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碧の青春【改訂版】  作者: 美凪ましろ
第六章 嘘がつけないひとだね
19/124

(1)

「えー台風の影響も心配されましたがー無事に今日という日を迎えられましたのはですねーひとえに。皆、さん、の、この日に向けた精一杯の努力が実ったわけでしてえー校長先生は誇らしい気持ちで一杯です。えー我らが緑川高等学校の校訓、敬天愛人けいてんあいじんとはですねーえー、……」

 空はとおい、曇り空。

 強い大型の台風は九州地方へ遠ざかったものの、太陽を覆う雲の厚い絨毯が名残を感じさせる。能登に台風が訪れることはめったにないんだとか。だから沖縄みたいな建物は少なく、瓦屋根の木造住宅ばかり。台風一過と呼べるほど清々しくもなく、土埃が入るから口から息はしない、鼻から息をしても苦しくない、暑すぎないこのくらいの天候がちょうどいい。気温三十度を超えては体調を崩す生徒が続出する、私もそんな生徒の一人だから。

 西郷隆盛のことまでたっぷり弁舌を振るった校長先生の挨拶と簡潔な選手宣誓が終わればラジオ体操開始。スピーカーが壊滅的な音質なのはどこの学校も同じか。肩をぐるんぐるん。ぴょんぴょん飛び跳ねるとジャージと湿っぽい空気とどこか、潮の薫りがまとわりつく。くん、と肩の辺りを嗅いでみても柔軟剤の香りしかせず。焼肉屋で食事をするのと同じ理屈かもしれない、元から住まう子たちは気にならないのか、終えた後に男子の誰かが「すげ。なんか頭すごくすっきりした」と言っていた。確かにそうかも。

 各クラスの持ち場に椅子を置かない。教室を往復して足の泥を拭く手間をはしょってか。お花見のときに見かける青いビニールシートを敷いてる。グラウンドのトラックを外周するさまは遠目に見ればミステリーサークル。人間たちなんでこんなことやってんだろう、ととんびなら不思議に思うかもしれない。

「ぼさっとしとらんであんたはこっち」

 肩を強く引かれる。痛い。というか押しやられる。

「や、別にいいよ」

「ちっこいんしあんた後ろやとなんも見えんやろが。つかえとるんやからはよ座りいっ」

 そんなちっこいとかでっかい声で言わないでよ。みんなに印象付けられちゃう。

 そんでそこまで参加意欲ないんですけど。

 流れで真ん前に進み、どうぞと譲って角を選ぶ。隅っこが私は落ち着く。座って眺めてみると、トラックで転ぶ走者がいればとばっちりが来そうな臨場感。おべんと食べるとき砂混ざりそうだ。……お昼って教室戻って食べるのか、それともこの場所だろうか。

「都倉さん体育祭初めてやよな。分からんことあったらなんやって訊いて?」

 お隣のなにがし里香さんはありがたいことを言ってくれる。「やねえ。宮本先生なんも説明せんかったもんなぁ……書き写せーってだけしか」とポニーテールを結わえつつみどりさん。

「赤軍と白軍に別れとるがは知っとる?」

 正座して私、ぶんぶん。

 その。

 あなたの名前も覚えてないの……。

 はーっと聞こえよがしのため息が真後ろから。「あんった赤のハチマキなにしにしとると思ったが? そこのロープも赤。袖つけとるリボンも赤。じぶんが赤軍なん見とりゃあ分かるやろが。ったくー」確かにそうですね。どうせならシートも赤白に分ける徹底っぷりが欲しかったですね。で『軍』って呼称もちょっと気にかかる。バトル的な雰囲気じゃないことを願う。

