異世界の少女に会いに行こう!
異世界の少女と私の、初めての面談場所は、彼女がこの世界にやってきたまさにその場所、北の神殿だった。彼女はずっとそこで保護を受けているのだ。
神殿の者の援助を受け、彼女はある程度のこちらの常識などを学んでいるそうだ。
彼女の言語と私たちの言語は異なっているのだが、異能者の一人の法術によって、彼女はこちらの言語を理解し、話せるようになっている、ということである。
ここまですべて、王家の使者談。
そんなわけで。
私は仕事を休み、現在、神殿へと向かっている。
王家から貸し出された、非常に豪華な馬車に乗って。
ソファーはふかふかできもちいい、のだが、同乗している相手がアレだった。
先程からキャンキャン喚いているのが、護衛と言う名目でついてきた厄介者である。
「ほんっと、うらやましーよなぁ。異世界の女の子と会えるなんてさ~!
可愛かったら、ま!じ!で!!紹介しろよ!大体俺の方がこんなにカッコイイのに、なんでアルなんかが選ばれるわけ?俺の未来の奥さんかもしれないのにさ!!」
さらさらの、陽に透ける淡い金髪にコバルトブルーの双眸。端正、と言っていい顔の造り。
黒の外套に身を包んでいても、その容姿の美しさは人目を惹く。
その全てを覆すようなマシンガントークとへらへらしたバカ面。
彼の名前はウィリアム・ロジャー。
職業は王宮付法術師。
もちろん独身。
こんな奴と、実は10年来の友人であったりする。ので、ばしっと彼の頭をはたきながら
「仕事だっつってんだろ。少なくてもお前の頭の中身よりましだバカ。顔は関係あるか」
と答えたりもする。私の彼への扱いは基本、雑である。
「いってぇ!!なにすんだよっ!このバカ力!
こんな暴力的なやつが教授なんて、まじで誰も信じないんじゃねーの?女の子も、お前みたいな怖そうなやつが行くより俺みたいな貴公子が行く方がよっぽど夢見れるんじゃね?」
たしかに、私自身の見た目よりも、こいつ…じゃない、彼の見た目の方が、第一印象といては、いいのは確かだ。正直、私の容貌を怖い、という人もまぁ、時々いる。
一般的な成人男性より、体格がよく、圧迫感を与えるらしい。
異世界の少女に、怯えられないといいが……。まぁ、それはさておき、反論する。
「お前さ…仕事しろよ。あと、お前が行ったところで見た目とのギャップにがっかりされるのが関の山だろ。いつもみたいに」
今日、出発する前に王宮の侍女たちに、なかなか待ち合わせ場所にやってこないウィルの所在を尋ねたら、「ああ、あの…残念な方」と漏らしたのは忘れられない。
笑いは堪えた。
「はぁ、このギャップが売りなのに…」
と、大きくため息をつくこのバカの性格は、おそらく一生治らない。
「第一、なんでお前が護衛なんだ?」
私は最大の疑問を口にした。
護衛と言えば、普通騎士である。法術師と言えば切り札であり、その能力の特殊性から、護衛される立場であっても、護衛する人間ではない。
さらにウィルの基本的な戦闘能力は一般人レベルだ。
ウィルは、待ってました、とばかりにらんらんと顔を輝かせる。
「志願したからに決まってるだろ!俺もたまには外に出たーい!」
「そんなことだろーと思ったけど、よく出れたな。一応法術師だろ、お前」
法術師は稀少だ。王宮付ともなると、外出も制限され、王都から許可なく出ることは赦されないし、誘拐などの可能性もあるので許可が出る例は極端に少ないという。
「俺とお前なら最強じゃん?たいがいの事は何とかなる!って王に言ってやった!だからお前の帯剣が許されてるんだよ。まぁ、北の神殿は王都を出てすぐだし。」
「お前と俺の頭のレベルが同じって発言、取り消せよ……」
本物のバカが目の前にいる。
あと、これは本当に護衛なのか?
昔、私は兵士だったことがあり、こいつは職場の同僚なのだが、その時の戦法でいくと、明らかに私は最前線で戦うことになる。
たぶん、その戦法で行けば大抵の敵に引けは取らないとはいえ、一応護衛されている側が戦うのだが。
「あーはやく着かないかなー♪会いたいなー♪」
目の前でバカがはしゃいでいる。
神殿に言ってもこいつが面会するわけじゃない。
きっと、こいつはそのことを忘れている。
ぐったりとした疲労感を抱えた私とバカを乗せて、ふかふかの馬車は進む。