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「良い子だねー、マオちゃん」
その姿を見送ると、京介が呟いた。
「……それで、本当はお前、何しに来たんだよ?」
マオがいなくなったことで、幾分語気を強めて尋ねる。
「言ったじゃん、色々あったんだって。それで皆に会おうと思って」
京介は笑ったまま答える。
「あ、でも」
そして笑ったまま続けた。
「隆二のところを一番最後にしたのも、泊めてくれっていったのも、隆二が心配だったからだよ」
「なんで」
なんでお前に心配されなきゃいけないんだ。
「エミリちゃんに聞いてさ。また女の子と住んでるって。また、傷つくんじゃないかって隆二が」
気づいたら、にこにこ笑ったままの京介の胸ぐらを掴んでいた。
「乱暴だなー」
あっけらかんと京介が呟く。
「余計なお世話だ。京介には関係ないだろ」
それだけ告げると、手を離す。少しよろけたものの、京介は小さく微笑んでいた。
「関係あるんだなぁ、これが」
「何がだ」
「茜ちゃんのこと、隆二がどう思って」
「いい加減にしろっ!」
声が大きくなる。
ここにマオがいなくてよかった。激昂した頭のどこかで、冷静にそんなことを思った。
「次に茜のこと口にしたら追い出す」
「はいはい」
おどけたように京介は両手を軽く上にあげた。
「悪かったって。とりあえずさ、なんか飯食おうよ」
「別に俺は食べる習慣ない」
まだむしゃくしゃしたまま、斬り捨てる。
「でも、食べること嫌いじゃないだろ? しばらく料理人のまねごとしてたから、なかなか上手いよ、俺」
そうして京介は冷蔵庫を開ける。
「うん、思ったとおりなんにもないね」
「……悪かったな」
「なんか適当に作るよ。あ、ちゃんと俺が出すからさ、材料費。食えないものとか、ないよな」
いつもの調子で問われた言葉に、小さく頷く。
「うん、じゃあ、そういうことで」
言うと、さっさと京介は部屋から出て行った。当たり前のように。
ドアが閉まる音を聞きながら、椅子に腰を下ろす。
「……なんだっていうんだよ」
呟いた言葉は、誰もいない部屋に溶けていった。