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第29話 謎の金庫を見つけました

 兵士達が廃墟となった領主の屋敷跡を探索、解体している。

 解体作業に従事している兵士は五人。二階建ての屋敷を取り壊すには心もとないが……不思議なほどに作業は順調に進んでいた。


「すごいね……みんな、働き者だ」


 解体されていく廃墟を見上げて、ウィルフレッドが感嘆の声を漏らす。

 五人はとてもスムーズに建物を壊している。

 この調子ならば、二、三日で建物を完全に壊すことができるだろう。


「さすがは王宮の兵士ですね。こんなこともできるなんて驚きです」


 ウィルフレッドの横でそんなことを言うアンリエッサであったが……彼女はそのカラクリを知っていた。

 五人の兵士達は本来の魂を奪われ、代わりに適当な死霊が肉体に入って操っている。

 厳密にいうのであれば、人間ではなくアンデッド。前世の日本において『屍鬼(しき)』や『僵屍(きょうし)』と呼ばれる存在となっていた。

 本来の持ち主ではないがゆえに身体能力を限界まで引き出すことができ、人間を超えたパワーを発揮することができるのだ。


「僕も手伝いたいけど……足手まといだよね」


 ウィルフレッドが自分の両手を見下ろして、わずかに悲しそうな顔になる。

 まだ十二歳。病気が治ったばかりで身体も小さく細いウィルフレッドでは、解体作業の邪魔にしかならないだろう。


「適材適所ですよ、ウィル様。私達は自分達の仕事をしましょうか」


 兵士達が働いている場所から少し離れたところで、アンリエッサとウィルフレッドは書類の確認作業をしている。

 解体している領主の屋敷跡から、古い書類が大量に出てきたのだ。

 どれも少なくとも三年以上前のもの。それまではこの屋敷に代官が住んでいて、仕事をしていたということになる。


「資料を見る限り……この土地にはほとんど税収がなかったみたいだね。事実上、見放された土地のようだ」


 かつては金の産地として栄えていたゴールドリヴァーであったが、鉱山が枯渇してからは寂れる一方のようだ。

 若者は出ていき、人口は減り、農地に向かない土地のために麦などの生産能力も低くて税収は少ない。

 そのため、この土地は領民に対する税金もかなりの額が免除されているようだ。


「税金が免除されていたとしても、ここに住みたいという人は少ないでしょうね。ろくに収入のない土地ですから」


「そうだね……この土地を立て直すとすると、新しい収入源が必要みたいだ……」


 ウィルフレッドが書類とにらめっこをしながら、難しい表情になる。


「それにしても……ウィル様は書類の理解が早いですね。政務にはついていなかったのに」


 アンリエッサが意外そうに言う。

 もちろん、あなどっていたわけではない。

 しかし、十二歳の少年。おまけにずっとベッドの上で生活していたウィルフレッドが、運び出されてきた書類を読み解くことができているのが意外だった。


「ああ、うん。ベッドでやることがなかったからね。勉強だけはしっかりとやっていたんだ」


 ウィルフレッドが苦笑しながら答えた。


「バートンには止められていたけど……いつまでも何もできないままでは、いたくなかったから。その努力が今日、役に立って嬉しいよ」


「……そうですね」


 努力が報われるのは嬉しいものだ。

 報われなければいけない……ひたむきなこの少年の想いが実らないだなんて、そんな世界は間違っている。


(それを邪魔する人間が、ウィル様の前に立ちはだかる人間がいるのなら、この私が……)


「ウィルフレッド殿下、地下室からこんな物が出てきました」


 アンリエッサがフツフツと黒い感情を燃やしていると、兵士が二人がかりで金属の塊を運んできた。

 ドシリと地面に置かれたそれは金庫のようだった。


「それは?」


「床板を剥がしていたところ、地下に隠し部屋があったんです。そこにこの金庫が……」


「代官が隠していたのかな……?」


 ウィルフレッドが金庫に触れて、開けようとするが……鍵がかかっていて開かない。


「ダメだ、開きそうもないよ。誰か専門家に任せて……」


「あ、開きましたよ」


 しかし、アンリエッサがそれに触れるとあっさりと開いた。

 鍵穴から細い蛇の式神を潜り込ませて、こじ開けたのである。


「え、開いたの? 僕が引っ張っても開かなかったのに……?」


「たぶん、何か引っかかっていたんだと思いますよ。最初から鍵はかかっていなかったみたいです」


「ああ、なるほど」


 アンリエッサの言い訳に納得して、ウィルフレッドが金庫の中を覗き込む。


「これは……帳簿かな?」


 それは紙の束。まとめられた帳簿だった。

 他の資料の中にも帳簿らしき書類はあったのだが……どうして、これだけ金庫の中に隠されていたのだろう。


「他にも何かありますよ? これは……ビンですかね?」


 さらに、アンリエッサが金庫の奥から小さな便を発見する。

 掌に収まるサイズのビンの中には赤い小石が入っていた。


「おそらく、この領地を任せられていた代官の物だと思うけど……?」


 隠していた理由がわからない。

 ついでに、ビンに入った赤い小石の正体も。


「よくわかりませんけど……何というか、嫌な感じですね……」


 アンリエッサが眉をひそめる。

 呪術師であるアンリエッサの目には……帳簿とビンの周りに黒いモヤ、呪いの念がまとわりついていることが見えていた。


「調べてみる必要がありますね……これらについて」


 鬼が出るか蛇が出るか。

 もしかすると……代官がいなくなっていることに関係しているのかもしれない。


「…………」


 そんな彼らのことを物陰から見つめている目があったのだが、アンリエッサとウィルフレッドはそのことに気がついていなかったのである。


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