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優矢くんの秘密 〜約一年前の出来事〜

一度、サイドストーリーの短編として書きましたが、その後の繋がりを考えて本編に移しました。

これは本編より約一年前の出来事です。

増田店長の従兄弟の増田優矢が街で自由にスカウトができる理由が垣間見れます。

 ここはクラブニューアクトレスから歩いて5分ほどのマンション。時間は夜8時を少し過ぎたあたり。初夏の夜風がまだ涼しく感じる季節。


そこに優矢は15歳の時から18歳になった現在まで一人暮らしをしながら高校に通っている。


1階がコンビニになっており、ほぼ毎日利用している。


今日もいつものようにコンビニに入り、お気に入りの「がぶ飲みクリームソーダ」を買おうとしたが品切れであった。


しょうがなく、そのまま出ようと思い、レジ前を通ると、コンビニとこのマンション両方のオーナーの奥さんがレジにいた。



「おばちゃんおはよー」


「あら、こんな時間に来るなんてめずらしいわねぇ。バイトはどうしたの?」


「今日はデートだからねー」


「あら、優矢ちゃんとデートなんて相手の子がうらやましいわね」


「えー、じゃぁ今度ご飯食べにいこーよ」


「またぁ。そーやっておばさんをからかわないの。それに私となんかよりもっと素敵な女性がいっぱいいるじゃない」


「うーん、おばちゃんと話してると落ち着くんだよねー。今度もんじゃ焼き食べいこうね」


「あら、うれしいわ。そうだ、この前、JTの人がタバコの試供品おいてったからあげるわ」


「あ、ラッキー。ありがと。今日はいつものジュースが売り切れてたからちょっとショックだったけど」


「あら、そうだったの。ごめんねぇ。あれってこういう街じゃあんまり売れないから品数を少ししか置いてないのよ」


「うん、気にしないで。ほぼ俺のために仕入れてくれてるの知ってるから」


「ふふふ、明日にはまた入荷するからね」


「うん。じゃぁいってきます」



優矢は待ち合わせ場所の駅前に向かって歩き出した。


コンビニの向かい側には愛車のビッグスクーターが止めてある駐車場。


しかし何やら騒がしい。気になり目をやると、数人の若者がたむろっていた。


優矢は方向を変え、駐車場へ歩いていった。



「なにやってんの?」



先程とは違い、優矢は冷徹な声色へと変わっていた。


人数は5人。揃いの白のダボダボのジャージに黒いバンダナ。その上からでかめのキャップを被った悪ガキ達。


ただ、その顔にはまだ中学生っぽい幼さが残っている者もいた。



「あ?何だテメー・・・」



何かを言いかけた少年の顔が弾ける。


優矢のハイキックが完璧に決まりそのまま仰向けにぶっ倒れた。



「何やってんだって聞いてんだよ。早く答えろ」



もう一度、冷たい口調で優矢が問いただす。


だが、失神する仲間を見て他の少年達は身動きが取れない。


もう半歩、優矢が動こうとした時、慌てて少年の一人が答えた。



「す、すいません。ここで集会するつもりだったんすけど、い、移動します」


「そうか、じゃ、解散。早く散れ」


「は、はい!」



倒れた少年を抱きかかえながら5人は離れていった。



「まったく。今時、流行らねーんだよ」



そう独り言をいい、何事もなかったかのように駅へ向かった。




瑠璃は高ぶる気持ちを落ち着かせるように、グロスを塗りなおす。そしてスマホに目をやり、時間を確認する。


待ち合わせの時間までもう少し。2週間ぶりに優矢が遊んでくれることが嬉しくて昨日はなかなか寝れなかった。


キョロキョロと辺りを見渡してから、今度は巻きおろした髪をさわりチェックする。



「おはよー。待った?」



涼やかな中にも愛嬌のこもった声の方に目を向けると優矢がいた。


黒のジャケットに白いVネックシャツに黒いダメージジーンズ。赤と黒のラインが入ったコンバースの靴。


シンプルな服装なのにものすごくお洒落に見えるのは、日本人離れした足の長さと引き締まった筋肉質な身体。


そして派手すぎないアッシュ系の髪色と、目鼻立ちのはっきりした顔。


少しだけ裾を捲くったジャケットからは前に瑠璃がプレゼントした皮製のブレスレットが浅黒い腕に巻かれている。


今にも抱きついてしまいたい衝動を抑えながら瑠璃は優矢を見上げた。



「今日のその髪、女っぽくていいね」



優矢はそっと瑠璃の巻き髪に触れる。


そのしぐさがあまりにも自然すぎて瑠璃の言葉が詰まる。



「あ、ありがとう」



瑠璃は顔を真っ赤にしながら答えた。


そんな瑠璃のドキドキをよそに普段と変わらない優矢が歩き出す。


慌てて瑠璃もついていく。



「お腹すいたー。何食べる?もんじゃでいい?」


「優矢君ってホントもんじゃ焼き好きだね」


「うん。大好き。俺の半分はもんじゃ焼きでできてるから」


