その後の話 彼女と作者、彼と主人公
「⸺これで、夢は終わったな」
家出をしたあの日、秘密基地で寝た時から見始めた物語。その物語に勇気を貰い、次の日家に帰ったら親が二人とも抱き締めてくれた。
その後は、私の進路に必要以上の言葉を言う事は無かった。多分親は、周りのレベルに合わせようとし過ぎていたのだ。そんなレベルなんて、子供に付き合わせるのは違う。
家出した日から、三日に一回の頻度で物語の続きを見るようになった。中学時代はそれらを書き留めておくだけだったが、高校時代にふと思い立ち、物語を小説投稿サイトにUPしてみた。
それが、私の予想以上に周りにウケた。あれよあれよと言う間に書籍化に漫画化、アニメ化やゲームにまでなってしまった。
物語は、高校卒業時点で終わっていた。だけどここ一年程、別の夢を見るようになった。あの日家出をした私が、物語の中にいる夢。
それは、私が最初に見ていた夢よりも自由に動けたし、夢の中の私の考えがスッと頭に入ってきていた。だからちょっと最近は、二次元にガチ恋するオタクの気持ちが分かるようになって来た。
「しっかし……私よ、消えた後も見せてくれたっていいじゃないか」
全く、私の癖に視点主が消えたらプッツリと物語を終わらせやがって。こういうのは、残された奴のこれからを書いてから終わるものだろうが。
夢の終わり方に文句を言いながら朝食の準備をしていると、インターフォンが鳴った。こんな時間に誰だと思いながら誰かと尋ねると、いつも世話になっている編集者の声だった。どうも聞きたいことがあり、時間に余裕があったので直接来たらしい。
まぁ確かに、忘れかけていたが10時というのは立派な仕事時間だったな。それを思い出し、立ち入りを許可する。鍵は開けておくと伝え朝食の準備に戻る。
………扉の開閉音が聞こえたので、何の用かと尋ねるが返事は無い。
不思議に思い、玄関へ向かうがそこには靴が一足だけ。鍵は掛かっている。急な腹痛でも来たのかと思い洗面所に向かおうと振り返った瞬間⸺誰かに抱き締められた。
「イグサっ!!!」
聞き覚えの無い男の声だ。編集者は女性だし、こんなスキンシップの激しいタイプじゃないから、有り得ないであろう性別転換の可能性はない。それに私のことはペンネームで呼ぶし。
というか、何も見えない。コイツデカい……いや、私がチビ過ぎるだけか。結局、150にギリいけなかったからなぁ……⸺じゃなくて。
「お前誰だ!? 流石の私でも通報するぞ!?」
無理くり顔を上げ、男の顔を見ながらそう言う。やっぱり、見覚えの無い顔。
「あぁ、そっか。俺だって分からないよね……俺だよイグサ、クラークだ」
「………は?」
嘘だ。お前が此処に居るはずないだろう? お前は夢の中の、物語の中の人物でしかないのだから。自認クラークの異常者以外何者でもな……⸺いや待て、私の名前? おかしい。百歩譲って自認クラークの異常者で私の事を調べたとしても、私の名前を呼んで親しげに接するのはおかしい筈だ。
何せ、ここ一年で見た夢は私の中に留めているのだから。何処にも、誰にも言った事は無い……筈だ。
「イグサが消えてから、アルケが取得していたイグサの記憶、全部見た。その後、銀河警察を脅……⸺協力してもらって、銀河警察の権力で名だたる知識人や技術屋を集めて、逆行転生装置と記憶転送装置を作ってもらったんだ」
………この男、今なんて言った?
銀河警察を脅した? 逆行転生?? 記憶転送???
「ちょっと俺が知ってるイグサより時間がズレたけど……その分のイグサの事はイグサが教えてくれるよね?」
「ま、待て。私には何がなんだか……⸺」
「⸺イグサ。今度は、永遠に逃がさないから」
そう耳元で囁かれて、ガチ恋勢の夢を叶えたならいいやって思い深く考えることを止めた。




