量の食材を持って家路に着いた。
帰りの電車でも若菜はテンションが高いままだった。
「お兄ちゃん、今日は楽しかったね」
「そうだな。そう言ってもらえると連れてきて良かったよ」
「私、大丈夫だった?」
「何が?」
「んーと、ちゃんといい妹出来てたかな?」
「あぁ、みんな褒めてたぞ。でもやっぱり無理してるところもあったんだな」
「無理はしてないよ。だけど昨日いっぱい色々買ってくれたから頑張ろうと思って」
「そうか、ありがとうな。でもみんないい人だっただろ?」
「うん!最初は怖い人かと思ったけど優しかった。洋子さんは特にちょーいい人だった」
若菜は笑顔で嬉しそうに話す。そして悪戯っぽい笑顔で聞いてきた。
「お兄ちゃんはどの女の人がタイプなの?」
「えっ?うーん…」
今日来ていたメンバーを思い出す。
理子さん、楓さん、モエさん、杏奈さん、結衣菜さん、リンさん、咲さん、そして洋子さん。
普段は商品として見るように心がけている。
恋愛的感情を意識的に遮断出来ないと、この仕事は難しい。
ひいき目や恋愛的好意を持って接する事に本人も周りも敏感に反応するキャスト達。なので意識的にそういった感情をコントロールしてきた。
だから急にそんな風に聞かれても答えるのが難しかった。
「今日来てた女の子達はみんな売れっ子だからなぁ。理子さんは綺麗でおしとやかだし、楓さんはノリが良くて話しやすいし、モエさんはほんわかしてて優しいしなぁ。杏奈さんと結衣菜さんはとにかく笑わせてくれるし、リンさんの博多弁は愛嬌があってかわいいし、咲さんは守ってあげたくなるような危なっかしさが小動物ぽくていいんだよな。洋子さんは頼りになるお姉さんって感じで。でも、強いて言えば咲さんかな」
「へー、なんで咲さんなの?」
「んー、咲さんが俺にとっての初めての担当で、俺の仕事にも影響を与えてくれた存在ってのもあるから。だからどちらかというと、同志って感じかな。咲さんが仕事で上手く行った時も、いかなかった時も感情移入の度合いが他のキャストとちょっと違う気がする」
「そうなんだ。私も咲さんがいい。一番話しやすかった。他の人はお姉さんって感じだったけど、咲さんは友達みたいに接してくれたから」
「あー、なるほどね。うん、確かにどんな人にでも謙虚かもな、咲さんは。お客さんの悪口言わないし。我が強いってタイプでもないから話す人に合わせた会話が出来るんだよね」
「ふふふ、お兄ちゃんっていつでも仕事モードなんだね。女性を見る視点が普通と違う」
「そうかも。あの子達はやっぱり女性としては見れないのかもしれない。仕事仲間だからね」
そう誤魔化しつつも内心焦ってしまった。いつからだろう。女性を仕事面の視点からしか見れなくなったのは。
「でも、お兄ちゃん、大学生の時より感じか変わった。今の方がかっこいいよ。前はもっとつまんなそうだったもん。一回でいいからお兄ちゃんの働いてる姿見てみたいなぁ」
さすがにそれは出来ないし、大人になったらねとも言えなかった。
この話題を変えるためにも逆に若菜に聞いてみた。
「じゃぁ若菜は今日いた男の人でかっこいいなって人いた?」
「うーんと、優矢さんと店長さんかな。あんなにかっこいい人見たことない」
「まぁ、そうだよな。きっとこれから先も中々いないと思う。あの二人は別格だよなー。ところで山田君とかは?」
「山田君って誰かなぁ」
「えー?一緒に散歩してたじゃん」
「あー、あの人。んー、あんまり喋ってないからわかんない。背が高かったって印象くらいかな」
…山田君、もっと頑張ろうよ。
それから坂東さんや西野さん、秋山さんの印象も聞いたが、どれも似たような印象だったらしい。
なぜならファッションやネイル、ヘアスタイルなど、キャストさんの方が若菜にとって勉強になったらしく、女性ばかり見てたらしい。
それでも印象に残っている優矢君と増田さんはさすがだと思った。
電車を乗り換え、最寄の駅に着く頃、若菜は海斗に寄りかかりながら寝息を立てていた。
あどけなさの残るその寝顔を見て、これからはもう少しちゃんと接してあげようと思い直す海斗だった。




