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居候と猫の彼女  作者: 小高まあな
第三幕 彼女が拾った猫との生活
16/28

4−6

「私には、姉が居るの」

 家に入り、腰を下ろすと茜がゆっくりと切り出した。

「同い年の」

「血のつながらない? ……いや、双子か?」

「そう、双子。葵って、言うの」

 小さく頷く。

「一条は、昔から続く名家で、家柄をとても大事にしていて。だから、双子が生まれたなんてこと、外聞を大事にする一条にはあってはならないことだった」

「……ああ、双子は悪魔の子、とか言われる風習が?」

 まったく同じ顔の人間が二人いること、一つの腹から一度に二人生まれること、そう言ったことから双子が忌まわしいものとされることがあると聞く。

「そう。……さすがに、知っているんだね」

 弱々しい笑い方をする茜に、何故だか少し苛立ちを感じる。

「だから私は、生まれなかったことにされるはずだったの。……殺されるはずだった」

 茜は仕方ないよね、と笑う。唇だけで。

「だけど、一条は代々体の弱い者が生まれることが多くて。私や葵も例外じゃなくて。だから私は、今日までここで、一条から離されたところで生かされている」

 泣きそうな目をしているくせに、小さく微笑む。何故だろう。苛々する。

「葵に何かがあったときに、すぐに代われるように。……さっきの人は、一条の補佐を代々している人で、だからだいぶ失礼なことを」

「笑うな」

 耐えられなくなって、言葉を遮った。驚いたような顔を一瞬したものの、直ぐに茜は小さく笑う。

「どうしたの?」

「笑うな」

 その手をひく。よろけて体勢を崩した茜の頭を両腕で抱え込んだ。

「隆二っ」

 慌てたような声がする。

「なんで、泣きそうな顔をしてる癖に笑うんだよ。なんだかとても、腹が立つ」

 頭を抱えたまま、低い声で言う。ばたばた慌てたように手を動かしていた茜は、その言葉にぴたりと動きを止めた。

「向こうの都合で勝手に振り回されてるんだろ。怒ってもいいし、泣いてもいいし、それが普通だろ。わかったような顔をして、笑わなくてもいいだろうが」

 気づいたら話している自分の声が震えていた。ああ、今自分は、彼女に自分を重ねあわせている。昔の自分にかけたい言葉をかけている。

 だからこそ、

「笑わなくて、いいから」

 だからこそ、彼女がとても愛おしい。

 黙っていた茜が額を隆二に押し付けるようにし、腕をそっと背中にまわした。

「……ありがとう」

 小さく聞こえてきた声は、水分を含むものだった。

「ん」

 急に照れくさくなって小さく頷いた。照れくさくなったけれども、この手を離すつもりはなかった。

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