「あはは。それじゃぁ身体半分はドロドロになっちゃうじゃん」


「あ、そうかぁ。じゃぁ俺の血液はもんじゃでできてる。うーん、俺にはもんじゃの血が流れてるって言ったほうがかっこいいな」


「あはははは、まじウケる。血なのかもんじゃなのかはっきりしてよ。それにそれじゃぁなんか高血圧っぽいよ」


「えー、でもあれじゃん、食糧危機が起こったらこうやって吸えばいいし、かなり便利じゃね?」


「ほんっと、優矢君って発想がバカ」


「うん。俺の唯一の取り柄ですから」



その時、アホな事をキメ顔で言う優矢の背中に突然衝撃が走り、優矢は前のめりに転んだ。



「優矢君!!」



瑠璃は慌てて駆け寄り、倒れている優矢を抱きかかえるようにして後ろを振り返る。


そこには10人程の集団がいた。


皆同じような白いジャージ姿の男達。


その先頭にいた男が優矢の背中に向かってドロップキックをしたようだ。


その男はすでに立ち上がりかけていた。


隣にいた男がでかい声でわめいた。



「おい!俺らをなめんじゃねぇぞ!ゴラァ!」



優矢がゆっくりと立ち上がった。


心配そうに瑠璃が声をかける。



「大丈夫?」


「んー、一瞬息止まった。けどもう大丈夫。ちょっと後ろ下がってて。てゆーかそのまま逃げちゃって」



そういって瑠璃を手で後ろへ追いやった。


優矢は男達の方へ向き直る。


さっきより人数が増えている。チームの幹部が合流して仕返しにきたようだ。



「えーと、このチームの頭は誰?」



普段と変わらないトーンでその集団に聞きながら、スタスタとそいつらに向かって歩いていく。


目の前まで歩いていった時、先頭のスキンヘッドの男に胸倉を掴まれた。



「なに余裕ぶっこいてんだ?あぁ!」


「いや、さっきの事は謝るよ、ごめん」


「ごめんじゃねーだろが!」


「ごめんなさい。俺も一発蹴られたし、それに女連れなんだ。許してくんねーかな」


「テメーがおとなしくボコられんなら許してやってもいいぞ」


「じゃぁ、それでいいからさ」



その時、後ろから瑠璃が叫んだ。



「オメーら、ふざけんな!その人に手ぇだしたらどうなるかわかってるんだろうな!」



男共を睨みながら、かわいい顔に似合わないドスの効いたセリフを言い放つ。


優矢は少しだけ首をふり、瑠璃に向かっていう。



「いいから早く行けって。お前まで巻き込むわけにはいかないから」



痺れを切らしたかのようにスキンヘッドの男が優矢に頭突きをかます。



「かっこつけんじゃねえよ、色男!そっちのバカ女もマワしてやっから覚悟しとけ!」



その言葉で集団が一斉に動き出した。その瞬間----------




優矢は胸倉にある手を掴み手首の関節を極め、流れるような足払いで体勢を崩すと、力任せにスキンヘッドの男を向かってくる集団に投げ飛ばした。

そして先程までの涼やかな優矢はどこかへ消えて、獰猛な顔つきの殺気を帯びた優矢がいた。

あまりの豹変振りに一瞬動きが止まる集団。


「マワすだと?この野郎!!ふざけんじゃねぇ!この喧嘩買ってやるからかかって来いボケェ!」



そう言いながらすでに優矢の飛びヒザ蹴りが一人の男の顎を的確に捉えていた。


そのまま集団に突っ込み、もう一人を投げ飛ばす。


が、そこで集団の金縛りが解けたようだ。


後ろから髪を掴まれ、左の裏モモにヒザを入れられる。瞬間的に左足の力が抜ける。


そこに追い討ちをかけるように、こめかみに肘鉄を食らう。


跪いた優矢に向かって容赦なく蹴りが浴びせられるが、一人の男の足を掴みなぎ倒す。


そのまま這い上がり、そいつの顔面に拳をぶち込む。


が、後ろから羽交い絞めにされ、引き剥がされる。強制的に起き上がらされた腹に蹴りが浴びせられ、思わず下を向いてしまい顔に蹴りが入る。


一瞬意識を飛ばしそうになるが、羽交い絞めしているやつの耳を掴んで力任せに引っ張り、力が緩んだ隙に抜け出してから、渾身の拳を振り下ろす。


そいつの歯が折れて吹き飛ぶが、優矢の拳の皮も切り裂かれた。


「次はどいつだ!オラァ!」


優矢は怒迫力で叫び、集団を引き付け、さらに暴れまわる。瑠璃との距離が徐々に離れていく。


その時、遠くからサイレンの音が聞こえてきた。


その音を聞いた集団はお決まりの捨て台詞を吐きながら慌てて走り去っていった。



「通報が遅ぇよ、通行人。それにさっさと逃げなきゃダメだよぉ、瑠璃ちゃん」



そうぼやきながら、優矢は瑠璃を見る。泣きながら駆け寄ってくる瑠璃を見てホっとしていた。





 「優矢も若いねぇ」



そう言いながら楽しそうに優矢の手当てをするおっさん。


ここはクラブニューアクトレスの衣装や備品などが保管してある倉庫兼、呼び込みの人達の待機事務所。この気の良いおっさんは呼び込みの取りまとめ役で名前は後藤忠志。実はヤクザなのだが、あまりその雰囲気を出さない為、優矢も気付いていない。