「ほいで偶数の組が赤。奇数が白。二つに別れて総合点が高いのが勝ち。毎っ年なしてか白が勝つんよ」

 紅白体育合戦ってとこか。この例えに私自身で納得した。

「茉莉奈去年も赤やったもんなあ。気合入っとる」

「おーあたし今年こそ勝つぞー」

 ノンプレッシャーでどうぞ。ところで私の代わりに競技に出る気はありませんかね。

「私、出る順番覚えてないや……」メモっとけと宮本先生が言っていた。

「大丈夫やよ? ちゃんと放送で案内かかるし」と里香さん。五人のなかで一番マイルドで話しやすい。「タイムテーブルあっちにあるんがよ。次の終わったら見に行こ」

「うん。ありがと」

 テントを張った大会本部、の奥のホワイトボードを指してくれたけど私は、一様に扇子を扇ぐ年配の先生方が気にかかった。麦茶飲んでる中田先生、首からかけたタオルで額ふきふき。始まってもないのにあの調子では先が思いやられる。

「あ。出てきたよ。始まる」

 グラウンドの長辺を向かい合わせに二つ設置された本部、近い側に動きがあった模様。中腰で立つ男子に釣られ、左を向く。

 学ラン姿の男子が。

 入退場口のほうから、「……応援団?」随分丈の長いハチマキしてる。

「あんた。騎馬戦でもすると思うんか。あの人数で。あの格好で」

 いちいち嫌味だなあ。

 む、と後ろを睨みかけたのが、

「あ、れ。……て?」

 赤い細いロープ摘まんで二度見した。


 まさかの人物が。


 驚きを察してか里香さんは笑って指す。「応援団な、クラスから必ず二人出さなならんの。うちのクラスからは長谷川はせがわと」


 ――黒髪の彼、蒔田一臣が。


 グラウンドの中心に、整列する十二人。の端に立つ。

 もっと遠ければ黒のマッチ棒だったろうけど、幸いにしてこの距離は。

 彼がどんな表情をして着こなしているかを把握できる近さにもある。

 腰の後ろに両手を組み胸を張り、遠方を睨む態度がどこか反抗的で。されど統制された美、でもある。肌の白さに対する黒髪のコントラスト。

 この学校の生徒はみんな似たりよったりの地毛であっても、ほのかに茶や緑がかるなりオリジナルの色味を持つ。

 彼は、青だ。

 黒を通り越して青みがかってる。光の具合でそれが分かる。ビジュアル系に憧れる男の子が羨む髪の色合い。

 アスリート的な締まった体躯に黒衣を纏うさま。孤高の黒豹――そんな表現がふさわしい。

「……こういうの、しなさそうに思えるんだけど」

「あれ出れば他のん免除になるんよ」リレーはあるけどな、とみどりさん。「体育委員決まったって時点で長谷川は決まりやったし。蒔田はまだ足がなぁ……」

「足?」声が大きかったのが自分でも分かる。「彼、足がどうかしたの」

「しーっ黙れや都倉」

 諌められる。直後に、どんどん、と太鼓が二回。

 いつの間に。

 男子の列に正対して台の上に和太鼓が設置されていた。バチを持つ、私たちと同じジャージ姿が二名。学ランの全員が、せいや、と拳を天に突き上げ、演舞を開始する。

 太鼓のリズムに合わせて自適に。

 機敏に。

 規律を感じさす俊敏さで。

 屈んで大地を右の拳で殴りつけ。ひらり、敵から身をかわす動きで宙を蹴り、からだをひねり後ろ向きに着地。陸上選手のスタートを切るポーズから立ち上がりざま、気合を発して左の拳を突き出す。

 目で追えない、覚えきれないほどの行動が展開され。画一化され整備された動作。うすい砂の嵐を纏いながらも自らを鼓舞し示すことにおいては不動であり事実、躍動する。からだが。叫び。うなり。様々な動きを。……男の子ってすごいんだなとなんだか感動した。こういうことって女の子だとさまにならない。一二日で完成できるものでもないだろう、他のを免除させるだけの労苦は伴う。

