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碧の青春【改訂版】  作者: 美凪ましろ
第六章 嘘がつけないひとだね
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(4)

 凛々しい剣道着の女子、走りに不向きな袴ながらも現在トップ。次点は野球バットを持つ野球着の男子。追う、ラケットを手にした卓球部員。テニススコートの女子から周回遅れでドンケツのチアリーダーは吹奏楽部のマーチングのときの服装だそうだ。

 赤いロープ一本隔てて向こうの世界。

 異色の衣装で蠢く人々を眺めていた。

 ちらと後ろ見る。さっきまで賑わっていたここはがらんどう。スペース余らせてそれぞれが固まらずに座っている。

 私の位置は変わらず。真ん中に長谷川くん。離れて右に和貴。後方の対角線上に蒔田一臣。

「……きみらは応援すらしないのか」

 あっと。

 宮本先生だった。靴脱いで、じゃりっじゃりなビニールシートを進み、長谷川くんの横を選んで体育座りをする。

 どかっと勢い任せに。

 ちょっとご機嫌斜め。

「きみたち全員。グランド見てみろ。リレー出とらんがは自分らだけだぞ」

 円を描くよう見回してみると、確かに。入退場口を除けば無人だ。それとテント下で涼む先生方。

 そして私気がついた。

 小言を述べるために来たんだと。

「なあ長谷川。いい加減部活入らんか」

「結構です」

 Noの意味に思う。「ったく。全校で部活入っとらんのはきみたちだけなんやぞ……」

 膝揃えた三角座りしてた和貴が、目が合うとふふっと笑った。

「みやもっちゃんねー管理不行き届きでコッテリ絞られてんの」でなんで笑顔? 「職員会議のたんびにさー二年四組だけですよっ! てガミガミ叱られんだよねー会議室こないだ通りかかったら廊下まで響いてた。かっわいそーにぃ」

 首から下げたハチマキ交互に引っ張ってアハハと和貴。

 宮本先生の冷たく細まる目を私初めて見る。

「……きみが幽霊部員というのを私が知らないとでも思っているのか」


 ――幽霊部員?


「おい蒔田。自分は例外と思っとるかもしれんが、文化部でもいいからとにかくなんか入れ」

「はい」

 答えるものの明後日の方向向いてる、いかにも口先だけ。

「都倉」あやっぱり来た。「きみも。前に入ってた部活を続ければいいじゃないか」

 内申書見てないんですか。

「……先生私帰宅部でした」

 うずくまって見えなくなる。

 そんな落ち込まなくっても。

「元気出してください宮本先生」頬杖ついてリレー眺めてた長谷川くん、ふと隣に顔を傾け。


「ここにいる僕たちでパソコン部を作りますから」


 はえ?

 予想外の展開。和貴も目を丸くしてる。

 だが鋭い眼光飛ばすのが一名いた。

 ……蒔田一臣。

 めちゃ、くちゃ、睨んでる。長谷川くんを睨む延長に位置する私、もろに見てひやりとする。

 だがそんな殺気をもろともせず、微笑絶やさずの勇敢な男がそこにはいた。

「僕は今回、体育委員をしていまして。裏方をして驚きました。全てペーパー管理なのですね。名簿競技プログラム何から何まで。何百人と人が動く所を手書きで行うのですから当然、ミスが出る。記録集計を手動で行うだなんて致命的ですね。一太郎かエクセルでも使えばかなり違うはずなのですが。……かく言う僕もパソコン本体は少々扱いますが、ソフトには疎いです。学校行事の手伝いや啓蒙活動を通じて、パソコンの扱いに慣れ。情報処理能力を高められればいいのではないかと」

 ソフトぉ? と和貴がせせら笑う。「エロゲー専のくせによくゆーよ」

「……桜井くん」後頭部で伝わるなんとなく威圧感。「ご自分の立場をわきまえて頂けますか」

 声色でも威圧してる。

 静かな喋りこそが効果的なのを彼は、知ってる。

 と。

 なにか思い出したように。「ああ、都倉さん」上ずった声で顎をつまみながら。「おそらく彼は最初から貴女のことを名前で呼んでいたはずです。それはですね、」

 素早く、

 動く影があった。

「よっけーなことゆうなっ」

 掴みかかる和貴を阻んだのは宮本先生、だった。

 喧嘩、になりそうな騒ぎに私驚く。

 いったいなにがあったの?

