プロローグ:蒐集家(コレクター)たちの告白
我々は、飽いていた。
金で買えるものは、残らず買った。権力という名の粘土は、こねくり回しすぎて、もう何の形も作れなくなった。地球の裏側で、一夜だけ咲いて枯れる花の蜜を啜り、歴史の闇に消えた王族の宝石をサイコロ代わりに転がした。法も、倫理も、我々がソファに凭れるのを邪魔する、埃をかぶった調度品でしかなかった。
全てを手に入れた者の終着点は、神の領域などではない。 神の玉座によく似た、無限の退屈という名の、生温かい泥沼だ。 退屈は、上質なシルクのシーツの下で、気づかれぬままゆっくりと腐っていく死体のように、我々の精神の臓腑を蝕んでいった。
そんな虚無の井戸の底で、我々は最後の娯楽を見つけ出した。 それは、他人の人生だ。
最初は、古びた革表紙の匂いがする伝記や、勝者が都合よく塗り替えた歴史書を貪った。英雄の栄光、革命家の情熱、芸術家の狂気。だが、それらもすぐに色褪せた。文字や映像は、しょせん他人事だ。我々が本当に味わいたいのは、当事者の魂が、その人生をしゃぶり尽くした、生の体験そのものだったのだ。
渇望は、やがて信仰になった。 我々が欲しいのは、他人の五感。 初めて恋に落ちた瞬間の、心臓が喉から飛び出るような、あの甘い窒息感。 全てを失った夜に、アスファルトを叩いた雨の匂いと、奥歯を噛み締めた時の血の味。 祝福された裏切り。甘美な絶望。取るに足らない、しかし当人にとっては世界の全てだった、幸福の手触り。 それら生の「記憶」を、加工されていない一次情報として、自らの神経に直接接続し、追体験すること。 神ですら手を染めなかった、聖なる冒涜であり、至高の芸術鑑賞。
その信仰が、我々を『蒐集家』に変えた。
我々は、最高の「物語」を世界中から探し始めた。 持ち主の魂の形を写し取った、唯一無二の芸術品。社会的な成功やスペックなど、どうでもいい。我々が求めるのは、物語の深さ、希少性、そして、我々の乾ききった心を震わせるほどの、劇的なる煌めきだ。
そして今宵、選りすぐりの十二の「物語」が、このギャラリーに集められた。 これから始まるのは、彼ら自身を、彼らの人生そのものを競売にかける、魂の品評会。 彼らは知る由もない。自らが、我々のコレクションに加わるための「商品」であり、同時に、我々を楽しませるための「作品」であることを。
さあ、幕を開けよう。 最も価値ある人生は、誰の物語か。
――ところで、これを読んでいるあなた。 あなたの人生には、一体いくらの値がつく?




