4−10
茜の家を出て、そこから一目散に走って逃げた。はやくどこか遠いところに行きたかった。ずっとずっと走って逃げて、かなり離れたところに行き、そこでしばらく一人で暮らした。一人きりの空虚な生活だった。
一度、心が落ちついた時があった。帰ろうと、思ったことがあった。少し情けない顔をして帰ったら、茜は仕方ないわねと笑って受け入れてくれる、そんな気がした。
離れてわかった。自分が如何に酷いことをしたのかを。茜の心を傷つけたのかを。自分にはやはり茜が必要だと。彼女を看取ることは、きっと心臓を抉られるような思いがすることだろうけれども、自分の知らないところで彼女がいなくなるよりずっといい。そんなことになったら自分はきっと、悔やんでも悔やみきれないぐらい後悔する。少し離れたことで、そう、思えるようになった。
だから、帰ろう。
そうしてまた、あの村に戻った隆二を待っていたのは、
「……隆二兄ちゃん?」
少し遠くで、呟かれた言葉だった。振り返る。遠くにこちらを伺う精悍な顔つきの男が一人。右手で小さな女の子の手をひいている。その隣には、赤子を連れた女性もいた。
「太郎さん、お知り合い?」
「おとーさん?」
「ん、いや、似てるけど。もう何年も経ってるのに変わってないから別人だよね。それに」
本来なら聞こえないような会話も、超人より優れた五官を持つ隆二には届いてしまった。
「茜姉ちゃんを見捨てたあの人が、戻ってくるわけない」
そうして太郎は、小さな声で呟いた。
「一人ぼっちで死んじゃって。可哀想に」
それを聞いた瞬間、きびすを返して村から逃げた。
遅かった。遅かったのだ。
待っています。
彼女の言葉が、耳元で聞こえた気がする。
「……ごめん、茜、ごめん」
嘘をついて、帰らなくて、約束を守れなくて、一人にして。身勝手で。卑怯で。
「ごめんなさいっ」




