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「じゃあ、マオちゃん問題」
「お前はお前で急に何を言い出す」
「神山隆二、神野京介、神坂英輔、神崎颯太。この四人に共通することって何だと思う?」
『同族なんでしょ?』
「あー、ごめん名前で」
『……名前?』
マオが眉根を寄せながら、四人の名前を呟く。
ああ、その話ね。隆二は理解すると、
「音じゃ、わかんないだろ」
マオ、バカだし。
「あー、そっか。紙とペン」
京介は納得したように頷くと、右手を無造作に出してくる。なんで借りる側が偉そうなんだよ。
仕方なしに立ち上がると、部屋の片隅で放置されていたバイト情報誌とボールペンを手渡す。京介はその余白に四人の名前を書き込んだ。
『あ! わかった、神様!』
マオが嬉しそうに声をあげる。
「正解」
京介が微笑むと、
『わーい、あたったー』
嬉しそうに両手を叩いてから、隆二に抱きついた。
「この問題、間違える方が凄いだろ」
思わず小さく呟いたが、幸いマオの耳には届かなかったようだった。
『んー、でもなんでみんな神様なの?』
隆二の右腕に張り付いたまま、マオが尋ねる。
「希望が欲しかったんだよ」
それに端的に答えた。
あの時、研究所から逃げ出した時、四人で過去に決別することを決心した。だから、人間だった時の名前を、改めて捨てた。識別番号なんて、勿論捨てた。
「神って名字につけとけば、なんとなく報われる気がしたんだよな、あの時」
京介が言いながら苦笑する。
「若かったよなぁ、あの時」
「ああ」
神がつく名字をそれぞれ考えて、
「下の名前は、それぞれ交換したんだよな。音だけ採用して、漢字は変えて」
京介が続けた。
「……ああ」
隆二は一つ頷くと、ひっついたままのマオを伺うように見る。
『へー』
マオはぽかんと口を開けて、そう相槌を打った。ほんの少し、予想外の反応だった。
『なに?』
そんな隆二の視線に気づいたのか、マオが首を傾げる。
「……いや」
訊かれるかと思ったのだ。隆二の本当の名前は、きょうすけ、えいすけ、そうた、のどれなのか、と。
けれどもマオは、そんなことには興味がないようだった。
『でも、結局今は神山隆二なんでしょ? そうやって、呼べばいいのよね?』
ただそれだけを念押しするように確認してくる。
「ああ」
『うん、わかった』
そしてぱっと花が咲くように笑う。
『りゅーじ』
楽しそうに隆二の名前を呼ぶ。それから、隆二の右腕から離れる。
『あのね、あたし、お腹すいちゃったの』
「あー、そっか」
この前の食事から日があいている。
「手伝う?」
意識のない人間から精気を奪うことを食事とする幽霊に問いかけると、
『ううん、色々お話あるだろうし、、あとは二人でごゆっくり』
微笑みながら断られた。
『それじゃあ、行ってきます』
マオは笑って、壁の向こうへ消えて行く。
もしかしたら、マオはマオなりに、気を使ったのかもしれない。