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二人の関係が変わったのだとしたら、この日がきっかけだったのだろう。この日を境に、隆二の中でこの家から出て行くという選択肢が消えた。ふれあうことに躊躇いがなくなり、かける言葉に暖かみが増した。
今思い出しても、この時が一番幸せだった時間だ。二人でのんびりと暮らす。ただ、それだけがとても幸せだった時間。
だけど、それが永遠に続くわけではなかったし、そんなこと心のどこかではわかっていた。気づかされたきっかけは、なんでもない一日に紛れていた。
その日も、いつもの規則正しい生活を送っていた。認識してしまうと恥ずかしいことだが、隆二も今やその何気ない規則正しい毎日を楽しいと思っていた。同じように見えて違う。はっきり言ってしまうと、毎日茜の言うことややることは違っていて、それを見ているのがとても楽しかった。
だからその日も、いつもとは違う部分があった。同じではなかった。
「りゅーじにーちゃん、あーそーぼー」
土手を散歩中、子ども達に声をかけられた。
「ああ、太郎たちか」
最初隆二が助けたその少年は、今ではすっかり懐いていた。とはいえ隆二の返答は、
「やだよ」
「ええっ、ケチー」
「ちょっとぐらい、いいじゃない」
呆れたように茜がなだめる。ここまでがいつもお決まりの会話だった。
「仕方ないなー、ちょっとだけだぞ」
とか言いながら、缶蹴りに参加する隆二が、気づいたら大人げなく熱中しているのも、いつものことだった。茜はいつもそれを少し離れたところに座り、微笑んで眺めていた。
ここまではいつものこと。
違うのは、遊んでいる最中に聞こえた小さな小さなうめき声と、何かの倒れるような音。
嫌な予感がして振り返る。
「っ、茜!」
胸の辺りをおさえて、茜が身を丸めていた。
慌てて駆け寄り、体を支える。苦しそうに歪められた顔。子ども達もそれに気づくと集まって来た。
「発作だ」
と言ったのは、どの子どもだったか。
「発作?」
「茜ねーちゃん、心臓弱いって先生が」
「薬は? 持ってないの?」
茜の右手には小さな箱が握られていた。
「飲んだ、から、へいき」
小さなかすれるような声。どこが平気だと言うのか。
一条家は体が弱くて、葵も茜も。だから、先生のところに定期的に通っているのは、ただの世間話ではなかったのか。そもそも最初から主治医と言っていたじゃないか。今更ながらにそんなことに気づいた。自分の迂闊さを呪う。
真っ白い顔。
「少し、我慢しろ」
その頬を軽く撫で、そっと抱え上げた。
「隆二兄ちゃん、どうするの?」
「先生んとこ」
端的に答えると、持ち前の人並みはずれた身体能力で、あっという間に土手からその姿を消した。
「……はえー」
残された子どもが、小さく呟いた。
こんなに目立つことをして、化け物だということがバレて、村から居られなくなるんじゃないか。いつもなら思うことも、そのときは思わなかった。それどころじゃなかった。茜が茜を茜の。茜のことが心配だった。どうにかして助けて欲しかった。
一人、残されたくなかった。