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神殿にて②


「聴聞録を、作ることになったんだ」


折角なので、目下の悩みを切りだしてみる。


「…なぜ」


表情はほぼ変わらないものの、かすかに困惑がアビーの瞳に宿る。

無理もない。彼女は私があまり賢くないことを…残念ながら知ってしまっている。


「王命だよ。どんな選考基準かは俺も聞きたい。」

「……くじ引きでもしたのだろうか」

「あり得そうでいやだな……」


あんまりな言い草に苦笑いをしたものの、ビアズリー様がくじ引きで決めた可能性も無きにしも非ずである。やはり、どう考えても無理があるのだ。

謙遜でなく、まさしく、ワタクシゴトキニハカブンナシゴトデゴザイマス。


「やっぱり、柄じゃないよなー、博士の真似事なんて。俺に、異世界の有益な情報なんてまとめ切れるとは思えないし、大事なところを見落としてしまいそうだし……」


弱音を吐き、ため息をつく。

アビーは無表情のまま、首を横に傾けた。ちょこん、なんて可愛いものではなく、長い髪がさらりとゆれ、人形のような顔がごきっ、となりそうなくらい勢い良く傾いた。正直言って、ちょっと怖い。


「そんなことは、心配していないし、大した問題でもない。アルバスにしか見えないものも、理解できないことも、たくさんある。少なくとも私は、信頼しているよ。だって」


アビゲイル…さすが幼馴染歴15年……!

と、二人の友情に感激した。その感激が胸に迫りきる前に、アビーは言葉を続ける。

首を、びゅんっと正面に戻して。


「野生動物みたいなものだろう。お前。その勘の鋭さがあれば、何とかなる」



―胸に迫っていた何かが、急速に、ズズズッと胃の方へ降りていくのを感じた……。

微妙な脱力感と共に、若干の安堵がこみ上げる。

気の利いた事の言えない、正直なアビーと私の関係は、いつもこんなものなのだ。

恋仲にある甘さはなく。

過ごした時の持つ粗雑さと気安さのある関係。


「お前が俺をどう見てるのか、なんとなく理解できた気がするよ…」


再度のため息とともになんとかそれを言葉にすると、大きく一回伸びをする。


「じゃあ、俺はもうそろそろ行くから。色々聞いてくれてありがとう。迎えが来るまで、ここから出るんじゃないぞ。一応女性なんだからな」


ひらひらっ、と手を振って踵を返した私の背中に、アビーは小さく祈りを唱える。

礼拝堂の扉に手をかけたまま、その祈りの言葉を受ける。


「女神の名のもとに、正しき者よ、汝の成すべきことを成せ。女神の風は汝を癒し、護る」


毎回思うが、なんで断定形なんだ、祈りが。

普通は女神に、お願いするものだろうに。


幼馴染の妙な癖に、懐かしさと、祈りをささげてくれたことに、胸が温かくなって、私は思わず振り返り、アビーに笑いかける。

アビーは未だ目を閉じ、祈ってくれていた。

その姿を目に焼き付けて、私は扉を閉めた。




神殿を出ると、丁度よくエヴァンズ家の馬車が到着していた。降りてくるのは金髪、青い眼の美青年―クリストファー・エヴァンズ。アビーの夫である。

線の細い体に、長い金の髪が顔にかかり、影を作っている。相変わらず神経質そうな雰囲気を持っている男だ。

彼は私の姿を認め、その美しい顔を思い切り顰めた。

はい、嫌われています。彼はアビーを溺愛しており、幼馴染の男である私を、まるで害虫のような目で常々見ている。苦々しい顔を張り付けたまま、彼は私に声をかける。


「卿。ここで何を」


名前すら呼んでくれない。いつもの事だが。私は何とか、笑顔を作る。


「礼拝ですが。お久しぶりですね、エヴァンズ様」

「妻とお会いしたか」

「はい、礼拝堂の中でお待ちでしたよ」

「―失礼」


おい、これが会話か。

と問いたくなるほどのディスコミュニケーションぶりを見せつけながら、彼は私の横をすりぬけて礼拝堂へ向かう。

もうすこし、和やかな会話を心がけてくれてもいいんじゃないだろうか。

どうせアビーはあなたのものだ。


胸に苦々しいものを残しつつ、私は礼拝堂を後にした。











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