ブラックボックス
外見だけですが、彼氏・海斗が最近ちょっぴりワイルドなギャル男になりました。
デートをことあるごとに“予定ある”と言って断り続けた彼との2ヶ月ぶりのデート。
今日は、私の24歳の誕生日。
昨日は色んなことを考えて眠りについた。
着ていく服、話すこと、プレゼントの中身。
……付き合って3年と少し、もしかしたら指輪を渡されてプロポーズされるかもしれない。
ドキドキでいっぱいだった。
それが今日、何を話しかけても上の空の彼氏。
会話が続かず、お互いに笑顔が不自然。
これが世に言う倦怠期なのだろうか……
そんなことを考えていると、彼氏はレジで何かを受け取っていた。
「お待たせ、ナミ」
「え? 何買ったの?」
「誕生日、おめでと」
「プレゼント?」
「そ。今から、お前んち行こうぜ。開けたらすっげー感動すると思うんだけど」
「そうなんだ……」
嫌な予感に胸がざわめいた。
その予感は的中する。
「何これ……」
「ボディスーツ。それから━━」
「何に使えっていうの? 嫌がらせ?」
「違う! 俺さ、3ヶ月前に先輩に誘われてサーフィン始めたんだよ。それがすっげー楽しくて」
「デートを断ったのも、それが理由?」
「波の上から見える景色、最高でさ! マジでサイコー! なんだって!」
「夢中になれるものがあるのはスゴくいいことだよ? でもさ、私まで巻き込まないでよ!」
「おい、ナミ?」
「帰って……帰ってよ!!!」
海斗がいなくなると、後悔と寂しさが押し寄せてきた。
最低最悪の誕生日。
……素直に喜べるわけなんてない。
「嫌い! サーフィンも海斗も!!」
そう叫んで、ボディスーツを床に叩きつける。
と、薄いケースに入ったDVDが一緒に落ちた。
きっとまたサーフィンがらみだ。
私はDVDとボディスーツを乱暴に拾うと押し入れに閉まった。
この日から、毎日。
海斗からの謝罪メールが届くようになった。
私は一度も返信をしなかった。
この日から一年が経った頃、海斗からのメールが途絶えた。
連絡が途絶えて、海斗への気持ちに気付く。
連絡が途絶えて一週間。
思いきって共通の友達に連絡してみた。
「ダンデムは上手くいったか?」
「え、何それ?」
「やっぱ失敗したのか。だから、あいつ無我夢中だったんだな」
よく分からない話の終わりに、海斗がサーフィン中に怪我をしたことを聞いた。
その夜、押し入れの封印を解いた。
震える手でボディスーツの下のDVDを取り出し再生。
映像より早く聞こえたのは、耳を塞ぎたくなるような波の音。
そして━━
「ナミ、誕生日おめでとう。俺さ、練習してだいぶ乗れるようになったんだ。先輩に教わって見た波乗りの景色、ナミにも見せてやりたくて。今はまだ無理だけどさ、近いうちにナミとダンデム……二人乗りしたいんだ。だから、ビキニよりは地味なんだけど、ボディスーツで海に慣れといてくれよな!」
そう言って、画面の中の海斗は海へ向かって走っていった。
サーファーとしての海斗はまだまだ未熟だけど、スゴく楽しそうでスゴくカッコ良かった。
何度も波にのまれて、何度も立ち向かって。
画面の海斗に惹き付けられてしまっていた。
DVDを見終わると、私はスマホの電話帳を開いた。
「もしもし、海斗?……私だけど━━」
END.