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大バーベキュー大会

ここはとある都内近郊の海辺。

怪しく厳つい男達がせっせとクーラーボックスを運んでいる。そして運んだ先には綺麗な女性達。その中に中学生の若菜も混じっていた。




若菜は家のインターホンが鳴り、ドアスコープから覗くと、サングラスの女性が立っていた。

予め海斗に持たされていたキッズ携帯に登録していた番号にかけるとその女性がスマホを手に取り、指をスライドさせているのがドアスコープ越しに見える。その数秒後。


「やほー。若菜ちゃん?洋子だよー。着いたよー」


何とも緊張感のない声が届き、若菜は緊張した声色で応えた。


「あ、初めまして。今ドア開けます」


ガチャリと玄関のドアを開けると、カジュアルな格好で頭にサングラスを乗せた抜群のプロポーションの女性が立っていた。


「こんにちわ!お邪魔します!」

「初めまし…、ええっ?」


その見るからにアクティブそうな綺麗なお姉さんは挨拶を交わす間も無く部屋に入って来た。


「あらー。いいお部屋じゃない。もっと汚くしてるのかと期待したけど、そう言えば海斗君は店内掃除の達人だったわ」


そう言って振り返るお姉さんは、若菜を認めると駆け寄って抱きついてきた。一通り、ぎゅーってすると両手を若菜の肩に置き、まじまじと顔を見る。


「こんにちわ。増田洋子です。ヨロシクね」

「こ、こんにちは。よろしくお願いします」


戸惑いつつも何とか挨拶をした。


「んー。可愛いわねぇ。これは将来有望ね。でも、メイクがもったいないわー」


そう言って洋子さんがチラッと腕時計を見る。つられて若菜もその時計を見るとそこには品の良さそうな可愛い時計がしてあった。


「まだ、時間あるわね。若菜ちゃん、メイクをちょっとやり直してみない?」

「は、はい」


そうして、洋子さんのレクチャーの元、メイクの講義を受けつつ手直しされていく。世間話や学校のことを聞かれながら、30分ほどでメイクが完成しかわいい美少女が誕生した。


「よし、バッチリ!じゃ行こうか」

「はい!」


そして何故かエンジンのかかりっ放しだった車に乗り込むと、かわいいシェルティーと言う犬種の子犬のワンちゃんがお出迎えしてくれて、若菜はその子を抱いたまま海へと出発した。

その間も終始洋子さんのペースに巻き込まれ、昔からの知り合いだったかのような錯覚に陥るくらい打ち解けることができた。



海斗達が海辺に到着すると、海に向かって大きなU字型のビーチパラソルと簡易テーブルで作ったサイトが出来上がっていた。

それに沿って沢山の簡易ベンチと、U字の内側部分に全部で6個のバーベキューセットが並んでいてた。

そこに各店舗の持ち場があり、同じ繁華街の店同士が隣り合うように並んでいる。

ニューアクトレスはU字型の左の先部分が持ち場で隣がレッドローズだった。

増田さんとレッドローズ出身の部長は反目し合っているが、現場の人間同士ではそんなことはない。何故なら増田さんの先輩であるレッドローズの店長は洋子さんにベタ惚れらしく、部長に遠慮しつつも、増田さん達と仲良くしておきたいらしい。ただ、洋子さんはその店長をパシリのように扱っていて会社での立場と普段の立場があべこべ。

それから店舗間の異動もあったりするのでみんなの仲はそれなりにいい。ただ、繁華街自体が違ったりすると中々顔を合わすことが少なくあまり交流がない。なので必然的に3グループ+執行部といった形が出来上がる。例の部長は執行部の方の席にいて、たまにしかこっちに来ないそうなので海斗は少し安心した。


ウチの店からは女性が9人参加していて一番多い。

理子さん、楓さん、モエさん、杏奈さん、

咲さん、結衣菜さん、リンさん

それに洋子さんと妹の若菜。

そして、理子さん、楓さん、洋子さんの3人は店でのキャリアが長いので、執行部の接待要因も兼ねている。これは他の店舗の子達も店を代表するキャストが交代で執行部のサイトへ出向く。