 なかでも。

 ――彼が。

 似合いすぎる異質の存在。

 眼鏡外れてる。裸眼なのかコンタクトなのか、素を晒す、漆黒の瞳。真顔で黙々と没頭するひたむさ。開く唇の度合いに何故かどきりとする。足首まで届く赤い長いハチマキが彼の動きに沿い流麗な線を描く。彼自身が放つ燃え盛る炎のようでもあり。冷静にくべる秘めた情熱を肉眼視しているかの錯覚。白い額、散る汗の粒がひかる彩るエッセンスとなる。

 祭りの夜の男たちの、汗にまみれた力強さの美、あれに通じるものがある。

 ……歓声のなかでも女の子の声が妙に大きい。どうやら両脇の白の陣地からもだ。

 それが。

 止まった。

 演者は静止。太鼓の奏者も。

 見惚れていた私は夢から叩き起こされた気分になる。

 あっちのテントからなにか、……出てくる。

 サンタクロース?

 周囲がどよめく。

 この、灼熱を過ぎたとはいえこの晩夏に。赤白のだるだるの上下であごひげは見るに暑苦しい。本当に今日酷暑じゃなくてよかったよと彼のためにも思う。しかもすごい走ってる、走りにくそうだし。

 後方からやってきたサンタさんは、回り込んで和太鼓と和太鼓の間、つまりは学ラン男子の真ん中の正面に立つ。

 しょってたプレゼント袋を下ろす。

 ……あり。

 ラジカセだ。

 おいちょっと待て、と和太鼓男子が近づくも、辺り見回してスイッチ、オン。

 ほわん、ほわん、ほわん、ほわん。

 とサンタさん手を挙げて手拍子。和太鼓男子にも身振りでやれと。仕方ねえなと手拍子。サンタさん観客指す、して手拍子。はい私もやりました。学ラン男子も怪訝に顔見合わせながら手拍子。

 全員始めたのを見て取るとサンタさん大きなマル作ってダッシュでGO。……いなくなるのかよ。

 なんの曲かと思えばウルフルズの『ガッツだぜ!!』、やっけに前奏が長かった。

 和太鼓男子は既に配置戻り、曲に合わせて太鼓叩いてる。なんとなくやっぱり上手いと思う。カカカッとサビに合わせて縁を小気味良く鳴らす。

 学ラン男子は、……うそ。

 ヒゲダンスしてる。

 髭つけてる。

 蒔田一臣髭ダンスしてる。

 横一列になって。

 からだくねらせて広げた両手上下さすペンギン歩きのアレ。BGMてけてーててーてーんじゃなくても合わせられるんだ。ステップからして4分の4拍子なら可能なのか。どわははは、と男子を中心に笑いが巻き起こる。「おいなんやあれー」志村けんのロン毛のヅラ被って自分を汚さない辺りは流石、蒔田一臣。けどバカ殿が一人。……トータス松本のつもりかも、面長だし。アフロはあれは……加藤茶役? 黒だからカミナリ様ではなさそう。ああアイーンやってる。もうどうしよう。

 みんな大笑いしてるのに私一人いたたまれない気持ちになってた。蒔田一臣、無駄に動きにキレがある。サビ来ると『ガッツだぜ』に合わせて全員が拳二回振るう。曲選はこの理由か。

 と、くねくね踊り歩いていたのがカクカクジェンガ。足上げラインダンス始めちゃうし、た、宝塚みたいな。……もはやコンセプトが不明だ。前半部分の華麗さは私のなかで消失した。

