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居候と猫の彼女  作者: 小高まあな
第五章 猫叱るより猫を囲え
26/28

6−1

 京介は、駅の近くにあった公園で時間をつぶすことにした。ベンチに座り、一人のんびりとコンビニで買った団子を食べる。これがなかなかに美味しい。

 ちらほらと、乳幼児を連れた母親が公園にやってくる。それを目を細めながら眺める。

『京介さんっ』

 頭上からかけられた声に、少しのデジャヴを覚えながら京介は上を向いた。

「マオちゃんどうし……、どうしたのっ?」

 軽くかけた声が、思わず大きくなる。視線の先に居たのは、くしゃくしゃに泣いたマオだった。

 急に大声をだした京介に視線があつまる。さすがにそれが気になって、慌てて声を小さくし、

「どうしたの?」

 手招きすると、マオは隣に座った。ぼろぼろに泣いた彼女の頭を撫でる。

「隆二は?」

『茜さんのとこ』

「ああ、お墓見つかったんだ」

『違うっ』

 しゃくりあげながらマオが叫ぶ。

『違う違う違うっ、待ってたっ。あの人、本当に待ってたっ』

「待ってた? 茜ちゃんが?」

『幽霊になってまで、待ってたっ』

「……そっか」

 二人の絆は、まだ切れていなかったのか。茜はそこまで隆二のことを思っていたのか。あの二人は人間と化け物の壁を越えたのだろうか。それなら、自分は。

『あたしっ、居られなくなっちゃうっ』

「……え?」

 マオの叫びに、京介は思考を中断させる。

『あの人が幽霊なら、ずっと隆二と一緒に居られる。そしたら、あたしっ、あの家に居られない。もう居場所がないっ』

 そうしてマオは膝をかかえ、そこに顔を押し付けた。

「マオちゃん……。いくら隆二でも、マオちゃんを見捨てたりしないよ」

 いや、違う。

「隆二だからこそ、マオちゃんのこと追い出したりしないよ」

 同族の中で、一番情が深いのが彼なのだから。

『だけどっ』

 マオが顔をあげ、吠える。

『隆二が追い出さなくても、あたしっ、あんな顔する隆二と、あの人のところになんか居られないっ』

「……そっか」

 それもそうかもしれない。

『もうやだ。謝りに行こうなんて言わなきゃよかった』

「……マオちゃん」

『……嘘だよ。謝りに来たのは、よかったと思ってるよぉ』

 マオは、抱えた膝に顎をのせた。

『隆二、悲しそうだったから。辛そうだったから。自分のこと責めて。だから、謝りに行こうって言ったのは、後悔してないよ。だって隆二のこと、心配だったから。だけど。こうなるなんて、思ってなかったから』

「優しいね」

 マオの頭をそっと撫でる。

「隆二のこと、考えてここに来たんだもんね」

『優しくないよ。知ってるもん。本当に優しい人は、こういう時に、こうやって喚かないもん。本当に隆二のこと考えてたら、大事な人と一緒に居られるようになってよかったね、って言うんだよ。知ってるもん』

 だけどっ、と続けた声が、また一段と涙声になる。

『だけどっ、あたし、よかったねなんて言えない。あたしは、あたしが、隆二と一緒に居たい……』

 そのまま顔を膝に埋める。

『……こんな風に我が侭だから、駄目なんだよね、あたし。いつも隆二を困らせて、迷惑かけて。だから一緒に居られなくなっちゃう』

 くぐもった声。

 京介はしばらくそんなマオを黙って見ていたが、

「マオちゃん」

 その腕をそっと引く。マオの体が少し京介の方に傾く。マオが顔をあげる。

『……京介さん?』

 涙に濡れたその緑色の瞳を正面から捉えて、京介はいつになく真面目な顔で問いかけた。

「なら、俺と一緒に居る?」

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