かろうじて警察から逃げた優矢と瑠璃はひとまずここに逃げ込み、そのまま床に倒れこんだ。その横に瑠璃も座っていた。



「おっちゃん、ごめんね。いきなり来て」


「いいって。こういう非日常はおっちゃん大好きだから。もう街中で噂になってるよ。早く周りにしゃべりたくてうずうずしてんだから」


「ははは、ホント血の気の多い人達だな。でも助かりました。ありがとう、おっちゃん」


「血の気が多いのは優矢もな。とりあえず増田さんには黙っといたほうがいいんだべ?」


「うん。店関係のトラブルじゃないから言わないで。上の人出てくると面倒だから」


「あいよー。ところでそっちの姉ちゃんは怪我ないの?」


「はい、大丈夫です。優矢君が守ってくれたから」



そう言いながら、血が滲んだ包帯まみれの優矢の手にそっと自分の手を重ねる。



「それより、優矢!何で女の子連れてるときにケンカなんかするんだ!」


「うん。ホント馬鹿だよ。反省してる」


「違うんです。優矢君は穏便に済まそうとしてて、私の事も逃がそうとしてくれて。だけど私がいけないんです」


「いやいや、もとはと言えば俺が撒いた種だから。ホントに巻き込んじゃってごめんね」


「ううん。優矢君ありがとう。かっこよかったよ。それに私がどういう人か知っててちゃんと仲良くしてくれるのって優矢君だけだから」



優矢は優しい目で瑠璃を見つめ、空いている片方の手でそっと瑠璃の頭をなでる。



「瑠璃は一緒にいて楽しいからな。それだけで俺は十分だよ。ちと身体痛いから寝てていい?」


「ゆっくり休んで」


「せっかくのデートだったのにホントごめん」


「もう、そういうのいいから」



おっちゃんは腕組しながら難しい顔をしている。


「優矢はまぁいいとして、瑠璃ちゃんだっけ?悪い奴らに顔見られてるし心配だなぁ」


「あの、私はたぶん大丈夫です。それよりホントあいつらが許せない!」



そう言うとスマホを取り出し誰かに電話をかける。



「もしもし、あたし。今動ける?そう。じゃぁピンキーって風俗案内所わかる?その2階の事務所にすぐ来て。早くね!」



その電話の内容に優矢の顔色が変わる。



「瑠璃、今、誰に電話した?」


「・・・小松崎」


「あーもー、そういうのやめてよ。おおごとにしなくていいから」


「大丈夫。もう優矢君は関係ないから。これは私のけじめなの」


「そんなこといったってさー。俺が北条さんに怒られちゃうよー」


「だめ!だってこのままじゃ優矢君だって危ないじゃん。それに私からちゃんとパパには説明するから大丈夫」



そんなやり取りを聞いていたおっちゃんの表情が変わる。キョロキョロと優矢と瑠璃を交互に見ている。


そうこうしているうちに机に置いてあったシーバーが一段とうるさくなった。


呼び込みの人達がしきりにおっちゃんを呼んでいる。そして内容がすべて一緒だった。



「北条組の小松崎さんの車がピンキーの前に止まりました!」


「ヤバイ人が来てますけど、何かあったんすか!」


「カシラ、大変です。本家の車が止まってます!」


「後藤さん、今日こんな上の人がこの界隈に来るとか聞いてないですけど、どこの店で飲むか情報ありますか!」


「カシラ聞こえますか!小松崎さんってバランタインの30年物以外飲まないんすよね!どっか用意できる店知ってますか!」



外が混乱している様子がシーバーからありありと伝わってくる。まるで何処かの軍隊が攻めてきたかのような慌てようである。


そんな中、おっちゃんはゆっくりとそのシーバーを手に取ると覚悟を決め、ボタンを押して話し始めた。



