愛した貴女にさよならを。
前作『貴女の心は在ったのに』
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『愛した貴方にさよならを。』
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ルミナス視点
――遠くに聞こえる船の汽笛。
あれから5年。
私は、ある港町に来ていた。
人を、
ルミナスを探す為だ。
私は宰相だった為、なかなか自分で動くということは出来なかったが、ルミナスが出ていった頃から、少しずつ私がいなくても仕事が回るように調整を始めた。
そしてその間に探偵や私兵を使い、ルミナスの行き先を調べた。
その結果、どうやらルミナスらしき人物がこの港町にいる可能性が高いという報告を受け、会いにきた。
不思議な話で、ルミナスが側にいる時はそんな事は微塵もなかったのに、いなくなってから、ルミナスの事を思い出す事がどんどん増えていった。
失ってからこんなにも想っていた事に気づいた。
――当たり前では、なかったのに。
ルミナスがいなくなってしばらくは、貴族として、宰相としての忙しさだけが、私から全てを忘れさせてくれる唯一の時間だった。
だから、そんな忙しさが当時の私にはとてもありがたかった。
余程生気のない顔をしていたのか、職場、同僚、全ての方面から心配されたが、仕事だけが世界に必要とされていると思える時間だったのだ。
3年程経った頃だろうか。
もうルミナスを探すのを止めようとしていた時期に、
ある港町にいるかも知れないという報告を受けた。
その頃の私は早く会いに行きたい気持ちもあったが、
もし居なかったら…?
拒絶されたら…?
そう思うとなかなか会いに行く勇気が出なかった。
――でも今日、
例えどんな結末になったとしても向き合おう。
そう決意してこの港町に来た。
五年も経っていて未練がましいかもしれないが、ルミナスの事を忘れた日など一日も無かった。
だが、ルミナスはなかなか見つからなかった。
特徴を伝え人に尋ねても、誰も彼も、そんな人は知らないの一点張りだった。
やはりいないのか、
諦めるしかないのか、
少し身体を休める為に、噴水のある広場で休んでいる時だった。
俄に騒がしくなる広場。
どうやら噴水を挟んだ向こう側で何か起こっているらしい。
少しだけ、聞こえてくる会話。
『釣り合わないかもしれない。』
『俺の知らない誰かを映している時が――』
『愛しているッ!!』
『過去を気にしないくらい、思い出せないくらいに――』
聞く気は無いとはいえ、他人の色恋沙汰を聞いているのは、あまり褒められた行為ではない。
立ち去ろうとした。
その時。
『――だから俺を選んでくれ。ルミナスッ…!』
――耳を疑った。
いや、そんな馬鹿な。
聞き間違いだ。
違う。違うはずだ。
心臓が早鐘を打つ。
呼吸が浅くなる。
目眩がする。
見ちゃだめだ。
脳が警告する。
身体が拒否する。
恐る恐る奥を見る。
「――こんな私でよければ、よろしくお願いしますッ…!!」
それは、
それは間違いなく。
――私が追い求めていた人だった。
思わず口から出た。
「ルミナス――」
最後まで言葉にはならなかった。
彼女のこれからの幸せを奪ってはいけない。
ルミナスは、
彼女は、
前に、
進んだのだ。
まるで彼らを祝福するかのように、噴水が虹を咲かせている広場で。
――嗚呼。
これは罰だ。
懺悔と後悔の日々を送らせた。
20年、彼女の人生を奪った。
きっとこれからも、罪の意識は、ずっと抱える。
誰と居ても、
何をしていても、
許されたと、思うことは無い。
犯した過ちは消えない。
きっと一生苦しむのだろう。
一生償うのだろう。
――ルミナスは、違う。
もう、彼女は、後ろは振り返らない。
過去も、
罪も、
何もかもを全部背負って
前に進むことを決めたのだ。
私とは、違う。
その覚悟を、
想いを、
踏みにじる事など、出来ない。
だから、
だから――
ルミナス、
愛して、いたよ。
さよなら。