 ラストは二列に並んでクラッカーパン! と鳴らして終了。マイクが近くてちょっと私の心臓に悪かった。

「はーい赤軍の応援団のみなさんでしたーお疲れ様でしたー」

 サンタが再びやってきて髭学ラン男子と袋にゴミ回収して撤収。……最後までシュールだった。

「……男子の応援っていつもあんな感じなの?」

「全っ然。去年はもっとちゃーんとキリッと応援しとったよぉ」声色は不満気だが里香さん涙目。彼女爆笑してた。

「長谷川くん、だったっけ。彼どこにいたの」

「サンタ」

 私が驚く前にみどりさんがけらけら笑い出す。「まじ似合いすぎやろ。誰やんあの役決めたがは」

「……応援やる男子なーみんな夏休み中もめーっさ練習しとったがにあいっつは。あれで他のん帳消しっておかしいやんか」

 似合い過ぎと言われる根拠も分からず。

 何故か怒って腕を組む小澤さんにも、長谷川くんって誰? といくらなんでも質問できる空気じゃなかったのが。


 その日のうちに彼を記憶することとなる。


「ぼさっとしとらんとほれあんたも応援せんか」

 ぼさっとしていた私、学ランの演舞を脳内再生していたのがトラックに意識を戻すと、

 桜井和貴。

 F1みたく顔びゅんと振れる速さかも。ぶっちぎりの一位。

 小動物みたく腕を細かく振るフォームは癖があって。

 でもあの足のきれいな蹴り返し……タイヤみたい。

 あんな走りができるひとを羨ましく思う。

 顔を上気させて歯を食いしばっても、彼、どこかしなやかで飄々としていて。一位の列続くときにシャツの胸掴んでぱたぱた「あっちー」って言ってるのがこっちまで聞こえた。

「……勿体ないよね。桜井ってせっかく陸上部ながに」

「え?」何故か里香さんの横顔が暗いような。「彼陸上部でしょう? 勿体ないってどういう、」

「田代ぉーっあんたぁ一位取らんかったらこっちの陣地入れんからなぁっ」

 いきなり立ち上がって小澤さん叫ぶ。

「応援ってかそれ応援なの……」恐喝ってか脅迫に近い。

「あっ都倉あんたもっ」肘掴まれる、立ち上がらされる、痛い。「声出して応援すんねよあんたっあんたがしたほうが効果あんねやからっ」

 なんでそんな気合入ってるか分からないけど。

 スタート切る直前の田代くん。こないだドッジボールの隠れ蓑にしたお詫びもかねて私大きく声を張る。

「田代くーん頑張ってーっ」

 彼。

 こっち見たと思ったら。

 こけた。


「ほんっとにあいつふっがいないやつやな」

 小澤さんぶちぶち。徐々に私のなかで彼女のイメージが固まってきた。ジャイアンの女版ってか和田アキ子だ。田代くん戻ってこないし。

「女子だーれも一位取っとらんがてどーなっとるがおかしいやろ」……次の次の競技で私の出番……さて私お昼を気持ちよく食べれるのか……。

「一位取ってた子ってみんな運動部なの?」

 てさりげに顔と名前を一致させる機会を伺っている。

「でもないなー」

「宮沢さんなんて美術部やろ。あの子すっごい短距離速いんよ。一年ときタイム計るやん、確か七秒四やった」

 白組の紗優は一位取ってた。カモシカの脚って呼ばれる脚ってああいう足だと思う。夏に見た素足、細くて締まっててほどよく筋肉がついてて。

 でもその感じは黒髪の彼のとは違う、

 ……

 ここまで思い至ってなんだか自分で恥ずかしくなった。

「あいつかてなにっしに美術部入っとるが。作品も出さんし。部活真面目にやらんやつあたしは好かんっ」

 ふんっ、と鼻鳴らす小澤さん。の横で私顔赤くして咳払いする。

「あー宮沢さんまっじでかーわいーおれあのハチマキになりてえー」

 おっと。

 沸点に触れそうな台詞が。

 誰。

「たーなべぇええっ」

 ほら案の定鬼の形相ですよ。

「足はええしかわえーしどっかのうるせーババアとおーちがいー」

「ぬわんやとぉっ。あんっな軽い女のどこがいいんっ」

「真咲ぃー遊びに来たよぉーっ」

 このタイミングで。

 私だけじゃなくって田辺くん小澤さん戻ってきた田代くんまでも凝固。

「さ、紗優……」