なぜ、キャストではない洋子さんが行くのか疑問だが、執行部内で一番馴染んでいるのですぐに納得した。


男性は増田さん、坂東さん、西野さん、海斗、秋山さん、山田君、それに優矢君を加えると7人の計16人。+洋子さんが連れて来たシェルティー。

他店舗は10人〜15人程の団体だと思うが、そこに業者や、近所の店の人達が混じっているので正確な人数は分からない。

正直、こんなに沢山の人数で何かをする事自体が初めてで誰か誰だか、自分のサイト以外はよく分からない。

若菜は洋子さんのおかげで、後から合流した増田さんと坂東さん以外はアクトレスメンバーとある程度打ち解けていた。

と言うか、積極的に話をしている。若菜のこんな姿を見るのは初めてだった。

どちらかというと内向的だと思っていたから。ずっと海斗の後をついてくるもんだと思っていたのでちょっと拍子抜けした。


そして相変わらず、優矢君はそんな事に関係なく自分の目に付いた場所を適当に行き来していた。まだ始まってもいないのに。




そろそろ始まる時間かと思っていると、サイトの1番離れた場所がにわかに騒がしくなった。

そこには甚平を着た40代の男性とアロハシャツで顎髭を綺麗に揃えた30代の優しそうな男性。そしてその二人を囲むように黒いスーツを着たガタイの良い人達の集団が大きな荷物を持って近づいてきた。

血の気の多いボーイ達が俄かに意気込もうとするが、あまりの迫力と、場違いな空気にその後どうしていいかわからないような感じでいる。

その雰囲気に気付いた優矢君が、


「あ!おっちゃ…、後藤さん!それに松山さん!どうしたの?」


そうして甚平姿の人に近づいていく。

そしてその様子に気付いた執行部の人が立ち上がる。


「おお、優矢君いたか。やっぱりこの集団でしたね。おやっさん」


そうアロハシャツの男が甚平姿の人に声をかける。そして優矢君が近づいていくと、


「これ、少ないが差し入れだ」


そう言って白い箱を開ける。


「おおー。伊勢海老じゃん。なんで?」


「まぁ、いいから。とりあえず100匹な」


そうして白い箱がどんどん運ばれてくる。

ちょうど執行部の人達が全員サイトから出てきて挨拶をする。


「すいません。お気を使わせてしまったようで…」


その後の見返りの事を危惧する執行部の面々。

それを感じ取った後藤さんが話す。


「これは組は一切関係のない事ですから。聞けば出入りの業者さんもみな持ち寄ってるって話じゃないですか。なので、一応、名目は風俗案内所からの差し入れです。本当は俺もオヤジもそこの優矢に世話になりましたからね。それのお礼ですから。本当に気にしないで下さい」


そう社長に向かって話す。それに気さくな感じで答える社長。


「そっか、橋本の兄さんからか。あとで連絡を入れておくよ。それにしても後藤。お前本当に偉くなったんだな。信じられないよ」

「いや私自身も今だに慣れなくてですね。貫目が足りないのはわかってるんですが、何とかやってます」

「ははは、いや、中々サマになってるぞ。お前の出世のおかげで俺も色々と助かってるから気にしなくて良かったんだぞ」

「いや、私の立場が変わってもこうやって弟の様に可愛がってもらってますから」

「まぁ、ありがとうな。ちょっと飲んでくか?」

「いえ、私はこれで失礼します。本当は前もって届けたかったんですが、なんせ優矢に聞いたのが一昨日の夜なもんで。運ぶのにも人手が必要で悪いと思いつつウチの者を使ってしまいました。従業員の方を驚かせてしまって申し訳ないです」

「いや、気にするなって。ちょっと変わった宅配業者だっただけだろう」


ガハハと笑う社長。その隣には執行部の面々と増田さんとレッドローズの店長が並んでお礼を言っていた。


そうして後藤さん達は帰っていき、優矢君は一緒に車の所まで見送りに行っていた。




今度こそ1人一匹の伊勢海老付き豪華バーベキューパーティが始まった。


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