「後藤より、業務連絡。業務連絡。本家の小松崎さんがピンキーの事務所に来るようだ。各自くれぐれも失礼のないようにきっちり道を空けといてくれ。それから駐禁を切られるようなヘタを打たないよう、必ず車を見張っとけ!松山取れるか?」


「はい。何でしょう」


「事務所までしっかりとご案内してくれ。頼むぞ」


「はい!了解です」



そこでおっちゃんはシーバーの電源を切った。

すでにいつもの気さくなおっちゃんの顔ではなく、完全に裏家業の雰囲気をまとっている。

そしてドアの前まで移動し、直立不動の姿勢で待つ。



扉がノックされ、すぐさま開けられる。


3人の屈強なスーツ姿の男が入ってきた。


おっちゃんは深々とお辞儀をしたまま言葉を口にする。



「ごくろうさまです。橋本組若頭の後藤です。ご無沙汰しております」


「おう、後藤。久しぶりだな。元気か」


「はい。おかげさまでがんばらせていただいております」


「そうか、たまには俺の所にも顔だせよ。酒でも飲もう」


「ありがとうございます。うちのオヤジと今度ご挨拶にいかせていただきます。狭苦しいところで申し訳ありませんが、どうぞこちらへ」




そう言って、真ん中にいた小松崎を事務所のイスへと案内する。


他の二人の組員は扉の前で直立不動でいる。目力だけで人が殺せそうな迫力があった。


小松崎はそのイスに座ることなく、瑠璃の前で胡坐をかいた。



「お嬢さん。何があったんで?」



抑揚のない言葉が場の緊張をさらに張り詰めたものにしていく。


小松崎は優矢を鋭い目つきで一瞬睨む。



「そんな目で優矢君を見ないで。それより、白いジャージの集団知ってる?」


「白いジャージ?さぁよく知りませんが。チーマーってやつですかい?」


「潰してほしいの」


「いやいや、お嬢さん。わがまま言っちゃいけませんよ。大方、この男の仕返しでしょう。そんな事じゃ組は動かせませんよ」


「そう。私、マワされそうになったのに・・・?」



みるみる鬼の形相へと変わっていく小松崎。



「即、潰します!おい!岡田ぁ!」


「はい!」



扉の前にいた男が返事をした。



「今日中に白いジャージ潰して来い!」


「はい!」



そう言って、岡田と呼ばれた男は出て行った。


小松崎はいまだに鬼のような形相のまま立ち上がり、優矢の胸倉を掴むとそのまま片手で優矢を引き上げた。



「お前は何を暢気に寝転がってやがる!お嬢さんを危険な目に合わせたのはお前か?これがどういう事かわかってるのか?あ?」


「そうじゃないの!優矢君は悪くないの!お願い放してあげて」


「そういう訳にはいかんのです!あなたはオヤジの大事な娘さんだ。何かあってからじゃ遅いんですよ!」



瑠璃は必死で小松崎の腕を引っ張っているが人の3倍はあろうかという太い腕はビクともしない。


それでもこれまでの経緯を懸命に説明していた。


強制的に引き上げられ、立たされた優矢ではあったが、丸太のような大男の小松崎に向かって物怖じしないはっきりとした口調で言い放つ。



「そうやって、いつも瑠璃を孤独にさせてるのはあんたがたでしょう。俺はどんなに脅されたって瑠璃を遠ざけたりはしない」



優矢は小松崎から視線を外さず続けて言った。



「それから、これはガキのケンカだ。あいつらにだって瑠璃の素性はばれてない。俺は瑠璃の名前さえ呼んでいない。だけどおおごとにしたらそれだけ素性が広がる可能性があるのがわかんないんすか!そしてまた同年代から恐れられていくのがどんな気持ちか!組のエゴでこれ以上傷つけないであげてください」