 改めて見ると紗優って。

 顔すっぴんで頭ちょんまげにしててジャージの裾七分丈に折りあげててTシャツの表に『宮沢』ってでっかく名札のついたダサいジャージ姿であっても。

 美少女アイドルのコスプレ以上に美しかった。

 肩落としてビニールシート出てく田辺くん。座る、……小澤さん。「ここ座っていい?」「えーよ」と空けてあげてる。

 譲られたスペースに横座りすると紗優、

「軽いっつうんは言い過ぎ。あたしはいつでも真剣なんやから」

 怒ったりなじったりではなく、色っぽく微笑する。……私が男子なら骨抜きだ。

「あんたの真剣は一生のうちに何回あるんや」で小澤さんそのあぐらかいて片膝立てて肘つく座り方。戦国武将だよ。さかづき置いてたら完全だよ。そんなポーズに釣られてか紗優、「光源氏やていつでも真剣やってんよ」

 ……架空の人物の名を出す。

「それに、好きになれるうちが女の華。小澤ていま恋しとらんの?」

 紗優、声でっかい。ところで私グラウンドに背を向けてる。

「あんたアホか。ったくつき合っとられんわ」

 そう言いつつも小澤さん。応援忘れて対話する意欲があるらしい。訊いてもええか、と断った上で声を潜める。「……どこがよかったん。東工とうこうの香川。手癖悪いって有名やったがいねあいつ」

 東工とはこの近くの工業高校。馬鹿ばっかとクラスの誰かが言っていた。

「んーあたしの信念は、終わった恋にも誇りを持つことやからなー」誇り? とおうむ返しする小澤さんを見て前髪を流し、

「だって。別れたからって嫌いになろうとは思わん。好きやからつき合うんよ。元彼をボロクソ言うんは選んだ自分を蔑むことやわ。女として恥ずかしい」

 ……紗優。

 どこでそんな恋愛哲学を。

 なんせ私はそこまでの深い経験をしていない。嫌うほどに関わったことがない。小澤さんも同感なのかはあ、と気の抜けた声を出す。

「誰やっていいとこも悪いとこもあるやろ? 要はどこを見るかなんよ」紗優が私に気づいて目だけで微笑む。「小澤やて好みでもない男に惚れたことないん? タイプやなくってもきっかけさえあれば惚れられるもんなんよ?」

『天国と地獄』をBGMにガールズトーク。どどどどっと足音がすごい。

「……きっかけねえ」

「あんた一目惚れもしたことないん」

 きぃん、と上空で飛行機が飛ぶ。

「ないわないない。あんたっていぃつもそんなことしか考えとらんがか」

「でもないよ。やけど夢見るんは自由やろ。乙女の特権。……なんっかこんな話しとったら彼氏欲しなってきた。あードラマみたいな恋したーい偶然重なりまくる恋がしたーい! もーさ、東工も緑高も知っとる男ばっかでつまらんよ」

 二人は、見ていない。

 とおい雲に細い筋が走るのを。

 ちら、ちら、となにかの合図みたく光る点。

 太陽を求めるイカロス。

 轟音も周囲の変化も忘れさす乙女たちの憧れ。

 私だって。

 誰かに攫われる恋とか、近づいて溶かされる想い。導線が焼き切れる熱愛、――できるものならばしてみたい。

「ドラマみたいってどういうん。街で見かけたかっこいいやつが同じ学校の転校生でその後同じクラスで再会するとか? ほんでそいつと同居するようなるってやつ?」

 小澤さん絶対少女漫画読み込んでる。

「いいねーピンチになったとこ必ず助けに入る男。倒れたとこ介抱するとかされてみたいわぁー」

 なにげなくひかりと影の行方を追った、

 つもりだった。

「人一倍頑丈やからあたしそういうんないんよ。いっぺんでも集会倒れるんしてみたいんけど」

「あたしもー。お互い辛いなあー。この場で一番それ近いっつうたら、」

 一点をとらえて。

 逃せなくなった。

「ちょっと。ごめん私トイレ行ってくるっ」

 スニーカー履ききらないままに駆け出す。

 え、なに、って戸惑った紗優、あんたこのあと騎馬戦あんねやからとっとと戻ってきいやって小澤さんが叫ぶのを置いてきぼりにして。

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