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やり直し

あの子に「好きだ」と伝えた。


『ちょっと考えさせてください』


その瞬間、頭が真っ白になった。

常に何かしらを考えているような自分だが、その時に人生で初めて思考がストップした気がした。


世間一般には、保留は断られることと同義らしい。俺もそれは肌感で感じていた。


家に帰ってからは次の出会いがあると言い聞かせてみるも、あの子への思いが理性を上回る。


人はよく、振られた後の慰めに異性は星の数ほどいるとか曰うが、俺の見る夜空に輝くのはたった一つの星だけ。それ以外はただの空に浮かぶ粗大ゴミだ。


あの子に伝えたのは「好きだ」の一言だけ。もっと伝えたいことがたくさんある。なんで好きになったのかだって、俺がどんな思いでこの一年過ごしてきたのかも。何も伝えられていないじゃないか。


好きだ!君が好きだ!俺はまだ君のことなんて全然知らない!俺のことも知ってもらえてない!だから!もっと知りたいし、知ってほしい!俺には君しかいない!君以外見えない。見たくもない!


もう終わりたい。

全てを終わらせて楽になろう。


俺は枕元の携帯を手に取った。


「もしもし。返事、聞かせてくれないかな」


「うん。ごめんなさい。私、先輩とは付き合えないです」


「そっか。話してくれてありがとう。それじゃあね」


俺はベッドから立ち上がり、ベランダに出た。


「死んだら、やり直せるかな」


そして夜の街中に、鈍い音が響いた。



目を開けると、そこはどこかの教室だった。

教師が前で板書をしていて、周りの人間たちも、それに合わせてノートに筆を走らせる。


ここ、高校か?


走馬灯というやつだろうか。嫌なものを見せやがって。ここには何の思い出もないというのに。


「ここ、テストに出るからなー」


ポケットの携帯で日付を見れば、2021年 7月3日。

高校二年の頃の記憶ということか。


いや待て。これは俺の記憶のはずだよな?

でも、なんで着ている制服が違うんだ?俺の高校は学ランだった。なんでブラザーなんて着ているんだ。おかしい、何かが違う。


違和感は他にもある。高二の夏だというのに、なぜ今さら二次関数の基礎を授業で取り扱っているんだ。教科書が数Ⅰだ。


周りにもほとんど知っている奴がいない。高校時代のクラスメイトが一人も見当たらない。いや、そんなはずはない。これは走馬灯なんだ。だから、いるはず。誰か知り合いは…。


「な、なんで…」


なんで、君がここにいるんだ。


窓際の俺の席から離れた対岸の廊下側の席。そこに少し幼いあの子が座っていた。


俺があの子と知り合ったのは間違いなく大学だ。彼女は俺の一つ下で、俺の高校とは別の隣の市の高校に通っていた。これは一体…。


俺は不思議とこのあり得ない状況に高揚していた。


これから始まるのはただのやり直しではない。違う世界線からのやり直しだ。



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