アルバス教授、勅命を受ける。
ヴォルガルド王歴528年、百合王の月。
第12代国王ルーマス・ウェル・アルヴィリア・ガルークス・ヴォルガルド陛下は、私、アルバス・エストラードにとある任務を申しつけられた。
その任務について説明する前に、少しだけ、私自身について語らせてほしい。
我がエストラード家は、代々学者の家系であり、数多くの優秀な、ヴォルガルド王国を担う人材を輩出している。当代では、王立上級学院学長であるシンシア・マッカンティ(分家)や、宮廷学士長ハーバード・エストラードが有名である。学問の名門、エストラード家。私もその端くれとして、王立下級学院にて教授の任に着いている。
……ああ、まさに、「末席」に、かろうじて、こびりついている。
私の頭は、エストラード家の面々が代々受け継いできた知性の、ほんのひと欠片しか受け継がなかったのである!親には泣かれ、親戚には白い目で見られた。
エストラードの名は重く、就職先も、自ずと指示された。
即ち、教育機関。即ち、宮廷。
宮廷はどうしても嫌だったので、教育機関に絞って探した。
と、いってももともと才能のない分野。
昨年、この学院に就職できたのも、恐らくは偉大なるエストラードのコネ、といえるだろう。誰がどう、動いたのかは知らない。ただ、そう思ってしまうのは、就職の際に、簡単な筆記試験と実技試験しかなく、面接も簡単な質問に答えるだけで終わったからである。そのまま採用され、去年の春から、王立学院で教鞭を振るっている
……心情としては、別の鞭を振るっている気分であるが。
と、いうのも、王立下級学院の対象年齢は、4~6歳なのである。
つまり。
「教授」という職名がついているものの、私が行っているのは。
「はーい。みなさんおはようございまーす」
「「おはよーございます、あるばすきょうじゅーーー!」」
…今日も元気な、子どもたちの子守である。
さて、本題に戻ろう。今日、私は陛下より勅命を頂いた。
「先日、とある娘が北の神殿にある結界より現れた。現在その娘の身柄を保護しておる。そなたには、その娘と話をし、彼女のいた世界の話を聞き、書にまとめ、報告してほしい」
即ち、異世界聴聞録の作成。
……正直に言おう。
なぜ、よりによって私なのだ?!
国王の命で作る書だ。全くの、私的な文書であっても、非常に後世に残る可能性の高いものだ。その代最高の学識者が、執り行うべきもので、断じて、断じて私のような者が取り組むべきものではない。無礼な事だとは存じているが、私は陛下に抗議した。
「陛下。私ごときがご意見申し上げるのは、誠に無礼な事であるとは存じ上げております。しかし、我が家の名誉のために申し上げます。私のような何の実績もない若輩者には、その任は過ぎた仕事でございます。
その任に適正な者をどうぞ、再考頂きたい」
私の必死の訴えに、陛下は困ったような笑みを浮かべた。
「しかし、な。他の誰でもないビアズリーの勧めだ。そなたが適当であると。そう、堅苦しいものではない。そなたが聴いた通りに、そなたの言葉で書いてほしい」
「……ビアズリー殿が」
ビアズリー。国王の信用も厚い、王宮防衛特別顧問。その名は高名だが、その姿は厳重に隠され、その正体は国王を除き、ほんの一部の人間しか知らない。そんな人物が、なぜ、私にを指名したのか。まったくもって謎である。
「そなたが不安であるのもよくわかる。だが、是非そなたに頼みたいのだ」
国王はそういって、跪く私の手を取った。
……そこまでされて、断るわけにはいかない。
「……御意に」
私は仕方なく、この任を受けてしまった。