「何だと!お嬢が傷つけられそうになったのはお前が原因だろうが!」


「だから瑠璃からあいつ等を遠ざけるために突っ込んだんだよ!遠めで顔がばれないように!それから何が何でもぶっ倒れないって覚悟しておっぱじめたんだ。あんな大通りでケンカしてればすぐに警察がくる。それまで耐えりゃこっちの勝ちだ。今回はそれで終わりだ。瑠璃が狙われるような事はない!」


小松崎はさらに激高し、優矢を掴んだ腕がプルプルと怒りで震えていた。


しかし、一瞬の静寂の後、大きく深呼吸をした小松崎はその手を放した。


そして鬼の形相は影を潜め、今度は冷たく人を射殺すような視線を向ける。


「じゃぁ、お前はこれから先どうやってお嬢さんを守ればいいと思うんだ?」


「別にガキじゃないんだからお守りも何もいらないでしょ。それからあんたらが軽々しく動かないことじゃないでしょうかね。こうやっていちいち動いていたら瑠璃の存在自体が組にとっても弱みになりますよね。付け込まれる要因になるんだったら助けなきゃいいんすよ。この街での夜遊びには多少の危険は付き物でしょう。それで瑠璃自身が怖いと思ったり、誰かに迷惑がかかると思えばやめればいいんですよ。だけどこうやって組が動いてくれるって瑠璃自身も思ってるからいけないんですよ。利害で動く人間が瑠璃の周りには多すぎです。俺は一人の女の子として接していきますけど、そういう友達を増やすためにも組の人間が出張っちゃだめだと思います。瑠璃だって魅力的な子ですもん。友達同士助け合っていく中で友達って増えていくんじゃないですかね」



そう言って優矢は瑠璃を見る。瑠璃は小松崎の腕を掴んだまま、しくしくと泣いていた。


小松崎は少し考え込んだ後、瑠璃の頭をポンポンとなでた。



「お嬢さん、なかなかいいお友達ができたじゃぁないですか」



感慨深げに話しかけると、瑠璃を抱きかかえてイスに座らせた。


そしてまた俺の前に来た。



「若いってのはいいもんだなぁ。お嬢さんをよろしく頼む。これからも友人としてお嬢と接してくれるかい?」



二代目北条組組長が19歳の若造に向かって頭を下げた。その光景を驚愕の表情で見つめるおっちゃん改め橋本組の後藤。


「はい。誰になんと言われようとも今までどおりです。俺は瑠璃の友人です」


小松崎は今までの険しい表情がウソのようにニカっと笑った。



「そいつはありがてぇ。そいじゃぁ、ちょっと歯ぁ食いしばってみろ」



そう、おもむろに小松崎が呟いた瞬間、左ストレートが優矢の顔面にめり込んだ。


優矢は後ろにあった衣装ケースを巻き込みながら吹っ飛んだ。



「俺に一丁前に意見しやがったことはこれで勘弁してやる。お嬢さんの大事なお友達だ。ちゃんと左腕を使って手加減してやったからな。それからオヤジにもこの件は話さない。おい後藤!」