 落ち着けーどーどー、と座らせる宮本先生。呑気な声で雰囲気和げてるけれど和貴……なんか怒ってる。激昂を黙ることで抑えてるような。

「おい。どういうつもりだ」

 ――そうだ、

「蒔田くんもここに居合わせたからには強制参加ですよ? Noとは言わせません」

 彼は。

 やらねえ、と断言するか、或いは無視決め込むかと思ったのに。

「部活はもう、……たくさんだ」

 乾いた声に、

 抑えた瞳のいろ。

 分かる、彼がなにを思っているのか。

 私の胸の奥は痛んだ。

 こんな彼を見れば。女子なら誰だってそう感じるだろうに、……男子だから違うのか。長谷川くんは同情の片鱗も浮かばせず。

「入ってくださらないと貴方が困ったことになりますよ?」

 それ以上を言おうとするのを阻むように、

 ゆっくりとした動きで立てた指二本を唇へと運び、

 ふう、

 と外す。

 投げキッス。

 違う。

 悠然とスライドするあの動き、は――


「た」


 危うく言いかけた。目で確かめる宮本先生の位置を。幸いにして和貴の頭よしよしと撫でてて気づかれなかった。

 蒔田一臣の眉間のしわが深くなる。

 長谷川くん。

 こちらを見て微笑んだ。

 うそ彼。

 ……私が知ってることを知ってるのか。

 それとも。

 私含めてゆするネタにしようとしているのか。

 にこにこしてる彼からは私、そのどちらなのか読み取れなかった。

 怖い、人……。

「部活を作るんがは構わん。しかしな、部員が最低五名。顧問と副顧問一人ずつ揃わんと、正式な部活として認められん」

「顧問は宮本先生、お願いします。あ、負担はかからないよう考えてあります。場所はパソコンルーム。放課後は空き教室でしょう? 部員の残り一人は、……」

 ここで、

 謀ったように、足音が。

「あーっまっさきぃーっ!」

 私のよく知る人物だった。


「なーなあたしの応援見てくれたぁー? あれめーっちゃ練習してんよ大変やってんよ神輿担いだ後も実は練習しとってー」

 うん格好良かったです。安室奈美恵の『You're my sunshine』のセンター決めてた紗優はみんなのアイドルだった。みんな総立ちでコンサートと化した。

 この体育祭は白が大勝ちしてる。

「宮沢さん」割り込まれてちょっと嫌な顔をした紗優。「ここにいる桜井くん蒔田くん、都倉さんと僕とでパソコン部を作ることになりました。宮沢さんも入りませんか」

「入るぅーっ!」

 周囲もびっくりの大声で立ち上がった。ちょ、ちょっと待って。「長谷川くん、私まだ入るだなんて」

「えーやんめっさ楽しそーやんあたし真咲がおるなら入るよぉー」

 って手を引かれてフォークダンス始めるんだけど。

「ま。待ってストップストップ」息が。「も私、バテバテだから休ませて……」

「えそうなん?」

「このあとリレーがあるだなんて信じられないよ」

 ちょこん、と座る。紗優は長谷川くんの隣に。で私もなんとなく。

「でも紗優、美術部なんだよね。掛け持ちして大丈夫?」

 あー……

 小さく咳払い。恥ずかしげに。

 小澤さん、紗優が部活真面目にしてないって言ってた。やっぱそういう意味で聞いちゃいけないことだったのかな。新参者はそういうのが読めなくて周りを困らせてしまう。

「幽霊部員、なのですよね。美術部への助成金を増やすための……」

「ん。何人おればいくら貰えるかってのは決まっとるから。名貸ししとるだけ。紗優は」

 男子二人のフォローに宮本先生、苦笑いしてる。おれのおるとこでんな話すんなよって。

 で紗優が顔赤くしてるのはそれが理由ではなく。

「それにね。紗優は、絵のほうはあんまし、」

「こら和貴っ」

 怒ってた風だったのがいつもの感じに戻った和貴は、よ、と長谷川くんの横に腰を下ろし、

「こないだね。怜生のお絵かきにつき合ってたんだよ。お題、ワンピースのルフィ。怜生ってなかなか絵ぇうまいんだよね。けっこ似てた。紗優のほうは。……なんかニコちゃんマーク描いてた。カラスの三本足ついてる未確認歩行物体」

 う。

「気持ち悪い黒いマントかなんか伸びててなにこれって聞いたらどうやらね。……彼のパンチなんやって。ゴムゴムのアレ」

 長谷川くんが。

「宮沢さんっ」急に真剣な勢いで紗優に向き直る。「な、なんよ」

「誰にだって得意なことや不得意なことの一つや二つはあります。ですからどうか、一緒に得意なことを増やしていきましょうっ」

 今度は、策略でも意図でもなんでもなかった。

 噴き出す和貴。釣られる私に、

 目を丸くする長谷川くん。

 ちょっとむくれてる紗優。

 ちょっと離れて見守ってる宮本先生に。

 加わらず明後日を向いた蒔田一臣。


 一九九七年九月二十二日。

 

 そんな私たちのパソコン部が産声を上げた。

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