雪中花の季節が過ぎたら
吐いた息が、白く棚引く。
私は、赤くなった鼻先を隠すようにして、マフラーに顔の半分を埋める。
凍えるような冬の寒さに、身を震わせながら雪中花の群生を見遣る。
今朝―――
一緒に暮らし始めたのは、三年程前からか。
いつの間にか、いるのが当たり前にたいになって。
このままでいいのかな・・・。
私は、時々、不安になる。
貴方は、出会った頃とあまり変わらずに優しいけれど、言葉が多い方じゃない。
最近は互いの仕事が忙しくて、あまり二人でいる事が無くなった。
すれ違った生活。
キライになった訳じゃない。ただ、不安になっただけ。
ズルズルとこのままの状態なんだろうか・・・。
そんな事を考えてしまう。
はぁ。
朝の出勤前。
洗面台の鏡を覗き込んだ私は、溜息を零す。
「遅れちゃうから、そろそろ行くね。」
バスルームから、リビングへ移動した私に彼は云った。
「ああ、そうだ。今日、帰り早い?」
「ん。今日は、早く帰れるかな。」
答えた私に、彼は微笑んだ。
「じゃ、七時には、俺も帰ってくるから・・・。」
彼は、パタリと玄関のドアを閉めて、出掛けて行った。
『雪中花の季節が過ぎたら・・・。
続きは、帰って来てからね。』
意味深に、ニヤリと笑った。
―――現在、午後七時三分前
もう少しで、帰ってくる。
私は、アパートの前の公園にいる。
彼が、帰ってくれば、直ぐに私に気付くだろう。
彼は駆けて来る。私は、気付かない振りをする。
ふわり。
私は、寒空の下で温かなモノに包まれた。
雪中花の季節が過ぎたら。
―――俺の花嫁になってくれないか?