「は、はい!」


今日のことは誰にも話すな。何もなかった。それでいいな」


「はい!もちろんです。今日は光栄にもこの後藤の顔を見に来てくれてありがとうございます。たまたまガキが二人いましたが、小松崎さんには全く関係ないことです」


「っはは、よく分かてるじゃねーか。橋本にもよく伝えとくわ」


「はい!ありがとうございます」


「じゃ、帰るわ」


「はい!下までお見送りします」



嵐が去ったように静けさが事務所に広がる。



「いてててて・・・」



セーラー服とレースクイーンの衣装に埋もれた優矢がゆっくり起き上がる。


そしてイスに座ったまま泣きじゃくっている瑠璃を優しく抱きしめた。



「ひっく・・・、ごめんね。ホントごめんね・・・」


「何も謝ることなんてねーよ」


「私、もう組の人を使うのやめるね。だって優矢君がそばにいてくれたら何もいらない。大好きだよ優矢君」


「うん。ありがとう。ずっと仲良しでいような」




数日後・・・・・・



「おっちゃんっていつの間にそんなに偉くなっちゃったの?」


「おれもようわからん。あの日、小松崎さんは何も報告しなかったらしいんだ。だけど、瑠璃ちゃんが父親である北条の大親分に今まで組の人を勝手に使ってごめんなさいって謝ったらしいんだ。んで経緯が発覚してな。小松崎さんも立場があるし、優矢が俺の下の若い衆だと思ってたらしい。だから小松崎さんが来た次の日、俺とオヤジが本家に呼ばれてよぉ。だけど優矢は組とは関係ない堅気のガキなんでって俺、土下座したんよ。そしたら北条の大親分がその話を気に入ってよ。あの方も昔気質の人だから。んで、その若いのをよくよく面倒見るようにって言われてさ。それに普通ならそのガキ連れて来て改めて詫び入れさせるところを、堅気のガキ守ってお前も偉いじゃないかってな話になっちまってよ。結局、俺の親である橋本のオヤジが北条組の幹部に格上げになって俺も新しく後藤組を作る事が認められたんよ」


「ふーん、おっちゃんありがとな。俺ボッコボコにされるとこだったんたね。その世界はよくわからないけど、おっちゃんもヤクザだったんだねぇ。しかも組長って事でしょ。でも小松崎さんはどっかの若頭じゃん。なんでいきなりおっちゃんのほうが偉くなっちゃうの?」


「おめーはバカか!」



その後、延々と後藤は組織の話をするが優矢が全く理解できない為、紙に書いて説明しだした。


山上大親分   関東侠気会会長 山上 勝


北条親分    関東侠気会幹事長 兼 六代目朝霧一家総長 北条 円司



小松崎さん   関東侠気会理事 兼 六代目朝霧一家若頭 二代目北条組組長 小松崎 真治



山下さん    朝霧一家内 二代目北条組若頭 二代目小松崎組組長 山下 譲



橋本さん     朝霧一家内 二代目北条組若頭補佐 橋本組組長 橋本 誠一



おっちゃん   二代目北条組内 橋本組若頭 後藤組組長 後藤 忠志




「あれ?みんな組長なのに若頭って書いてあるけど、なんなん?」


やっぱり理解できない優矢。



「要はこのおっちゃんこと後藤 忠志が北条組系の中でも上位になったってこったな」


「えー、それってすごくない??それからこの山下さんって誰?」


「おまえなぁ、山下さんは橋本さんの兄貴分にあたる人で、お前なんかが早々お目にかかれる人じゃぁないんだよ。それに小松崎さんはその山下さんの親分にあたるんだぞ。そもそもあの人が組織の中でどんなに偉い人か知らないだろう。北条組のさらに上の朝霧一家のナンバー2。つまりこの近辺の繁華街すべての利権をあの人が握ってるんだぞ」


「うーん。俺、そんな人に意見しちゃったのね。よかった、あの人のパンチよけないで」


がっくりと肩を落とす新組長。この能天気な男が心配であった。心配といえばもうひとつあったことを後藤は思い出し、聞いてみる。



「そういえば、北条親分のお嬢さんとは仲良くやってんのかい。いいか、間違っても変な気は起こすなよ。半端な扱いしたらこの一帯のすべてのヤクザから狙われんぞ!」


「えっと…、セフレとしてもうかなりの回数ヤっちゃってますけど」


盛大に地面に膝を付いて頭を抱える後藤組長。


「よし、今のは聞かなかったことにしよう。うん、おっちゃんは何も知らない。何も聞いてない。頼むからこれ以上俺を巻き込まんでくれよ。タダでさえ、ゆるゆるヤクザだった俺が上がり目になって色々大変なんだから」


「う、うん。でもこれから瑠璃ちゃんココ来るよ。待ち合わせしちゃったし」


「ば、ばっかやろう!早く言えー!!」



おっちゃんは事務所の掃除やらコーヒーのセットを慌ててしはじめる。


優矢はそれを見ながら心の中で呟いた。



(瑠璃ちゃんのア○ルまで開発しちゃったことは内緒にしておこう・・・)



まるで危機感のない優矢であった。



因みにこの界隈では白いジャージを着て歩くとなぜか行方不明になるという噂が立ち、服屋では白いジャージが売れないという現象が続いている。

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